第4話 わんこにも説明してください


 状況が意味不明だったが、どうやら俺はご主人様たる優菜の事を助ける事が出来た事は間違いないらしい。

 ボロボロになった彼女の事を思うとどうにかして上げたいという気持ちが強くなってくる。

 服はともかく、擦過傷だらけの腕が痛々しい。

 とはいえ一人、いや、一匹のわんこである俺ことハルはどうする事も出来ないのもまた事実であるし、しかし何もしないというのもなんだかあれなのでいつも彼女が泣いていたり悲しがっている時にしているように、ぺろぺろと彼女の頬を舐めてやる。

 むしろそれしかやる事がない。

 

「く、くすぐったいよハル……え?」

 

 と、彼女は驚いたように自らの腕を見る。

 なんだなんだと俺もつられるようにその腕を見てみると、おっと何やら腕の傷口がすべて塞がっているようですよ?

 不思議な事もあったもんだ。

 

「治癒スキル……? え、でもどうして」

 

 何やら驚いているようだが、とはいえ彼女の傷が塞がったのは良い事だ。

 ワン、と鳴いてやることにする。

 

「ねえ、ハル? 今のってどうやったの?」

 

 はい?

 今のって、何の事だ。

 俺が首を傾げると、こちらに近づいてきた、どうやら優菜の友達らしい女の子二人がずっと俺の事を見下ろしてきた。

 おうなんや嬢ちゃん達、俺に何かようか?

 一応優菜の友達なので警戒はしないが、とはいえ初対面なのでちょっと緊張しつつ二人を見上げると、おもむろに二人が俺の頭を撫でてくる。

 なんだなんだ、いきなり撫でてくるなんて良い奴だなお前等。

 もっと撫でてもええんやで。

 

「えっと、この子ってもしかしてハル君?」

「は、はい。いつも写真で見せてた」

「へーカワイイ……って、言いたいけど。いやなんでここにいるのさ」

 

 身長的には、ライフル銃を持っているのが一番大きくて二番目は優菜、そして一番小さいのはもう一人って感じだ。

 服装は三人とも似ているが、それぞれ青、緑、そしてピンク色を基調としている。

 そして胡乱気な視線をこちらに向けてきているのは、一番小さくてピンクな奴である。

 

「いきなり現れたように見えたけど。いや、普通に考えていきなり現れるでもしないと、あの状況で干渉出来はしないんだけどさ」

「そりゃあそうだとは私も思うわ。だけどそれよりも私達はこの子に助けられた。それ以上に大切な事はあるかしら?」

「……」

「こ、この子は私の家族ですからっ、悪い子じゃありません!」

「ユナちゃんが虐める~って目で見てるわよー?」

「……もう、そんな事はしないってば。ただ、あんなドラゴンを一撃で倒した奴なんだから、凄い力を秘めている訳だし。危険視しない方が難しいっていうかなんというか」

 

 口をもごもごしている。

 話を聞くに、どうやら俺が倒したあのドラゴンと言うのはそこそこ強い奴だったらしい。 

 少なくとも三人がやられそうになっていた訳だし、それならますます俺がここにやって来て良かったと思う。

 ……いや、ていうか今更ながら思う。

 ここってどこだ?

 明らかに普通じゃない場所なのは間違いないし、ていうかよくよく考えるとなんでドラゴンなんて明らかにファンタジーな生物がいるんだ?

 三人っていうか優菜が明らかに現代一般人であったし、俺の生活圏も普通に普通な日本って感じだったからこの世界はリアル現代だと思っていたんだけど、もしかしてこの世界のジャンルは現代ファンタジーだったのか?

 いやまあ、よくよく思い返してみるとテレビニュースでそんな感じの特集をされていたのも見ていた気がする……

 わんこの脳みそなので思い出せません、はい。

 

「それにしても、この子が使ってたあの剣は一体どこからやって来たの? 拾ってたのは見たけど、ここに来た時あんなのなかったわよね?」

「……今もなくなったね。もしかしてこの子の能力?」

「い、犬ってスキルとか持つのでしょうか?」

「さー、そこら辺は専門家じゃないからねー」

 

 ぽりぽりと頬を掻いていた青色の少女だったが、ふと「そういえば」といった感じの表情になったと思ったら本当に「そういえば」と口にする。

 

「そういえば、というかそれよりも。ボスモンスターであるあのドラゴンを倒したけどここはまだダンジョンなんだし、ていうか明らかに事故った訳だからとりあえずエスケープして状況説明した方が良いのか」

「あ、あー。そういえば、なんだか危機が去ったからどっとというかほっとして力が抜けてたけど、とりあえず戻った方が良い、のは確かだね」

「そういえば……」

 

 と、三人は顔を合わせて、それからすっと視線をどこかへと向けた。

 そこにあったのはカメラっぽい奴だったが、しかし完全に壊れているように見える。

 実際、青色の少女がそれに近づいて拾い上げて観察するなり「壊れてらっしゃる」と結論付けた。

 しかし、何故カメラがこんなところにあるのだろう?

 存在としては俺と同じくらい不思議である。

 

「ま、なんにせよ早く帰りましょう」

「そう、ですね」

「うん、帰ろう」

 

 と、三人は立ち上がる。

 優菜は俺を抱きあげたままだ。

 大丈夫だ、歩けるぜと言った意思を伝える為に「わん」と鳴いたが、しかし彼女は「危ないからね」とそれを拒否してくるのだった。

 

 残念だぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る