第7話 私の家族

 草木家の娘として私はただ一人の家族であるハルの事をとても大切に思っている。   

 ただ、それは別に彼が私にとって両親の忘れ形見だからとかそういった理由ではなく、ただ単純に彼の事を心の底から愛しているのだ。

 彼は人間ではない、犬だ。

 大型犬で、雑種。

 白黒のパンダのような柄をしていて、顔は少し間抜けっぽい。

 そこがまたカワイイと私は思っている。

 ただし間抜けなのはその顔だけであり、彼は極めて高い知性を持ち合わせているのは、これまで一緒に生活している中で十分理解しているのだった。


 彼、ハルが贅沢をしない犬である事は前々から分かっていた事だったが、それは別に彼が「贅沢な味」が苦手だからと言う訳ではなく、どうやら彼は「贅沢」は「負担」になる事を理解しているみたいなのだ。

 事実、ご飯を一緒に食べる時とかに私の肉を見て涎を垂らしている姿を見た事があるし、美味しそうな料理に対して関心がない訳ではないようなのだ。

 しかしながら、彼は私に遠慮してあくまでドッグフードを食べる。

 そんな彼に対して、だからといってはいそうですかと従うのも申し訳ないため、その事に気付いた時は私もワンランク上のご飯を用意したり、手作りをしたりしたのだ。

 しかしそれに対してハルは涎を垂らしながら「ぷい」と明後日の方向を向いた。

 食べない、欲に絶対屈したりしないという確固たる意志を見せつけられた私だったが、勿論それに折れたりはしなかった。

 ただ、頑なに食事を食べようとしなかったので、結局私が折れる事となったのだが。

 意志の固さも、彼は人一倍なのだった。


 そんな大切な家族の事を放置して自分の事ばかりだった事に後悔はないとは言えないだろう。

 もっと、彼と一緒に過ごしていたかったと、何度思った事だろう。

 いつもいつも、これが私達にとって必要な事だからと自分に言い聞かせて家を出ていた。

 涙が溢れそうだったし、スタジオで緊張を解す為に彼とのツーショット写真を見、思わずほろりと来てしまった事もある。

 それでも、お金は必要だ。

 生きていく為には、彼と一緒にずっと生活していく為には、やはり先立つものが必要だった。

 ……よくある比喩だが、ある日突然一兆円が手元に現れたら、多分私は今やっている事をすぐに手放していた事だろう。

 

 そう、その筈だった。


「……」


 ソファに腰掛けぼーっとしている私。

 そんな私の顔をハルが見てくる。

 まるで、「貴方はそれで良いのか?」とでも言いたげな、そんな表情。

 時間を無駄に消費していて良いの?

 そんな風に問いたげだ。

 

 ああ、うん。

 きっと、彼にも心の内を見透かされているのかもしれない。

 私、配信者として配信がしたいんだ。

 いつの間にか日常になっていた配信業、私は何時しか草木優菜だけではなくユナとしても生きるようになっていた。

 だから。


「ハル、ごめんね? ちょっと、部屋で作業をするから静かにしててくれない?」


 私のお願いに彼は自信ありげに小さく「わん」と鳴く。

 ああ、本当にいい子だな。

 私は彼の頭をわしわしし、それから急ぎ足で自室へと急ぐ。

 ああ、うん。

 配信、したいって思っているんだな私。

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