第8話 未知との遭遇
この世界と言うのは新鮮な驚きに満ち満ちているがために飽きる事は決してないのだが、しかしながら如何せん犬の身分で人間社会を生きるというのは不便であると言わざるを得ない。
ぶらぶらリードを付けずに外を出歩けば間違いなく捕獲される事だろう。
それで優菜の元に返されるならばまだ良いが、最悪の場合は収容施設である保健所へと連行されそのまま……なんて事もあり得る訳だ。
基本的に犬という生物は人間社会においては愛玩動物であり、だからこそ人間による引率が必要と言う訳ですね。
別にそれ自体に不満はないが、しかし自由に出歩けられないというのはかなり不自由だとは思う。
それに、何よリこの世界には魅力的なものがあり過ぎる。
外を歩けば棒に当たると昔から言うが、正しく家の外には未知なるものが沢山ある。
それだけでも楽しくて散歩が面白くて仕方がないのだが、残念ながら最近は優菜がとても忙しそうにしていたので散歩どころではなかった。
お陰で俺は運動不足で身体が少し丸っこくなったような気がする。
今のところ身体に変な感覚はないが、その内肥満で先生からアウトサインを貰うかもしれない。
それはイヤだなー。
生活習慣病にかかるのは絶対にイヤだ。
動きたいから動くのと、動かなくてはならないから動くのとではモチベーションが全然違う。
何より、不健康な状態で動き回るというのはやはり辛いものがあるだろう。
そんな訳だが、しかしご主人たる優菜は部屋で何やら作業を行っているみたいで、だから今日もしばらくは散歩はお預けだろう。
あー、散歩行きてー。
ついでにぴーぽーぴーぽー外で鳴ってて、思わず遠吠えをしそうになる。
ぐっと抑えて、しかしやる事もないので俺は自分のマイクッションの上に寝転がり、目を閉じる事にした。
時間を潰すには惰眠を貪るのが一番と相場が決まっているのだ。
……そうやって俺は目をつぶっていると気づけば意識は微睡みの中に堕ちていた。
「……」
「……む?」
そして微睡みの底では、なんかドラゴンが待っていたのだった。
え、っと。
誰っすかあんたは?
「我は龍王アラン! 貴様は何物だっ!!」
「俺か? 俺はいっぬだけど?」
「いっぬだと? なかなかに高貴な雰囲気のある名前よの」
いや、いっぬは種族名だが?
「なんにせよ、いっぬよ。貴様は我を打ち倒せし勇敢なる勇士! 故に、これを授けよう!」
「すんません、言っている意味が分からないんで犬にも分かる言葉で説明してくれね?」
「……わ、わん?」
「バカにしてんのか?」
「理不尽過ぎるじゃろ……」
こほん、と咳払いしたのち。
また調子を取り戻した竜王アランさんが言う。
「この聖剣、その名もエクスカリバー! 今の貴様には扱えないだろうが、いずれこの剣が必要になる時があるだろう!!」
「ほーん……お、良い硬さじゃーん」
「って、なにをどうして柄をガジガジしておるのだ! 骨っこじゃないんだぞ!!」
「す、すまんつい……」
「ったくもー、気を付けるんだぞー」
最近の若い犬は話を聞かないなー、とぶつぶつと呟いていたが。
そんな龍王アランさんの姿も次第に薄れていき。
「……」
そして気づけば俺は再び草木家の中で欠伸を一つしていたのだった。
なんだったんだ、さっきの。
不思議な体験をしたような……?
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