第33話 悪役王子、パーティーに出る



「シフォン先生、凄く似合ってますよ!!」


「こういうものは着慣れていないのですが……」


「かと言って、ローブでパーティーに参加するわけにはいかないじゃないですか」



 シフォンが珍しく着飾っていた。


 華やかな薄緑色のドレスがよく似合っており、結い上げた髪が良い。


 特にうなじが良いね。


 普段は髪を下ろしてるから滅多に見られないシフォンのうなじは超激レアだ。



「それで、リンデンはどこなんです? 一応、パーティーには参加するよう言っておいたんですが」


「まだ城下の宿屋で油を売っています」


「完全にサボる気だな……」



 まあ、元からリンデンは自由人気質なところがあるし、仕方ない。


 無理矢理パーティーに参加させて露骨に嫌そうな態度だったら、それはそれで問題だろうし。



「っと、そろそろ時間ですね」


「アノン王子、エスコートはよろしくお願いします」


「任せてください。先生に恥は掻かせないですよ」



 そして、俺たちは結婚式パーティーの会場に向かった。


 場所はユースティア城の大広間。


 各地方の有力貴族や他国の高位貴族などなど、正直ストレスで胃に穴が空きそうなレベルの権力者が集まっているのだ。


 ここに集まった人たちが色々とお喋りをし、その後で式場に移動する。


 結婚式の披露宴を先にするようなものだ。


 前世の常識がある俺からすると違和感が半端ない順番だが、まあ、ここはゲームの世界だ。


 前世の常識など通用しないのだろう。



「おや、フェイリスの王子殿下ではありませんか」


「これはこれは、宰相閣下。先日ぶりです」



 こんな感じで各国のお偉いさんと世間話をする。


 ちなみに、小難しい話はしない。というか、皆して気を遣ってくれるのだ。


 そもそもこちとら十三歳の小僧だしな。


 政治的な話はせず、お偉いさんたちは子や孫に接するみたいに俺に話しかけてくれる。



「ははは、アノン殿下は話し上手ですなあ。ついつい話し込んでしまいますぞ。……うちの王太子殿下はそれはもう……。おっと、今のは聞かなかったことに」


「すみません、ちょっとよく聞こえませんでした」


「そういう配慮もできる辺り、フェイリスの血筋ですなあ。フェイリス王も、都合の悪い話は聞き流せる方でした」



 それ褒められてるんですかね?


 まあ、事なかれ主義はフェイリス伝統の処世術だから褒められてはいるのだろうけど。


 しかし、アレクの評判は国内でも最悪みたいだな。

 ユースティア王の側近である宰相からの評価が低いとなると、ユースティアの未来が心配だ。


 いや、心配するだけ無駄か。


 だってアレクの馬鹿が婚約者であるミュリエルを捨て、傾国の美女ことティエラとくっついたらどのみちユースティアは弱体化してしまう。


 他国のこととは言え、ユースティアはフェイリス最大の友好国。


 ユースティアの国力が欠片でも低下しようものなら、いつかベルシャーク帝国に攻め滅ぼされるかも知れない。


 ゲームのシナリオでは主人公が間に入ったことで戦争勃発は回避したが、どうなることやら。



「ところで、そちらの女性がかの有名な魔術師シフォン殿ですかな?」


「有名、ですか?」



 俺の隣でずっと笑顔を貼り付けていたシフォンが訝しげに顔を顰める。



「ええ、最近のフェイリスは色々と変わってきていると小耳に挟みましてね。その中でも、魔術師団を鍛えている女性魔術師が凄腕だと」


「ああ、なるほど。シフォン先生は凄いんですよ。魔術の知識が豊富で、教えるのも上手なんです。おまけに美少女です」


「ちょ、アノン王子、そういうことは……」


「ははは、仲が良いのですな。その様子だと、シフォン殿を側室に迎えるという話も本当なので?」



 随分と良い耳を持ってんだなあ。まあ、別に隠すことではないか。



「はい。まあ、側室も何も、まだ婚約者とすら結婚してないんですけどね」


「ふむ。では、少し人生の先輩からアドバイスを」



 宰相が俺にこっそり耳打ちをしてくる。



「何人もの妻を娶った際、上手く行くコツをお教えしましょう」


「む、詳しくお願いします」


「簡単です。全員等しく抱いてやるのです。女などベッドの上で満たしてやれば満足するのですからな」



 お、おお!! ここが日本だったらめっちゃ炎上しそうなことを言ってる!!


 でも、ふむ。宰相の言うことにも一理あるな。


 ソフィアは俺がマーリンやシフォンとヤッてもあまり怒らなかった。

 いや、怒ってはいたが、その後のエッチですぐ機嫌が直ったし。


 なるほど、なるほど。



「宰相閣下、今後は先輩とお呼びしても?」


「ははは。ではアノン王子殿下のことは後輩とでも呼びましょうかな?」



 そんな冗談を言い合っていると。



「見つけましたわ、アノン王子!!」


「うわ」


「ちょ、うわとか言わないでくださいまし!!」



 見覚えのある金髪縦ロールが姿を現した。


 魔術学園で事あるごとに突っかかってきて、決闘で俺にボロ負けした人物。


 ソフィアに怒られて、同人漫画家としての才能を開花させてしまった少女である。


 ナタリアだ。



「お久しぶりですね、ナタリア嬢」


「あ、え、ええ、お久しぶりですわ。フェイリスの若き王子にご挨拶申し上げます」



 流石に公の場だからか、お嬢様らしくドレスの裾を摘んでお辞儀してくるナタリア。


 こうしてると普通の令嬢っぽいよなあ。


 なんて考えていると、ナタリアが俺の隣にいるシフォンを見てから、辺りをキョロキョロと見回している。



「一応言っておきますが、ソフィアは来てないですよ」


「っ、わ、分かっていますわ!!」



 どうやらソフィアを探していたらしい。


 まあ、俺がいたらソフィアもいるかも、って思っても不思議ではないか。


 ナタリアがコホンと咳払いをする。



「ところで、そちらの女性は?」


「初めまして。シフォンと申します」


「シフォン? まあ!! ということは貴女がソフィアお姉様の先生なのですわね!!」


「え、ええと、まあ、はい。私は基本的なことしか教えてないですが」



 そうこうして皆でお喋りをしていると。


 少し離れたところに人が集まって、何やら騒いでいる。



「何かあったようですな」


「……みたいですね」



 人集りの方に向かうと、その中心にはユースティアの第一王子であるアレクとその婚約者であるミュリエルがいた。


 そして、その近くにティエラが立っている。


 うわーお、シナリオ通りじゃん。






――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「おなごのうなじは良き」


アノン「分かる」


「うなじ良いよね」「おい宰相」「女の子をおなごという作者が絶妙に気持ち悪い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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