第30話 悪役王子、ユースティア王に謁見する






 やっちまった。いや、ヤッちまった。


 どうして俺はこう、自分の意志というものが弱いのか。

 何故一時の快楽を前にすると、歯止めが利かなくなってしまうのだろうか。


 全ては俺の下半身が悪い。


 そして、その下半身と直結してしまっている俺の脳みそが悪い。


 とどのつまり、俺が一番悪い。



「アノン王子、ユースティアの王都に着きましたよ」


「あ、はい、シフォン先生」



 ユースティアの王都を囲む壁に近づいたところで蒸気車を停める。


 蒸気車は一応、国家機密の代物だからな。


 俺としては広めた方が流通的にも大きく発展すると思ったのだが、リンデンが猛反対した。


 本人曰く「オレ様の作品を模造したものが広まるのは我慢ならん」らしい。


 まあ、そういうわけで国家機密なのだ。


 しかし、蒸気車を極秘に停めておける場所が外国にあるわけがない。


 そこで俺の出番ってわけ。



「インベントリ」



 空間魔術を応用したもので、生成した異空間に物を収納できる魔術だ。


 ちなみにこのインベントリという魔術、マーリンが絶賛した。


 マーリンは空間魔術を移動や領域の拡張に使っていたが、ものを持ち運ぶという発想には至っていなかったらしい。


 速攻で習得していた。


 蒸気車を異空間に収納した俺は、ティエラの方に向き直る。



「ではティエラ殿、我々はこれで。本当は王都まで貴女の馬車を牽引して行きたかったのですが……」


「お気遣い、痛み入ります。ですが、あの自走する車は重要機密なようですし、お気持ちだけ受け取っておきますわ。ここなら王都から馬を連れてくることもできそうですし。あ、護衛の者たちにもアレのことは他言しないよう厳命しておきます」


「ありがとうございます」


「ふふっ。また『お話』したいですね、アノン殿下?」


「っ、え、あ、えっと、は、ははは。では、俺たちはこれで!!」



 ティエラが妖艶に微笑む。

 さっき馬車での出来事を思い出して、俺はドキッとした。


 それからティエラの一団と別れ、俺たちはユースティアの王都に向かう。


 ちなみに徒歩ではない。


 劣等国とは言え、一国の代表である俺たちが徒歩で行くのは流石に前代未聞がすぎる。


 なので偽装用に用意しておいた馬車を異空間から取り出し、馬を繋ぐ。


 え? 馬はどこから出てきたのかって?


 残念ながら、生き物は異空間に収納できない。

 いや、できるにはできるけど、中に生き物を入れると発狂するのだ。


 マーリン曰く、空間内の時間固定にリソースを費やしたことで生じた副次効果らしいを

 中に入った生き物の理性をごっそり奪ってしまうらしい。


 これを転用して広域精神攻撃魔術をマーリンが開発してたが、怖いよね。


 話を戻そう。


 この馬車を引く馬は馬っぽく見えるだけで、実は悪魔だ。


 ソフィアから借り受けた悪魔で、ずっと俺の影に入っていた。


 ……ん? あれ?


 悪魔はソフィアと繋がっていて、その悪魔がずっと俺の影の中にいた……。

 もしかして、俺のやらかしってソフィアに筒抜けだったりする?



「ブヒヒン」



 どこか俺を嘲笑うように鼻を鳴らす馬。


 こ、こいつ、この場で捌いて馬刺しにしてやろうかな。


 そんなことを考えながらユースティアの王都に入り、街の中央にある王城へ向かう。


 フェイリスの城は改築して大きくなったが、それでもなおこちらの方が大きく見えるのは何故だろうか。


 ユースティア城に向かうまでの道中、シフォンが声をかけてきた。



「アノン王子」


「なんです?」


「ティエラ殿とヤったんですか?」


「っ、な、何故、それを……?」


「いくら声を抑えても、あれだけギシギシ揺れてたら気付きます」



 やばい。バレバレだったらしい。



「ど、どうか、ソフィアには内緒に……」


「彼女のことです。悪魔を通じてバレてるとは思いますよ?」



 あ、やっぱり?



「でも、そうですね。バレてない可能性もたしかにあります。私が言うことでアノン王子が節操なしを遺憾なく発揮したことがバレるかも知れません」


「うっ、お、俺はどうすれば?」


「話が早くて助かります。……今晩、お部屋にお邪魔するので、エッチなこといっぱいしてください」


「え?」


「な、なんですか!! わ、私だってあんなの聞かされたらムラムラしますよ!! 覚悟してくださいね!! いつもはソフィア嬢がこってり搾り取るところですが、今晩は私がします!!」


「は、はい!!」



 取り引き条件がシフォンを抱くこととか、俺にとっては何の罰にもならない。


 むしろご褒美だ。


 これがマーリンだったなら、無駄に高価な魔術の触媒を買うよう命令してくるだろうな。


 まあ、マーリンはベッドの上で可愛がってやればすぐに甘えん坊になるし、口封じはシフォンより簡単なのだが。



「おい、アホカップル共。もうそろそろユースティア城だ。おっ始めるなよ」



 御者台に座っていたリンデンが、こちらを覗いて言う。


 どうやら会話を聞かれていたらしい。



「し、しませんよ!! こ、ここでは……」


「俺はここでしてもいいですよ!!」


「っ、もう!!」



 シフォンがぺしぺし叩いてくる。可愛いなあ。


 そうこうしてるうちに、俺たちはユースティアのお城に到着した。


 あとはユースティア王に謁見するだけだ。


 俺たちは謁見の間に通され、そこで片膝をついて王様が来るのを待つ。



「王様のおなーりー」



 なんか大臣っぽい人が言うと、謁見の間にムキムキのおじさんが入ってきた。


 そして、目の前の王座にどっかりと座る。



「顔を上げろ、フェイリスのせがれ」


「っ、はい」


「……ふむ、いい顔つきだ。フェイリスのジジイは良い教育をしてんなあ」



 年齢は三十代後半だろうか。


 王様とは思えない粗暴な口調だが、その所作一つ一つは美しい。


 この人がユースティアの王様か。


 小さい頃、父上の仕事について行った時に会ったことがあるが、あまり変わっていないな。


 名前はたしか……。



「オレがユースティアの王、ダルタン・イズ・フォン・ユースティアだ。お前のことはフェイリスのジジイから聞いているが、名を教えろ」


「アノン・フェイリスと申します。父上も会いたがっていましたが、今回は諸事情により私が参上しました」


「諸事情ぉ? はっ、どうせパーティーが面倒臭いとか、そういう理由だろ?」



 うわー、バレてらあ。



「ま、ゆっくりしていけ。ああ、そうだ。それとアノン」


「なんでしょうか?」


「……間違っても、うちのバカ息子の婚約者に手を出したりはするなよ?」


「え? えっと、何の話ですか?」


「ん? 噂じゃお前さん、相当な節操なしだそうじゃねーか。婚約者が十人いるって聞いたぞ」


「噂に尾ひれが付き過ぎてる!!」



 あ、いや。でも節操なしってところは否定できないか。


 今日だってやらかしてるし。



「言われずとも第一王子殿下の婚約者には手出ししません」


「そりゃあ良かった。部屋を用意してある。ゆっくりしていけ」


「はい」



 こうして謁見が無事終わり、俺はユースティアの王都、その王城に滞在することになったのだが……。


 当然のようにトラブルが起こった。


 その大筋はゲームの通りだったが、少し違うところがある。


 それは、俺も巻き込まれてしまったということ。


 具体的には、俺のエクスカリバーがまたも間違いを犯したことだろう。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「間違いまくってると、一周回って正解に思えてくるよね。今日の格言」


アノン「えぇ……」



「シフォン可愛い」「王様が意外とフレンドリーだった」「作者は頭を冷やせ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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