第17話 閑話休題

 わんこには難しい事が分からない。

 人間の前世、そして魂があるとはいえ脳みそがちっちゃいのでそこまで複雑な事は考えられないらしい。

 むしろどうして今もなお人間らしい思考が出来ているのか、そちらの方が不思議である。

 ハルという第二の名前、大型な雑種犬。

 俺は草木家の飼い犬であり、草木優菜の飼い犬である。

 それは前提条件、そしてそこから物事を考えなくてはならないのだ。


「ハルー」


 難しい事は考えられないから、だから物事をフラットな目線で考え脳みそで理解していく必要がある。

 現状――俺は一体何をすれば良いのか。


「ハルくーん?」


 ……なんか、わしゃわしゃと頭をかき交ぜられている。

 おおう、優菜がしっかりとブラッシングしてくれた毛並みがどんどん乱れていってしまう。

 気持ちが良い、もっと撫でれ。


「な、なんかヒナ姉さんに凄く懐いている……?」

「いや、あれむしろテクニックにメロメロって感じでしょ」

「あんな気持ちが良さそうなハル、見た事ない……」

「あれ、もしかして嫉妬?」

「ち、違いますっ」


 何やら遠くで優菜とルカなるものが話しているのが聞こえた気がしたが、ぶっちゃけ今の俺には難しい事が分からん。

 わんこだからな。

 という訳で、もっと撫でれ。


「ほーれ、わしわしわしわし。ハルくーん、ここが良いのかしら~?」

「むぅ」


 と、しばらくそのように撫でられた後に俺はそのヒナなるものから解放される。

 まったく、大変だったぜ。

 もっと撫でなくて良いんか俺は別に気にはせぬが。


「いやー、ハル君本当に賢いのね。普通は初対面の人間がこんなにベタベタ触れたら怒りそうなものだと思ってたけど」

「普通に人懐こい子なんじゃなーい?」

「ど、どっちもですよ。ほらっ、ハル? 撫でて上げるからこっちに来て?」


 うーん、なんか優菜の声が聞こえるな。

 って、待て待てこれはビーフジャーキーの匂い?

 おやつだおやつだなんでおやつの匂いがする?


「って、ルカ姉さんなんでビーフジャーキーなんてものを取り出しているっていうかなんでそんなものを持っているのですかっ!?」

「ははは! ほーれ近こうよれー」

「なんかうっとりした表情で吸い寄せられてるわね……」


 はっ、待て待てここでおやつを食べたら夕食が食べられなくなってしまう。

 我慢我慢……


「あ、我に返ったみたいね」

「ちぇっ、残念」

「は、ハル? 嘘……だよね? ほ、ほらこっちに来て……?」


 優菜の声が聞こえる。

 うー、でもなんか眠くなってきたな。

 ここでひとまず眠りたい気持ちが湧いてきたが、しかし客人が目の前にいるのだここで眠る訳にはいかない。


「って、なんか寝てるし」

「あらカワイイ」

「ハル……ッッッッ!!!!」


 ていうか、そもそもどうしてこんな状況になってるんだ?

 草木家に優菜の友達が、ていうか以前出会った二人が現れたという事は分かっているけど、果たしてどのような要件で現れたのだろうか?


「いやー、一目見て普通の毛玉じゃない事は見抜いていたけど、本当にカワイイわねー。暇だったからって理由もあったけど、来て良かったわ」

「ビーフジャーキー、起きたら食べるかな?」

「お、おやつ上げないでください太っちゃいますからっ!!」

「ユナちー、顔を怖くしたいんだろうけど元が美少女だから全然怖くないよ?」

「……!!!!」

「ぶちゃいく顔もかわいー」


 ……はっ、うっかりうとうとしてたが何とか我に返った。

 しゃっきとせねば。


「何か格好つけてるわね」

「カワイイ」

「は、ハルぅ……」


 で、結局三人が一堂に会しているのはなんでなんだ?


「ほーれ。わしわしー」

「わしわしー」

「わ、わしわしっ」


 な、なんだぁいきなり三人にもみくちゃにされるっ?



 それなら、もっと!


 撫でれっ!!!!

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