第5話 わんこには分からん
最近、というか例の事件? からまだ数日しか経過してない訳だが、ともあれ最近の事ではあるが。
なんか、優菜が家でゆっくりしている時間が増えたみたいだった。
いやまあ、あんな風に巨大な化け物に襲われて九死に一生を得た後なのだからちょっとくらい休んだったって罪にはならないっていうか飼い犬的にはむしろしっかり休んで欲しいのだが。
しかしまあ、普段からご主人が家にいるというのはかなり俺にとっては嬉しくて、だから知らず知らず内にテンションが上がる。
うひょーい、的な。
そんでもって嬉しがりまくってぴょんぴょんと跳ねまくりまくって、しかしながら不思議とこの身体はそれだけ動き回っても疲れなかった。
どうやら俺は元気花丸子ちゃんらしいが、しかしこれは流石におかしくないか?
元気なのは良いけど、ちょっと不思議である。
SFである。
と、話を戻そう。
優菜の話だ。
ご主人は毎日俺の食事を用意して出掛けるか、あるいは自動餌やり機をセットする時はかなり遅い時間帯まで出掛ける。
それは間違いなく、あの事件の時に出会った二人の少女達と関係しているのだろう。
不思議な二人組、いや、優菜を含めるのならば三人組だ。
三人ともボロボロだったが、しかしそれは傍から見てかなり見栄えが良い上にしっかりとした生地で作られた華やかな衣装に見えた。
なるほど三人はもしかしてアイドルなのだろうかとも思ったが、しかしそんなアイドルが何故武器を持って洞窟の中にいるのだろうか?
そして例のカメラ。
あれは大切なものだったらしくきっちり持ち帰っていた。
そしてその後に洞窟の外で出会った、もしかしたら三人よりもぎっちりした装備を身に着けていた者達。
鬼気迫る表情で三人に安否を確認していて、そしてそんな彼女達に対し優菜達はぺこぺこ頭を下げていたところからその二グループの上下関係が察せられる。
まあ、三人組の腰が低いってのもあるだろうけどな。
うーん、考えれば考えるほどわからん。
分からん事を考えているとイライラしてくるので、おもちゃのロープをガジガジ噛む。
おっと、力を込め過ぎて千切れそうになっちまったぜ、危ない危ない。
もうちょっと力を加減しなければ。
やはり優菜が家にいるのは嬉しいが、それでも心配なのは心配だ。
家におらず忙しそうにしている方が優菜にとっては日常なんだろうし、出来ればその日常に戻って欲しいものである。
「ねえ、ハル? ちょっとお出掛け、しよっか」
おう、ご主人!
今日はどこに行くんだっ!?
「うーん……買い物に行く、かな?」
おう、買い物かぁ!
了解だ、ご主人!!
俺は「わん」と鳴いて返事をすると、優菜は少し表情を暗くしてから無理やりに作ったような笑みを作り、「じゃ、行こっか」と俺にリードを装着して家を出る。
その表情は凄く気になったが、しかし家を出たらその疑問も割と早い段階で消え去ってしまった。
うーん、楽しいな散歩!
それから数分後。
あー、なんか嫌な匂いがすんな。
具体的に言うと、お薬の匂い。
病院、嫌いなんだよなぁ、特に注射とか本当に嫌い。
ぶすっと身体に侵入してくる針の感覚、俺にとって大切な事なのは分かっているんだけど、うーん、やっぱり嫌いだ。
そう思っていると、何故か急に優菜が俺の身体をがしっと掴み、よっこいしょと持ち上げる。
それからごろごろと持って来ていた荷車(?)に俺を乗せ、そしてそのまま俺をドナドナドーナ~……
病院に直行だった。
……
だ、騙したなご主人っ!
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