第16話 散歩
俺はまあ犬だからこそ毎日運動として優菜と一緒に散歩に向かう訳だが――いや、向かう訳だがと他人事のように言っているが、実際のところ言うと彼女との散歩はかなり好きだ。
彼女との散歩ももう何年も続けているのでもう道に関してはすべて歩き慣れているものの、しかしながら決して飽きるという事は全くなかった。
多分、死ぬまで。
この身が老いて歩く事も困難になるところまで俺は彼女と散歩を続けるだろうし、続けたいと思っている。
しかしながら彼女の境遇、というか彼女が現在行っている事を知った今だと、我儘を言うようにリードを加えて彼女の元へと向かうのは少し抵抗がある、産まれる様になってしまった。
なにせ彼女は配信者。
何となく外にファンがいて遭遇するのはあまりよろしくないような気がする。
いや、どうなんだろう。
有名人だって犬を飼っている人はいるだろうが、そういう人達は犬との散歩日課をどのようにしているのだろうか?
人に任せているのか、はたまた普通に行っているのか。
そして何より、彼女は家にいるからといって部屋でくつろいでいる訳ではない事も分かった。
むしろ部屋に籠ってからが本番だし、むしろ家が職場みたいなものだという事が判明したのだ。
だとしたら、俺は彼女をゆっくりさせるためにお散歩をするのは控えるべきなのだろうか?
あるいは猫のように勝手に散歩する事を許してくれるのならば良いのだけど、うーん、何で犬って勝手に散歩をする事が許されていないのだろうか?
やはり獣として人を襲う可能性があるからだろうか。
「ハルー、散歩行くよ~」
わーい、行く行くー。
って、待てご主人よ先にトイレを済まさせてくれ。
犬になって羞恥心というものも変化したが、それでも外でトイレをするのは少し抵抗があるし、何よリ優菜の手を煩わせる訳にもいかないしな。
と言う訳で、犬用トイレで用を足してから準備が出来たぜと「ワン」と鳴く。
「……うん、お利口だね。私も先にトイレ行っておこっと」
そんな訳で彼女もトイレに前持って行き、それから早速散歩に行く事になった。
……青天、快晴。
気持ちの良い青空だ。
こんな日は空を見上げて欠伸をするに限る。
ふわー、としながら歩いていると、前方に何やら人影――いや、犬影を発見。
より正確に言うと、そいつは俺と同じく飼い主にリードを引かれている訳だが、相手も俺の存在に気付くなりいやらしいニヤニヤ顔を浮かべてくる。
「あ♡ ハルお兄ちゃん、今日もバカバカな表情をしているねぇ♡」
こ、このチワガキ……ッ。
相変わらずムカつく話し方して来るぜ。
チワワのルビィ。
割と最近からこの街にやって来たらしく、時々散歩の時に顔を合わせる事となる年下の犬。
チワワの癖に何故こうも俺の神経を逆撫でするような鳴き声で話しかけてくるんだよ。
俺が本気を出せば簡単に倒されるような奴なのだが、優菜の前だから吼える事も出来ない。
「……なんだよ」
「あは♡ ハルお兄ちゃんってば良い子さんだぁ♡ だけどそんな風に飼い主様の前では何も出来ない様子じゃ情けなさ過ぎてモテなさそ♡」
このメスイヌぅ……!
「まっ。もしハルお兄ちゃんに番が出来なかったら、ルビィがお嫁さんになって上げても良いからね♡」
「だっ、誰がお前なんかと!」
「あらら♡ 恥ずかしがっちゃって、かわい♡」
本当にこいつ、クソムカつく犬だなこいつは!
「……相変わらずこの子達仲良いね」
「ええ。鼻をお互いにくっつけ合って、その理由はちょっと分からないけど……」
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