第40話 悪役王子、責任を取る






 部屋に入った瞬間、凄まじい威力の右ストレートが俺を襲った。


 一撃目はギリギリで回避する。


 しかし、続いて閃光の如き鋭さを誇る鉄拳が俺の顔面に迫ってきた。

 俺は咄嗟に基本防御魔術を展開し、二撃目を辛うじて防いだ。



「よぅ、ヤリチン。覚悟はできてるかい? できてるな。よし、殴るから歯ァくいしばれ」



 俺に凶悪な顔で言ったのは、頭頂部が少し光っているオッサンだった。


 誰、このオッサン!! 怖い!!



「お、お父様!! やめてください!!」


「止めるなミュリエル!! うちの可愛い娘に手を出した、ふてぇ野郎をボコすだけだ!! 不貞野郎だけにな!!」


「上手い!!」



 おいコラ!! なにユースティアの王様が楽しそうにオヤジギャグを褒めてんだ!!


 こちとら同盟国の王子だぞ!! せめて助けようとしろよ!!


 というかこのオッサン、ミュリエルの父親か!!


 ミュリエルは可愛いのに父親はどちゃクソ怖いなオイ!!



「ちょ、あの、サイフォン大公!! 話を聞いて――」


「だが、断る!!」



 俺の魔術障壁を素手で殴り続けるミュリエルパッパ。


 フッ、無駄無駄。


 俺の魔術障壁はマーリンの必殺魔術も一秒だけ耐えられる代物。


 人の拳なんかでどうこうできるような硬さはしていな――



 ピシッ。



 え? 今、ピシッとか言った? 言ったよね!?


 うっそだろオイ!! ミュリエルパッパの拳ってマーリンの必殺魔術一秒分くらいの威力があるのかよ!!


 化け物だ。こいつは化け物だ。



「オラオラオラッ!!」


「多重展開ッ!!!!」



 目を剥くようなミュリエルパパのラッシュをいくつも基本防御魔術を展開することで防ぐ。


 しかし、一枚目、二枚目と確実に破壊される。


 あ、こりゃ駄目だぁ。一発殴られるまで止まらない奴だわぁ。

 いや、一発で済めば良いけど、多分これ何十発も顔面に殴られるわ。


 さらば、アノンの顔イケメンフェイス


 せめて目が覚めた時は誰かが怪我を治療してかれていることを願おう。



「お父様」


「ひゅっ」



 鬼の形相で俺に襲いかかるミュリエルパッパを制したのは、ミュリエルだった。


 笑顔なのだが、目が笑っていない。


 あれだ、ソフィアが結構マジで怒ってる時と同じ目だ。



「ミュリエル。一旦落ち着こう。これは父親として、娘を想うが故の行動であって――」


「お父様」


「そう、これは断じて私個人の恨みではなく、あくまでも彼に王子としての立場を理解してもらうための――」


「お父様」


「えっと、だから、あれだよ。悪いのはこの下半身と脳みそが直結してる少年だ!!」



 否定できねーよぉ。



「お父様」


「……はい」


「私はお父様から『今後のミュリエルの話をしたい。アレク王子との婚約破棄の件も含め、お前に手を出したフェイリスの王子についても話がある』と言われたので、アノン殿下を連れて参りました」


「……はい」


「そもそも、いくら私の身を守るためでも内緒で護衛を付けたり、その、男女の逢瀬を盗み見させて報告させるとかどうかと思います」


「……はい」


「お父様が私の身を案じていてくださることは重々承知しています。ですが――」



 わあ、お説教の仕方もソフィアに似てるなあ。


 なんて考えていると、流石にいたたまれなくなったのか、ユースティア王が横から口出しする。



「あー、ミュリエルよ。そこまでにしてやれ。サイフォン大公も反省しているようだしな」


「……失礼しました、国王陛下」


「いや、いい。それよりもフェイリスのせがれ、お前も座れ」


「あ、はい」



 俺はキッとミュリエルパパに睨まれながらも、用意されていた椅子に腰かける。



「さて、来てもらったのは他でもない。今後のミュリエルのことについてだ。まず、ミュリエルはアレクと婚約破棄させる。これは俺とサイフォン大公が合意したことで成立した。今回の責任はうちの愚息にある」


「は、はあ……」



 何故俺に向かって言うのか。



「オレは国王としてミュリエルに可能な限り望む縁談を用意することを約束した。そこでミュリエルに誰か好いている男はいないかと訊ねたら……」


「貴様という下半身野郎の名を口にしたわけだ。まったく。あの暴力クソ王子もこの手で殺してやりたかったが、事前に察知したミュリエルに止められ、今回も止められ……。ちくしょう、思い出しただけで腹が立つ。おい、一発殴らせろ」


「そ、それは流石に酷いのでは!?」



 ミュリエルをちらっと見ると、頬を赤くしてサッと顔を逸らした。


 これは、惚れられているのか?


 えー、なんか照れるんですけどぉ!! ゲームのヒロインに惚れられるとか、俺ってば罪な男!!


 言ってる場合じゃねぇ!!


 どうすれば良いんだ、これ!? ソフィアになんて説明すれば!?



「一応聞くが、お前さんにミュリエルを娶る気はあるか?」


「……」



 ミュリエルパパから「まさかその気もないのに手を出したわけじゃねーよなあ?」みたいな視線が向けられる。


 そりゃあ、まあ、精力剤のせいで暴走したと言っても手を出してしまったわけだし。


 責任を取らねばならない。そういう義務感も少なからずある。


 でもそれ以上に……。



「……?」



 こてんと首を傾げて俺を見つめるミュリエル。


 可愛い……。そうだよ、ミュリエルってば普通に可愛いんだよ。


 普段は無表情だけど、ベッドの上だとめっちゃ甘えてくるし。



「分かりました。ミュリエル嬢を、いえ、ミュリエルを娶ります。ただ、その、俺には婚約者がもういるので、正妻というのは、難しいかも、知れません」


「承知の上です、アノン殿下」



 最後の方は消え入りそうな声で言うと、ミュリエルが優しく微笑んだ。



「私はアノン殿下にとって、何番目でも構いません。ただ、愛してさえくれるなら」


「そ、それはもちろん!! 何人娶ったとしても、ミュリエルに寂しい思いをさせるつもりはないです!!」


「ふふっ。アノン殿下はまだまだ妻を増やすおつもりなのですね」


「え、あ、い、今のは言葉の綾で!! ちょ、サイフォン大公!! 拳を構えないで!! 怖いので!!」


「……お父様」



 今にも襲いかかってきそうなサイフォン大公をミュリエルが宥める。



「まったく!! ミュリエル、お前はこんなロクでなしのどこが良いのだ!!」


「どこが、ですか?」



 ミュリエルは頬を赤らめる。



「その、優しいところや、笑顔が素敵なところです。でも強引なところもあって、それが男らしくて、でもやっぱり優しくて、その、初めての私を落ち着かせるためにギュッとしてくれたり……。終わった後に頭を撫でながらキスしてくれるところが、凄く好きで――って、お父様!! 何を言わせるのですか!!」


「へぶっ!!」



 ミュリエルがサイフォン大公をビンタする。


 お、おお、流石は俺の基本防御魔術を破壊するサイフォン大公の娘。


 ただのビンタでサイフォン大公が吹っ飛んだぞ。


 そう言えばミュリエルって、ゲームだとバリバリの物理アタッカーだしなあ。

 純粋な火力だと一番強いし、何気に凄い子を娶るのか。



「さて、話もまとまったし、サイフォン大公とミュリエルはもう良いぞ」


「え、あの、ユースティア王。俺は?」


「お前はもう一人、手を出した女がいるだろう? そっちについても話がある」



 そう言ってミュリエルとサイフォン大公と代わるように部屋に入ってきたのは。



「うふふ、アノン王子殿下」


「てぃ、ティエラ殿……」



 そうでした。もう一人、責任を取らねばならない絶世の美女がいた。






――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「先日、スマホの操作を誤って44話を投稿するという事故が発生しました。本当に申し訳ありません。次からは気を付けます。誤って見てしまった方は記憶から消し去ってください」


アノン「うとうと状態でやるからそうなるんだよ」


作者「……本当にすみません」



「ミュリエルパッパバーサーカーやん」「ミュリエル可愛い」「作者ドンマイ」と作者に同情してくださった方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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