3.後編

「次はこいつで決まりだね」


 次なる愚か者を選定した後、あたしは深くフードを被って街へ出て行く。

 もちろん、宝玉を隠し持ってね。


 今から会いに行く男の名は、シュバインと言ったか。

 そう、忘れもしないあの時の事さ。


 ◇


「勇者様、突然呼び寄せてしまい申し訳ありません。お初にお目にかかります。私はラーナ・エルフィオーネと申します」

「君が僕を……それで僕のような貴族が、なぜこの様な薄汚い所へ呼び出されたのかな?」


 肩まで伸びた金髪に鮮やかな青い瞳、スタイルの良いエルフの男が言った。

 あたしは勇者へ毎回同じみの話をする。


「どうか私たちの世界を救っていただきたいのです」


 すると男は、「ふっ」と笑みを浮かべて答える。


「僕に任せておけばいい。君は幸運だよ。僕はシュバイン・バーネハルト・レイニクス。皆からは英雄シュバインと呼ばれている者さ」


 この時だ。

 英雄という肩書きに、あたしだけでなく、サリエル卿や兵士たちも一緒になって喜んでしまった。


 その後、魔王討伐のため、この男に様々な情報を伝えると潔く承諾してもらえた。


「分かったよ。ただ……そのためには、まず準備が必要だね。旅に必要になる物を購入したいから、まずは金貨や装備をもらえないかな?」


 世界が違うと貨幣も違う。

 旅には金が付きものだ。

 さすがにこちらも用意はしているし、無一文で旅立たせようとは思っていない。


 ただ、装備は背中の弓と腰に差した短剣、豪華な防具を身につけていたから不要ではないかと思ったが、心許ないからと、国王陛下直々に王家に伝わる伝説の剣や鎧を渡された。


 それから一月後、エルフが王都へ戻って来たと連絡が来た。

 あまりにも早い帰還。

 不思議に思い、あたしは男に問いかけた。


「あの、もう魔王領からお戻りになられたのですか?」

「あぁそうさ。魔王を追い詰めたんだけど、後少しの所で逃げられてしまったよ」


 これにはさすがに驚かされた。

 あの魔王を追い詰めたんだからね。

 あたしは話を続けた。


「ではどこへ逃げたのですか? 深手を負った魔王相手であれば、王国騎士隊のみなさんでも倒せるかもしれません」

「どこに逃げたか何て分からないよ。ほら、僕もこの通り大きな傷を負わされたからね。とてもじゃないけど追いかけたくとも体が動かなかったんだよ」


 確かに男の体は包帯で巻かれていた。

 その時。サリエル卿が気を利かし、男の体を治そうとする。

 

「それでは、わたしがシュバイン様の体を癒してあげましょう」

「いや回復魔法は不要さ。元より僕に魔法は効かないんだ。何せ魔法を無効化する力があるからね」


 あたしに与えられた唯一の力である勇者召喚は、単に異世界から呼び寄せるだけでは無く、より強力な力が備わった者だけを召喚できる。


 男に魔法無効化の力があり、回復魔法をわざわざ拒絶しても不思議では無かったが、勇者召喚も魔法の一つ。

 魔法無効化が本当だとすると、あたしの召喚魔法すら弾かれてしまうはずさ。

 本当は怪我をしていない事がバレたくないからではと、あたしは考えた。


「魔法無効化ですか。それはとても強力なスキルをお持ちなのですね。それではこちらのポーションをお飲み下さい」

「あー、だから大丈夫なのさ。僕の体はポーション程度では癒せないからね」

「いえ、そう言わずに飲んでみて下さい。こちらは王都の最上級のハイポーションですから…」「だからいらないと言っているんだッ! 何度も言わせるな」


 心配して無理に言ったからか、怒らせてしまった。

 この時は何も言い返せなかったが、足を引きずりながらここへ来たはずが、早足で帰って行った。

 やはり男は元より無傷だったのさ。


 結局の所、あたしたちは騙されただけ。人の弱みを握り、金銭を奪い取って他国で遊び、金が無くなって舞い戻って来ただけだった。


 真相を知ったあたしは、再び男が泊まる宿へ向かった。


「シュバイン様、やはり魔王討伐に向かわれたのでは無かったのですね?」

「おいおい何を言うのさ。僕は確かに向かったさ。ただ、道中で立ち寄った街がとても楽しかったんだよ。時間を忘れてつい遊んでしまったけどね。でも今度こそ本当に向かうよ。僕には力がある。何せ英雄だからね」


 男はそう言ったものの、ベッドに寝転がったまま、不敵な笑みを浮かべながら言った。

 そんな男を見て、あたしは男を試すことにした。


「シュバイン・バーネハルト・レイニクス、あなたが魔王を倒せるのかどうか、力を見せてくれますか?」

「ほう、僕を試すつもりかい? そんな必要なんて無いけど、まぁいいよ。それでどうやって試すんだい?」


 簡単な事だった。

 あたしをいつも守っている兵士と戦ってもらう事にしたのさ。


「「「「「ま、参りました……」」」」」

「ふっ、何人いようが僕には勝てないよ。だから言っただろ? 僕を試す必要なんて無いってさ」


 十人の兵士たちを瞬く間に倒して見せた男は、勇者としての実力は確かに持っていた。

 ただそれだけで十分では無いのも分かっている。


「このままでは世界は滅びてしまいます。それほどのお力があるのでしたら、どうか助けてほしいのです」


 男はうんざりしたようにため息をつく。


「ハァ……それが僕にものを頼む態度なのかい? そうだ、わざわざ僕が倒さなくてもいいんじゃないかな? 他を当たってくれよ」


 あたしは怒りを抑えながら言った。


「他の方たちでは魔王を討ち倒すことはできません。ですから勇者であるシュバイン様にお願いしているのです」

「――分かったよ。今度こそ魔王とやらを倒してあげるよ」


 こうして男は勇者としての使命を受け入れ、そして一月が経った頃、男はまた帰って来た。

 この時ばかりはあたしだけでなく、サリエル卿や陛下までもお怒りだった。


「君たちは誤解しているようだね。僕は逃げて帰って来たわけでは無く、共に戦える仲間を探していただけさ。そう、僕をサポートするに相応しい仲間が見つからなくてね」


 出会って早々、男に仲間は必要無いと言われていたが、まさか今になって言ってくるとは思わなかったね。


「それでは、どの様な方をお探しなのですか?」

「そうだね、前衛に盾となる戦士、後衛に援護してくれる魔法使い。それと回復魔法を使える僧侶かな。でも、そんな優秀なやつはいなかったけどね」

「それでは仲間が揃わなければ魔王討伐には向かわないと仰るのですね?」

「あぁ、そういう事だね」

「最初に申しました通り、今やシュバイン様をサポートできるほどの方は残っておりません」

「そうかい。そういうことであれば、僕一人では無理だね。他を当たってくれ」


 この後、あたしたちはこの男に見切りを付けた。

 男は元より行く気など無かったと、町の酒場から話が流れ、実力はあるものの英雄などでは無く、ただの詐欺師だったと教えてもらった。


 そんな詐欺師に制裁を与える時が来た。

 あたしたちを欺いた罪は重い。

 男には極刑を与えねばならない。


「シュバイン様に御用がありまして、久方ぶりに会いに来ました」

「君は聖女ラーナか。今さら魔王を討伐してくれとは言わないよね。何を言いに来たのさ?」

「いえ、何も言うことはありません」

「はっはっは。何も言うことが無いのなら、何のために来たのさ? さ、帰りたまえ。そして僕に二度と近付かないでくれ」

「えぇ、何も言うことは無いと言いましたが、用が済めば二度と近付くことはありません」

「ふ、まさか僕を勾留しようなんて思って無いよね?」

「勾留ですか? いえそんな甘いことはしませんよ」


 あたしは宝玉を掲げると、心の中で願いを伝える。


「甘いことはしないだと? 君如きが一体何をすると言うんだい?」


 嘘を吐く詐欺師には、まず痛い目を見てもらう。


「まず、貴様の様なクソエルフの歯は全部抜いてやる」

「誰がクソエルフだと?」

「その場から一歩も動かず、口を開けろ」

「誰に向かって……う、動けないだと…………」

「クソもやれば出来るじゃねえか。ほら、そのまま口を開けたままにしておけよ。今お前の剣で喋れなくしてやるからよ」

「ほ、本当にそんなことをするつもりは無いだろ? や、やめ……やめろッ!」

「まず一本目な」


 あたしは軽く剣を男の口に目掛けて刺す。

 「ズシャッ」という音と共に、口から大量の血を流した。


「うごおおああああぁッ!」

「悪い、剣がでけえから何本もえぐり取ってしまったな。ま、いいか。どうせ全部抜くんだ」


 あたしは再びクソエルフの口に剣を突っ込む。


「うごおおああああああああああぁッッ……!!!」

「これで全部抜けたな。クソジジイみたいでよく似合ってるぞ」

「や、やめ、やめへ……」

「それじゃ、次はその舌がいらねえな」


 こうなってしまっては、男はあたしの操り人形みたいなものさ。のたうち回ることすら出来ないまま、大きく口を開けて舌を出した。

 あたしはそのまま男の舌を切り落とす。


「うごおおおおおおあああああああああぁッッ!!!」


 少しは苦しんでくれるといいね。

 ま、これで嘘は言えなくなっただが、このクソエルフは心根が悪いからね。

 詐欺師の心は腐ってるも同義。


「おい、クソエルフ。最後に言い残す言葉は無いのかい? って話せないのだったね」


 ほら、今楽にしてやる。


「や、やめ……やめへ……やめ、くはさい…………」

「はっはっはっ! クズはクズらしく地べたを這いずり回って死ねばいいのさ。さようなら、英雄のシュバイン・バーネハルト・レイニクスさん」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁッッ!!!」


 ふぅ〜、スッキリしました。

 やはり、クソは流すのが一番良いですね。

 このまま残りのクソ共を始末してやる。


 拒否する者には鉄槌を。

 敵対する者には極刑を。

 裏切り者には断罪を。


「愚か者たちには制裁あるのみです!」



 〜Fin〜

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【完結】異世界聖女のお役目 〜今日も勇者を召喚していますが、いつまで経っても旅立ってくれないので制裁を下すことにしました〜 上下サユウ @TamanJi

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