第11話 いざ、脱出

 よく分からないがあのドラゴンは雑魚キャラだったのだろう。

 あるいはデカさだけが取り柄の弱キャラか?

 よく分からないけど、わんこたる俺ですらあっさり倒せてしまったのだから大した奴ではないのは間違いない。


「なにがなんだかもはやもう……」


 優菜が何やら頭を抱えてうんうん唸っていたが、しかし彼女が冷静さを取り戻すのを待つというのもやや危険だ。

 なにせ、あの雑魚ドラゴンを倒したという事はもしかしたら第二陣がやってくる可能性があるからだ。

 この世界のファンタジー加減に関してはもう置いておこう。

 ひとまずはここからの脱出を考えなくては。

 そのためにはまず、あのドラゴンを倒した事によって現れた、下へと向かう螺旋階段。

 ……脱出するために奥へと向かうというのもなんだか矛盾しているように感じるが、しかし行く先というのはそこしかないし、何よリこういうダンジョンの定番だが一番奥にはワープポイントが設置されていて、それを利用すると元の世界に戻れるといった具合になっているに違いない。

 そう希望的な願望を抱いた俺はひとまず優菜を現実に戻すべく「わん」と鳴いてみる。

 すると彼女は「はっ」としてこちらを見下ろし、それから「……うん、今は考えても仕方がない、か」と自分に語り掛ける様に呟いた後、俺に対して「ごめんね? それじゃあ進もうか」と俺の予想通り螺旋階段の方へと歩き始めた。

 

「……」


 二人で一緒に階段を下っていく。

 螺旋階段は思ったよりも緩やかで、だから犬である俺でも簡単に下りる事が出来た。

 一応邪魔になるので剣は片付けておいたが――気づいたら、自分の意思で出し入れする事が出来る様になっていた。どこに片付けているのかは分からない――いざ敵が現れたらすぐに突貫するつもりだ。

 優菜は大きな盾を持っているし彼女も戦えないという訳ではないだろうが、しかしだからといって彼女に任せきりという訳にはいかない。

 むしろ俺は、彼女の飼い犬としての責務がある。

 即ち、飼い主を守り抜くという使命。

 彼女を絶対に外の世界へと連れて行き、生還する。

 その為には俺も全力を出して頑張らなくては。

 

「……静かだな」


 と、彼女がそう呟くように風の鳴る音すらしない無音の世界が続いている。

 それに耐えきれなくなったのか、優菜は一人俺に対して語り始めるのだった。


「ねえ、ハル? 私さ、こうして配信者として活動をしているのだけれど、それで本当に助かっているの」


 配信者。

 配信者というのは、俺が想像しているような配信者だろうか?

 そ、そんな事をやっているなんて知らなかった。

 ていうかあのカメラとかはその伏線だったのか……

 しかし、配信をしていて助かったとはどういう事だろうか?


「私、ずっと昔からぼっち……独りぼっちだったの。友達も上手く作れなかったし、いつも一人で生きて来た。それがずっと続くと思っていたんだけど――配信者になって、それが変わった」

「……」

「同じ事務所の配信者の先輩、プリン一家のみんな……それに、いつも私と私達を応援してくれるリスナー達。彼等彼女等がいたお陰で、私は今、とても楽しいの」

「……」

「ハルがダメって事じゃ、ないよ? ただ、やっぱり話したりする友達がいっぱいいるのは凄く嬉しくて……うん、そうだね。何時かはハルの事もちゃんと紹介しないと」


 ……優菜は。

 やっぱり、寂しかったのか。

 両親がいないし、そして友達との接触がない事は薄々感じていた。

 ずっと孤独に震えるように、瞳の奥底には冷えた感情があった。

 しかしそれを埋める何かを、彼女は既に見つけているらしい。

 それは、飼い犬としてとても嬉しい事だ。

 やはりわんことして出来る事は限られているし、そもそも所詮俺は犬でしかないのだ。

 だから、うん。

 彼女が幸せなのは、俺も嬉しい。


「あ、ワープポイントだ。これで多分、帰れるね」


 と、階段はそこで終わりとなって現れたのは床に刻まれた魔法陣。

 とことんファンタジーだなと思いつつ、優菜と一緒にその中に入る。

 刹那、光が魔法陣から溢れ出てきて、そして視界が真っ白になった。

 このダンジョンに足を踏み入れる事となった時とまさに同じだった。

 だとしたら――


「わん」


 光が晴れると、そこには先ほどまでいた優菜の部屋が広がっていた。

 俺は「わふ」と息を吐き、そして優菜もまた同じく安堵の溜息を吐いてから「あ、もしかして」と呟き机の上に置いてあるパソコンの画面を見る。


「え゛」


 刹那、固まった。

 ん?


「なん……え、もしかしてさっきの配信に映って……え、なんで?」


 んん?

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