第36話 悪役王子、呪いを解く





 俺が理性を取り戻した時には、目の前には俺のエクスカリバーから放たれた純白のエネルギーで身体を汚したティエラがいた。


 ああ、畜生め。本当に畜生め。またやっちまったじゃねーか!!


 いや、今回は俺は悪くない。


 俺の中から勝手に出てきてミュリエルを落とそうとし、俺を悶々とさせたアノンが悪い。

 そして、タイミング悪く登場し、俺を誘惑してきたティエラが悪い。


 ……この言い訳は苦しいかな?


 やっぱりどう考えても、下半身のエクスカリバーの暴走を止められなかった俺が悪いよね。



「んっ、アノン王子殿下ったら、とても激しいですわね」


「てぃ、ティエラ殿、その、えっと、ですね」


「アノン王子殿下。一つ、お願いがありますの」


「え、お願い?」



 ティエラが艶やかに微笑むのを止め、真面目な表情を見せる。


 それは、今までに見たことのないティエラの顔だった。



「私は、この身を淫魔の呪いに侵されているのです」


「は、はあ? 淫魔の呪い、ですか」


「はい」



 いや、知ってるけども。一応、知らないフリはしておこうかな。



「淫魔の呪いは、性行為を行わないといずれ死に至るもの。私は死にたくない一心で、多くの殿方を誘惑してきました」


「そ、そうですか」



 ティエラの好みが青少年なのもそこら辺が関係してるんだよな、たしか。


 キモデブオヤジに抱かれるくらいなら、純粋無垢な子供の方がまだマシ、みたいな感じの理由なのだろう。


 そりゃあ俺だってヤるなら美人や可愛い子の方が良いし、気持ちは分かる。



「そして、ようやく見つけたのです。淫魔の呪いを解けるやも知れぬ御方を。貴方のことですわ、アノン王子殿下」


「え、俺が、ですか?」



 ティエラが詳しい事情を話す。



「淫魔の呪いは、許容量以上の殿方の生命力を注ぐことで解けるのです。アノン王子殿下ならば、それが可能かも知れません」


「……なるほど」


「どうか、お願い致しますっ、私は死にたくないのですっ。この呪いが解けた暁には、私にできる限りのお礼を致しますっ」



 そう言って、ティエラがベッドの上で正座し、頭を垂れる。


 土下座ってこの世界にあったのか。


 いや、元々日本のゲームだし、別におかしくはないだろうけど。


 そんなことよりも。



「……ごくり」



 絶世の美女が「死にたくない」と言いながら土下座で懇願してくる様……。


 な、なんだろう、物凄く、こう、我ながら下品というか。


 めっちゃゾクゾクする!!



「一つだけ、条件があります」


「なんでしょう? 私にできることであれば、何でも致します」


「俺の命令に従ってください。どんなことでも拒否は認めません」


「そのようなことであれば……」



 ポカンと口を開いたまま頷くティエラ。


 そんな彼女を好き放題できると思ったら、俺のエクスカリバーがエネルギーの充填を完了した。



「じゃあ、まずはこれを着てください」



 俺はインベントリから、ある衣装を取り出し、ティエラに着るよう命じた。


 ソフィアによく着せているバニー衣装だ。しかも逆のやつな。


 サイズがソフィア用なので、ティエラには少しキツイところもあるかも知れないが……。


 それもまた良い。



「アノン王子殿下ったら。女性にこのような格好をさせては嫌われてしまいますよ?」


「え、そうですか? 皆普通に着てくれますが」



 ソフィアもシフォンも、マーリンでさえも普通に着てくれる。


 その他にもチアガール衣装とか、旧式のスク水とか、お願いしたら基本的に何でもオッケーしてくれるのだ。


 もしかして、皆は嫌だったりするのかな……。



「……ふふ。アノン王子殿下は、とても愛されているのですね」


「だと、嬉しいです」



 ソフィアに愛されている自覚はある。


 むしろ毎日あれだけ激しく求められて愛されてなかったとしたら……。


 それはそれで悪くないかも知れないが、ソフィアは愛情をストレートに表現してくるタイプだ。


 魔術学園でも毎日ヤってたし。


 多分、きっと大丈夫だ。



「よく似合ってますよ、ティエラ殿。いえ、ティエラ」


「んっ、アノン王子殿下ったら」



 それから俺は、ティエラと戦った。


 俺のエクスカリバーはティエラの急所を何度も的確に狙い突く。


 もう二度も彼女と戦っているのだ。彼女の弱点は知り尽くしている。


 しかし、淫魔の呪いを身に宿したティエラは想像以上に手強かった。

 やはりどうしても、俺の体力が先に尽きてしまったのだ。



「くっ、こうなったら!!」



 俺はインベントリから、あるアイテムを取り出した。


 それは以前、リンデンにお願いして貰った精力剤である。


 たしか一滴で一晩、二滴で三日三晩、三滴で七日七晩も女性と戦える代物だったはず。


 俺は迷わず三滴ほど口にした。



「うおおおおおおおおおッ!!!!」


「こ、これはっ、ら、らめぇっ!!」



 俺のエクスカリバーは鋭さを保ったまま、何十、何百と戦い続ける。


 これは凄まじい。エクスカリバーが衰える気配が全く無い。


 むしろ時間が経てば経つ程、俺のエクスカリバーがより鋭く、より力強くなっていく。


 そして、三日が過ぎた頃。


 ティエラの身体を蝕んでいた呪いを、遂に解除することができた。



「ああ、嘘、信じられない……。本当に、本当に淫魔の呪いが……アノン王子殿下、心から感謝致しますっ」


「ふぅー、ふぅー」


「え、アノン王子殿下? あ、あの、もう淫魔の呪いは解けて――ひゃんっ」



 呪いが解けたらハイ終わり、だって? そんな都合の良い話があるか!!


 俺の戦いはまだ終わっていない。


 逃げようとするティエラを取り押さえ、戦闘続行。


 ティエラは終わらぬ戦いに顔を歪ませながら、涙目で訴えてきた。



「どうか、どうかこれ以上は!! 貴方のことを好きになってしまいますっ!!」


「なって良いぞ!! 責任は取ってやる!! 嫌なら逃げろ、逃さねーけどな!!」


「あ、ああっ、そんな、そんな素敵なことを言われたら、もうっ!!」



 俺はティエラを逃がすつもりは無い。


 リンデンの作った精力剤がもたらした副作用というか、極限の集中力によって俺は空間魔術を完璧に扱えていた。


 逃げ場は無いのだ。


 今、この部屋を中心とした一定範囲内は外界と完全に隔離されており、時間の経過が異なっている。


 ここでの一週間は、外での半日足らずだ。


 だからこそ、誰も異常に気付かないし、ティエラを助ける者はいない。


 いや、まあ、いるにはいる。


 部屋の入り口のドアでずっとこちらを覗いている何者かの存在に俺は気付いていた。


 ティエラを完全に仕留めた後、俺はその何者かに声をかける。



「出てきてください、ミュリエル嬢。覗きは感心しないですよ」


「……も、申し訳、ありません……」



 そう、覗きの犯人はミュリエルだった。


 どうやら俺がティエラの部屋に連れ込まれる様を見ていたらしい。


 気になって付いてきてしまったようだ。



「覗きなんてする悪い子にはお仕置きですね」


「あ、ま、待って、ください。私にはアレク殿下が――」


「あんな暴力クズ男、すぐに忘れさせてやりますよっ!!」


「ら、らめえっ!!」



 精力剤のせいで完全に暴走していた俺は、本来ならば主人公のものとなるはずだったミュリエルというヒロインに手を出してしまった。


 その結果がどうなるか、想像もしないで。



「……また、やっちまった……」



 正気を取り戻した頃、部屋は甘い匂いと生臭い匂いが入り混じった独特な匂いで満ちていた。


 目の前にはゲームの悪女とヒロインが一人ずつ穏やかに眠っている。


 二人とも最後の方はノリノリだったし、大丈夫だよね? ね?



「……そろそろ空間魔術を解除するか」



 その時だった。


 俺の形成した隔離空間に何者かが干渉し、侵入してきたのは。



「ほう、貴様がクイーンのかけた呪いを解いたのか」


「っ、だ、誰だ!!」


「ふん」



 振り向いた先には、金髪の美女が一人。


 いわゆるビキニアーマーを身に着けており、最低限しか身体を隠していない。


 その背には翼があり、頭には角が、腰からは尻尾が生えている。


 実物は初めて見たが、一目で分かった。


 こいつは、サキュバスだ。



「私はクイーンの側近、名をエルマと言う。クイーンが貴様を連れてくるようお命じになった。拒否権はないぞ」



 こ、これ、どうしよう?






――――――――――――――――――――――

あとがき


アノン「流石に今回のはアウトじゃ……」


作者「よく見ろ、全て戦闘描写だ」


アノン「えぇ……怒られたらどうすんの?」


作者「……怒られないことを祈る」



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