第10話 黄金の剣の力
……とりあえず、俺は優菜に抱っこされて彼女の椅子までえっちらおっちら持って来られた。
机の上には何やら物々しい物品が置かれているが、生憎とわんこの脳みそではそれらが何なのかが分からなかった。
網々が付いた謎の突起物とかこれが何のために利用されるのかまったく分からないが、パソコンの画面の上に設置されているものはカメラという事は辛うじて分かった。
もしかすると、最近流行りのオンライン会議みたいな事をやっていたのだろうか?
もしくはオンライン授業?
最近は社会人の仕事も学生の授業も自宅で出来るような時代になっていると聞くし、いっぬの俺にはまるで未来に来てしまったかのような気分に陥ってしまう。
そして、優菜は何をしているのかというと彼女はわんこいーつこと俺から受け取った例の黄金の剣を手に持って角度を変えたりしてカメラに向けている。
どうやらレンズの向こう側にいる人にそれを見せているらしい。
「どういう……事、だろう。ハルが持ってたんだけど、これ、どこから拾ってきたのかな……?」
拾ってきたというか貰ったというか。
具体的な事には本人も分かりませぬ。
そもそもあの黄金の剣、割と大きくて優菜の部屋に辿り着くまでに壁にばっこんぶつけたりフローリングにがりがり切っ先を擦りつけたりしてしまったのだが、しかし何故かそれらには傷がつかなかった。
割と切れ味良さそうなのだが、もしかして摸造剣だったり?
うーん、だとしたら本格的に存在が謎だな。
いっその事、家計の足しにするために売って貰うとか?
宝石とかまさかガラス玉って事もないだろうし、本物の宝石だとしたらかなりの値段で売れるのではないだろうか?
「分からないですね、ちょっと私も。凄い魔力を感じる事は出来るし、恐らく凄まじい破壊力を秘めている事も、分かる。だけど何故か私を一切傷つけるような気配を感じられないし、うーん……」
優菜も首を捻っているが、気持ちは分かる。
この黄金剣、まるで意味が不明だもの。
そもそもの話ではあるが摸造剣じゃなくて本物の剣だったとして、それを使う機会がないからなー。
まさか優菜を守る為にこれを振るって戦うなんて事は絶対に起きないだろうし……
『なに、それならその機会を与えてやろうか?』
……ん?
今、頭の中に謎の声、が――
刹那。
黄金の剣がぴかっと眩い光を放った。
「きゃっ!」
驚き、優菜は悲鳴を上げる。
俺もまた思わず「わふ!」と声を上げて目を瞑ってしまう。
目を瞑ってもなお眼下を焼く眩しい光。
……そしてそれが晴れたのを感じた俺は恐る恐る目を開き、そして今度は驚きで目を見開く事となった。
「え、ここ……」
「わん……」
そこは、薄暗い通路だった。
光放つものが一切見当たらない、石煉瓦の壁で囲まれた一方通行の通路。
……光源がない筈なのに、何故か俺は周囲の事を眼で確認する事が出来ている。
それはつまり――どういう事だろう?
「ダンジョン……ど、どうして?」
そして優菜はというと、声は驚きに震えているものの表情は真剣そのものであり状況をどうにかしようとする意欲を感じる事が出来る。
いつの間にかその腕には大きな盾が握られており、そして俺はと言うとどうやら彼女が咄嗟に落としてしまったらしい黄金の剣が目の前に落ちていたため、それを口で拾い上げる。
よし、これで一応敵と戦えるな。
摸造剣だとしても、打撲武器として攻撃を行える!
摸造剣の先制攻撃だぜ!!
「……とりあえず、ハル。ひとまず道のり通りに進んでみよう」
優菜の言葉に俺はこくりと首を縦に振り、ゆっくり慎重に進み始めた優菜の後を追う。
見た目が完全にダンジョンだし、だからもしかしたら変なモンスターの一つでも現れるのではないだろうかと思っていたが、しかし幸か不幸かそう言った類のモノとは一切遭遇する事がなかった。
そう、その時までは。
「……」
「……」
道の先に現れた大きな広場。
円柱状に広がっているそこは天井が見えないほどに高く、そして広場自体もかなり広い。
そして、その中央に座しているのは。
一匹の、龍。
しかしながらそれを龍と表現して良いかは甚だ微妙であった。
何故ならその肉体はボロボロに腐っていてまさに腐肉って感じだったからだ。
何なら骨が見えちゃっているし、皮膚は辛うじてくっ付いている程度。
まるでゾンビのような見た目をしているそのドラゴンの事を、どうやら優菜は知っているみたいだった。
「腐龍グランド……! どうしてこんなところに!?」
どうやらあの腐っているやつはグランドと言う名前らしい。
なんか大層な名前ついてんな。
そして優菜の反応から察するにどうやら大物みたいだ。
うーん、マジか。
ぱっと見、ボロボロだから一撃で倒せそうな見た目をしているんだが。
……いっそこう、斬撃を飛ばして様子見してみる?
という訳で、えい。
「へ?」
しゅばーん、と剣を振るう。
すぱーん、と黄金の斬撃が飛んだ。
ぱーん、とグラ某の頭が真っ二つになった。
グ何とかの身体が黒い塵になって消えた。
どうやら倒せたらしい。
「ええ……」
やったぜ、褒めて褒めて。
優菜を見るが、しかしどこか呆然としているような、あるいは現実逃避をしているような顔でこちらの頭をごしごし撫でて来た。
うーむ、良き。
もっと撫でてケロ。
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