第15話 いろいろな思惑

 わんこというかハルが呑気に尻尾を振り回している頃。

 いやまあ、その尻尾をぶんぶん振っているところは映像に映し出されてはいなかった訳だが。

 兎に角飼い主の優菜と一緒に生配信されていた彼。

 ……龍を屠り、龍を斬った。

 そもそも龍とは絶対的な存在であり、倒せないとか以前にまず出会って時点で生存出来る可能性も低いという一種の「死」の一つとされていたのだ。

 それに二回も遭遇し、そして倒した。

 そんな存在の事を社会は、人々は無視する事が出来ない。


 何より犬というところが問題をややこしくしていた。

 この社会において犬というものには当たり前だが「人権」はなく、かつ「犬権」みたいなものもない。

 基本的に所有物という枠組みに置かれているが故、彼は今のところ草木優菜のモノとして扱われている。

 だからこそ、「ややこしい」と共に「単純」だと考えている者もいるのは確かだった。

 即ち――ハルを買い取ろうとする者。


「あれは我々が所持してこそ真の価値が産まれるだろう」


 また、その存在を危険視する者。

 龍という絶対的強者をあっさり倒してしまったその存在を社会の一部に組み込んでいるのは危険だ、と。

 従順にしていてくれているのならば、むしろ従順である間に処分してしまった方が良いのではと考える者。


「あれは社会の敵、であるが故に駆逐しなければならない」


 そして、その存在を「神」とする者もいた。

 その黄金の剣、その輝きに魅入られ自らの存在理由を再確認する。

 絶対的強者を倒したその存在を新たなる絶対的強者と再定義し、その存在を崇め奉る事によって自らの存在理由にする者。


「ああ、ハル様。嗚呼ハル様。わたくしの輝き……!」


 どちらにせよ、現在ハルと呼ばれる犬――犬と定義して良いかどうかは人によって意見が異なるが、便宜上彼に関しては犬とする事にしよう――は、現在渦中の中心に座し人々を混乱の最中に叩きこもうとしていた。

 あるいは、そう。

 コップに様々な要素を注ぎ込み、そしてそれは今まさに溢れようとしている。

 

 ……その恐怖の大王みたいな扱いをされちゃっているハルは今、何をしているのかと言うと。







「ねえ、ハル? 大好きなオモチャなのは分かってたけど、噛みついてぶんぶん振り回して、それでずたずたにするのは違うと私は思うの」

「……」

「こっち見なさい」

「……」

「……おやつ抜きにするよ?」

「……!」

「い、いや。そんな申し訳なさそうな顔はしなくても……」


 飼い主の優菜にオモチャのぬいぐるみを破壊した件で説教を食らっているのだった。

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