第2話「姪が大好きだから、仕事を頑張れる」
「はぁー……」
溜め息。
溜め息を零したくはないけれど、溜め息を零したくなるくらい現実は過酷ということ。
崎田さんとのやりとりも、これで何度繰り返していることか……。
(いや、もう何十回か……?)
新作を描きたいと編集に相談して、早……何年は経っていないよな。
えーっと、まあ、どれくらい月日が経過したかは覚えていないが、俺は新しい仕事に着手したいという意欲に燃えている。
(次は、どんなプロットを送りつけるか……)
1つ目の理由は、いつまでも原作者の
現在連載している『literal sky』が最終回を迎えた後、絵を描く仕事を廃業したくない。
体が続く限り、絵を描いて描いて描きまくる……絵を描き続ける生活を送りたいと思っているから。
(もう何百もプロットを送りつけていると、さすがにネタがなくなってくるよなー……)
2つ目の理由は……。
「あの……」
考えごとに集中していると、自分の周囲で何が起きているかということに気が回らなくなるらしい。
自分に誰が近づいているのかも把握できていなくて、さっきまで人間観察の対象だった2人組の男たちはどこへ行ってしまったのかも分からない。
彼らの最後の会話は、なんだった?
そこにヒントがあったかもしれな……。
「おじさま?」
自分は彼女の声を、正統派ヒロイン声だと思っている。
メインヒロインになることはできなくても、キャラクターに更なる可愛さという要素をプラスさせるために彼女の声は存在していると思っている。
「もう、電話はお済みですか?」
よく、姪馬鹿と言われる。
親馬鹿という言葉の、姪バージョン。
「可愛い……」
「おじさ……」
「すっげー可愛い……」
公然の場では、その場に相応しい行動をとらなければいけないのは分かっている。
そんなこと分かり切っているけれど、彼女の声を聞き入れると理性なんてものはどうでも良くなってしまう。
「おじさまっ」
「もっと呼んでほしい……」
彼女を、抱き締める。
彼女を抱き締めることで、彼女の肩に顔を埋めることで、俺の耳は彼女の口元へと近づく。
より近くで、彼女の声をずっと聴いていたいから。
誰よりも近くで、彼女の声をずっと聴いていたいから。
「うぅ……」
彼女を抱き締める腕の力を強めると、逃げることができないのだと彼女は察したのだと思う。
でも、おとなしくなってしまうと、彼女の声が聴けなくなってしまうのが辛い。
「変装しなかった
「おじさまこそ、有名人じゃないですか……」
ただ抱き合っているとも言えるけれど。
単に俺が奈湖の声を満喫しているだけとも言えるけれど。
一応、こう見えて配慮はしている。
現役中学生声優である
「奈湖の方が、有名人。マンガ家の顔なんて、ほとんど知られていない」
「私は新人声優ですよ……?」
「おまえは体が小さいんだから、ファンに誘拐でもされたらどうするつもり……」
「こんな人の多いところで誘拐する方はいないかと……」
正論。
奈湖の言うことは正しいと思いつつも、こっちはこっちで姪馬鹿なのだから仕方がない。
「…………とにかく! さっきまで、おまえの話題をしていた奴らが近くにいたんだよ」
「ファンの方、ということですか?」
「あんなのファンじゃない。絶対に、いかがわしい発想で奈湖のことを……」
腕の中でおとなしくしていた奈湖が体を動かして、この腕から解放してほしいと訴えてくる。
仕方がないとは思ってはいても、彼女が訴えているのならなんとかしてあげるのが叔父心。
「私のことは」
「ん?」
「おじさまが、こうして守ってくださるじゃないですか」
俺の束縛から解放された奈湖は、満面の笑みを浮かべて素敵な言葉を俺のために贈ってくれる。
満面の笑みとか、素敵な言葉とか。奈湖を表現するための言葉を浮かべてはみるものの、こんなものでは物足りない。彼女の魅力は、この世に存在する日本語では伝えきれない。
「まあ、いつもは守ってやれないけどな」
でも、彼女の魅力を表現する言葉を思いつかないから、ことごとく新連載の企画は落とされてしまうのかもしれない。
「十分です」
新しい仕事を得たいと願う2つ目の理由は、目の前で輝かしい笑みを見せてくれる姪の白雪奈湖。
彼女に、自分が描くキャラクターの声を担当してほしい。
つまりは一緒に仕事をしたい。
それが、姪馬鹿の
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