第28話 悪役王子、盗賊を轢く





 フェイリス王国とユースティア王国は、古くからの友好国だ。


 具体的に言うと、フェイリスが建国した当初から少なくない関わりがある。


 というのも、フェイリスが建国するに至った大きな戦争で功績を上げたのが、ユースティア王国の義勇兵たちだったからだ。


 義勇兵の協力によってフェイリスという小国が興り、その義勇兵の中に当時のユースティアの王子様がいたことが一番大きいだろう。


 国力の差に物を言わせて属国にすることもできただろうに、国王となったその王子はフェイリスと対等な友好関係を結ぶことにした。


 その結果、両国は『フェイリスとユースティアに国境無し』と言われるほど仲良しになった。


 ちなみにフェイリスとユースティアに国境無しというのは、ものの例えではなく、ある意味正しかったりする。


 普通はどこの国も国境には砦や検問所を作ったりするものだが、両国の間にはそれが無い。


 まあ、つまり何が言いたいのかと言うと。



「ヒャッホゥ!! アクセル全開だあ!!」



 車で爆走しながら国境を超えても問題無いってことよ!!


 車。そう、車である。


 と言っても、現代で使われているようなハイテク自動車とは全然違うけどね。


 見た目は何というか、船に車輪が付いて、座るための椅子が設置してあるだけって感じ。



「おい!! 飛ばしすぎだ!! 魔力炉がぶっ壊れるだろうが!!」


「あ、ごめーん!!」



 この車は、魔術と錬金術を組み合わせて作った蒸気機関で動いている。


 詳しい仕組みは知らん。


 だって俺は大雑把に説明しただけで、設計や作製をしたのは全部リンデンだからな。

 あ、でもタイヤがスライムを固めて作ったものだってことは聞いた。


 ゴムの代用品らしい。


 その他にも、この世界ならではの材質がふんだんに使われているみたいだ。


 流石はリンデもん。


 俺の欲しいものを何でも作ってくれるとか、あんた最高だよ。



「ったく、なんでオレ様が工房から出なきゃいけねーんだ」


「そりゃあ、リンデン。こいつのメンテができるのがお前しかいないからさ!!」



 リンデンは王都に残りたがっていたが、万が一壊れたらどうしようもない。

 メンテナンスができるエンジニアは絶対に必要だからな。



「……それより、その女をどうにかしてやれ。オレ様の作品にゲロでも吐かれちゃ溜まったもんじゃねぇ」


「ご、ご心配なく……。すぐ、慣れますので」


「シフォン先生、車酔いするタイプだったんですね……」


「平然としているお二人がおかしいんです。他の人も吐いてますから。……うぷっ」



 護衛の騎士数名と共にキラキラを撒き散らすのは、俺の魔術の先生、シフォンである。


 今回、ユースティア王国の第一王子が結婚するに当たって開かれるパーティーのパートナー役である。


 本来こういうのって、婚約者であるソフィアを連れて行くべきなのだろうが……。


 生憎とソフィアは帝国の人間。


 いくら亡命していて今は無関係でも、長年にわたって帝国と戦争しているユースティア王国の貴族たちはあまり良い印象を抱かないだろう。


 というわけで、ソフィアはお留守番。


 ならば魔術の師であるシフォンをパートナーとして連れて行こうということになったのだ。


 まあ、いずれは側室になることが決定してしまっているシフォンだが、側室よりも魔術の師という方が響きが良いからな。


 え? マーリンでは駄目なのかって?


 あのマイクロビキニのじゃロリ魔女は大国が相手でも尊大な態度を取るから駄目だ。


 消去法的にも、適任がシフォンしかいないから仕方がない。



「ん? あれは……」


「馬車が盗賊に襲われてるな」



 リンデンが興味無さそうに言う。


 蒸気車の進行方向で複数人の盗賊たちが一台の馬車を取り囲み、何やら怒鳴り散らしている。


 馬車の護衛と思わしき兵士たちは何人か怪我をしているが、盗賊たちも同様だった。


 放っておいても大丈夫そうだし、無視して迂回しても良かったのだが……。


 俺はテンションが上がっていた。



「リンデン、盗賊は悪い奴らだ」


「あん?」


「悪い奴らには何をしてもいい。俺はそう思う」


「そうだな」


「よし、轢くぞ!! フルスロットルじゃい!!」



 アクセルを踏み、蒸気車が一気に加速する。



「あ? お、おい、なんだあれ!?」


「なんか突っ込んでくるぞ!!」


「ひっ、に、逃げろ!!」



 盗賊たちが初めて見る車に驚いて一斉に逃げ惑うが、絶対に逃がさない。

 別に生かして捕らえても良いのだが、生憎と蒸気車は大した人数を乗せられないからな。


 かと言って盗賊たちを放おっておくわけには行かないので、轢く。



「もっとゆっくり走って、うぷっ」


「あははははっ!! たーのすぃー!!」


「おい!! もっと丁寧に運転しろ!! オレ様の作品に傷が付いたらどうする!!」



 キラキラを吐くシフォン、蒸気車が壊れないか心配するリンデン、逃げ惑う盗賊たち。


 やがて盗賊全員をはねた俺は、一旦馬車の近くに蒸気車を停めた。


 蒸気車から降りて、生きている兵士たちの治療を行う。



「ぐっ、も、申し訳ない。馬をやられて、逃げることもできなかったのです」


「災難でしたねー。良かったら馬車を牽引しましょうか?」


「そ、それは、助かりますが……。貴殿らのアレは、馬なのですか?」


「あ、いえ、なんと言うべきか……」



 やらかした。


 蒸気車の運転でテンションが上がり、思わず突っ込んでしまったが、蒸気車は極秘中の極秘だ。


 世界が変わる代物だからな。


 俺が言い訳に悩んでいると、不意に馬車の扉が開いて誰かが降りてきた。



「詮索はおやめなさい。他者に知られてはならないこともあるでしょう」


「っ、ティエラ様!!」


「え?」



 馬車から降りてきたのは、目元にほくろがある美しい女だった。


 腰まで伸びた艶のある黒髪とルビーのような真紅色の瞳。

 胸は豊かすぎる程で、ソフィアがメロンなら、その女は大玉スイカだろうか。


 たわわな胸に反し、腰は細く締まっており、お尻の肉付きも良い。


 身を包むドレスはその抜群のスタイルを強調するような意匠が施されていて、控えめに言って青少年の教育によろしくなさそうだ。


 それでいてまとう雰囲気は儚げで、無性に保護欲をそそられる。


 俺はこの女を、知っている。



「はじめまして。わたくしはティエラ・フォン・アルカディアと申します」



 『ドラゴンファンタジア』に登場するキャラの中でも、特に男性からの人気を集めた悪役。


 貴族の青少年たちをその美貌で誘惑し、大国であるユースティアを傾け、滅亡寸前まで追いやった魔性の女。


 ユースティアの前王が最も愛した妾であり、現在の王が即位すると共に辺境に追放された人物だった。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「やっぱ未亡人っていいよな。ついでに悪女だったりしたら最高よ。財産とか搾り取られたい」


アノン「曇り無き眼で言ってやがる……」



「ガチでリンデもんじゃん」「盗賊カワイソス」「悪女未亡人は良いよな!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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