第18話 悪い状況
レジェライブの『プリン一家』として3人で集まるのは初めてではないが、二人を家に連れてきた事は一度としてなかった。
それは今後もしかしたらいわゆるオフコラボとかをするとかで呼ぶ事があるかもしれないかと思っていたが、その前にこんな事になるとは思っても見なかった。
……あの事件。
本当は事故なのだが、しかし今はとりあえず事件とする事にしよう。
あの、新しいダンジョンで起きてしまったドラゴンとの遭遇。
そもそもの話、ダンジョンの調査という意味ではドラゴンを発見しかつ何も怒らないまま退避し帰って来られたのは、そういう意味では成功と言えるかもしれない。
危険性、つまりそこに何があるのかを知るための調査なわけだし。
だけど、世の中はそう単純に出来てなくて。
「まあ、炎上してるわね」
ヒナ姉さんがポリポリと小さいチョコレート煎餅を食べながらそう呟く。
片手で操作しているのはスマホで、そこでソーシャルメディアサービス『XD』を見ている。
「私達というより運営の方が、だけど。あんな危険な事をさせるなんてー、って感じで」
「それで、そこから私達のアンチが延焼させようとしてて、それに便乗する人もいるっていういつもの流れだね」
「なる、ほど」
付け足すルカ姉さんの言葉に私は内心でも「なるほど」と思いながら頷いた。
今、私達は配信自粛という事でダンジョンには当然潜ってないし、前までは週に4回ほど行っていた家配信の回数も減ってしまった。
それはどういう事を意味するかというと──配信者をタレントとするならば、そのタレントの仕事が減っていると言うわけで、つまり単純に収入が減った。
もちろん、事務所側からも貰ってはいるが、そもそも今打撃を受けている1番の存在はその運営、『レジェライブ』だろう。
信用問題。
大切なタレントを危険な場所へと連れて行った責任を追及されている。
実際はただの難癖に近い。
彼らを責められる人がいるとするならばその私達当事者だけであり、部外者はただそれに嘴を突っ込んでいるだけなのだ。
ただそれが分かるならば燃やそうとしてないし、更に言うのなら燃やしたい人達にとってそこらへんの事情は関係ないだろう。
「なんか、本当に大変みたいね。物理的にも」
「物理的にも?」
「届くみたいね、抗議の手紙が」
「……あー」
「いまのところ危険物が入れられてるって事はないらしいけど、それはその送り主に理性があるからって事じゃなくて単に郵送会社がきちんと弾いてくれてるってだけだし」
「こう言ってはなんだけど、そういう人達に理性を求めてはダメでしょ。そういう人達は後先考えずに直接押し付けてくるだろうしねー」
「そりゃそうね。さらに言うならば、そういう人達を煽動する人もいるってわけで、だから恐ろしくカオス」
状況は極めて複雑怪奇で、ただただ悪い方に転がっている。
ここから良い方に運んでいくのは多分、難しい事だと思うけど、だけど私達は負けずに前へと進み続けなくてはならない。
頑張れば、いずれ活路は見出せる。
私達は、まだやれる。
「ふふ」
と、ヒナ姉さんとルカ姉さんが私を見て笑う。
「な、なんですか?」
「いや、心配はしてなかったけどかなり前向きな表情してるなって」
「と、当然じゃないですか。私達は悪くないのに悪ぶってたらむしろ悪い方向に進みますし」
「そう思える人は少ないよー。私達だって結構落ち込んでたし」
「そうなんですか?」
結構それなりに話してたと思ってたけど、裏ではそうだったなんて。
「やっぱりアニマルセラピーってやつなのかしらね?」
「あー、なるほど」
ちらり、と私達は「その」方向を見る。
フガッ!
「……」
「……」
「……」
なんか夢を見てるのかビクッと体を震わせているハルだった。
「どんな夢見てるのかしら?」
「さあ?」
「多分、ご飯の夢、とかでしょうか……?」
失礼な事言うなよ!
そう抗議するかのようにハルは再び身動ぎするのだった。
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