第9話 危険物の取扱い

 不思議な夢を見た気がする。

 なんだかデカい奴と話していたような気がするが、実際どのような内容だったが具体的な事は忘れてしまった。

 まあ、夢なんてそんなものである。

 大切な事なら忘れないだろうし、そして夢というものは忘れてもらわないと現実と夢幻の境界線が曖昧になって普通に生きていけなくなってしまうと聞く。

 ならば忘れてしまっても問題ないだろう、うん。

 どうせ大事な事ではないだろうし、覚えている事だけを考えよう。

 

 そう、そうだ。

 俺は何者かに剣を渡されたんだ。

 その実感は今の今でもしっかりと感じる事が出来、そしてその剣は今も間近にあるように思える。

 不思議な感覚だ。

 今、自分が「来い」と念じればそれはすぐさまこの場所へとやって来る事だろう。

 なるほどと思った俺はすぐさま「来い」と念じてみる事にすると、「それ」は文字通り瞬時に俺の目の前に「ぱっ」と姿を現す事となった。


 それは黄金の剣だった。

 柄の部分には七色に輝く宝石で出来た薔薇の装飾が施されており如何にも豪華絢爛だ。

 見た目は確かに凄そうだし如何にも業物っぽい風を醸し出しているが、しかしこのような芸術的な作りをしていると武器として扱うのを躊躇ってしまうのでは?

 そもそも武器なんて消耗品だしなー。

 日本刀はそれこそ一点ものが多いから毎日錆が付かないようメンテナンスをする必要があったらしいが、しかしそれでも消耗品として大量生産する専属の鍛冶師がいたらしいし、西洋に関しては言わずもがな。

 そんな訳で、このような豪華な見た目をしている剣と言うのはどちらかと言うと儀礼や儀式用のモノなのではないかと思ってしまう。

 

 うーん、しかしこれどうしたものか。

 メチャクチャ凄そうというのはまさにその通りなのだけれども、しかし如何せん使いどころが見つからない。

 爪切りに使うにしたって使い辛いだろうし、ていうか普通に優菜にして貰う方が気分が良い。

 そもそも剣で爪切りってどうなんだって話だが。


 ……話を戻そう。

 剣は剣だ。

 武器であり、儀礼用だとしても殺傷能力がある。

 だから普通の一般家庭に置いておくべきものではないし、間違いなく一匹のいっぬが黙って持っていて良い代物ではないだろう。

 そう考えた俺はすぐさま行動を開始する。

 剣の柄をがぶっと噛み、そのままえいやほいやと持ったまま優菜の部屋へと向かう。

 多分、今向かわれるのはご主人にとって困るだろうけど、非常事態だからねしょうがないよね。

 

 そんな訳で彼女の部屋へと到着。

 てしてしと後ろ脚で扉をノックすると、部屋の中から「ちょっと待っててください、多分うちのわんこがお呼びで……」と誰かに断っている言葉が聞こえてくる。

 ?

 なんだ?

 誰に話しているのだろう。

 もしかして誰かに電話してた?

 だとしたら本当にタイミングが悪かったとしか言いようがない。

 

「どうしたのー、ハルー……ぅ?」


 と、がちゃり。

 扉が開かれ、中から現れた優菜は何やらアイドルっぽい衣装で身を包み、その上明らかにお化粧をしていた。

 ? 

 え、なんで?


「え、なんで?」


 優菜もまた困惑していた。

 そりゃあまあ、ウチの犬が剣を持ってきたら驚くよね。

 気持ち、分かります。

 いっぬはご主人の気持ち、理解出来ます。


「……」

「……」


 ご主人、そしてその犬。

 お互いに沈黙。

 

 えーっと、これどうしよっか……?

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