第25話 悪役王子、現場を押さえられる
マーリンをフェイリスで受け入れることになってから数日。
フェイリス城の警備はより万全のものとなった。
リンデンによる物理的な防衛力は無論、マーリンによって魔術的な防衛力が格段に上がったのだ。
今はリンデン主導で、王都を囲む防壁の改築に努めており、来年にはより強固な壁になるであろうとのこと。
どれだけの効果があるのかは分からないが、万が一反乱が起こった時の役に立つかも知れない。
「んくっ、アノン様っ、カチカチ、ですね。んっ、気持ち、良いですか?」
「あ、はい。……ソフィア、なんかエッチなので、声は控えてもらえると……」
「あ、すみません」
先に言っておくが、何もエッチなことはしてないですよ!!
ただの肩揉みである。
「随分と凝っていますね、アノン様」
「近頃は師匠にコキ使われてますから……。一国の王子を顎で使うとは。下手したら極刑モノだってのに」
ここ数日、俺はマーリンの手伝いをしている。
手伝いと言えば聞こえは良いが、結局のところパシリだ。
まあ、ためになるっちゃなるけどね。
マーリンは態度こそ尊大だが、その実力はシフォンを遥かに上回る超凄腕の魔術師だ。
たった数日で王都全体を覆う大結界を作ってしまったくらいだしな。
シフォン曰く、列強国のユースティア王国が全力で攻めてきたとしても年単位で耐えられる程の代物だとか。
まあ、実際は兵糧とかの問題があって、二、三ヶ月が限界らしいが。
それでも大国を相手に数ヶ月も保つのは、大陸に数ある劣等国の中でも唯一フェイリス王国だけだろう。
なんて会話をしていると、不意に誰かが俺の部屋の扉をノックする。
「お休みのところ失礼します、お嬢様」
「あら? どうしたの、ナタリー」
ナタリーはソフィアが亡命してきた際、共に帝国を出たメイドだ。
今はフェイリス城で侍女として働いており、ソフィアの専属ということになっている。
そのナタリーが、慌てた様子でやって来た。
「お嬢様、どうやら王都を囲む壁の強化に労働力として提供していた悪魔たちがサボっているらしく、作業員から苦情が来まして……」
「まあ……。分かったわ、すぐにとっちめに行くって伝えて」
「畏まりました」
「アノン様、申し訳ありません。マッサージの続きはまた」
「悪魔使いも大変だなー」
ソフィアは無数の悪魔を従えている。
それらの悪魔を労働力として王国に提供してもらっているのだが、この悪魔たちが少し厄介なのだ。
ソフィアの近くにいる時は絶対服従なのだが、少し距離があるとサボったりする。
マーリン曰く、ソフィアの支配が完全ではないが故のことらしい。
魔力を鍛え、より強い支配を行うことで改善するそうだが、それは一朝一夕でどうこうなるものではない。
地道な努力がものを言うらしいので、ソフィアは日夜欠かさず鍛錬しているのだ。
ソフィアが部屋を出る。
「……一人になっちゃった……」
どうしよう。
魔術の鍛錬は気分じゃないし、特にやりたいことも無い。
困ったな。
「……久しぶりに一人遊びでもするか」
もちろん、男の一人遊びとはつまり、エクスカリバーを右手で磨くのだ。
ネタは頭の中のソフィア。
あんな服やこんな服を着せたり、破廉恥な台詞を言わせたりする。
これが意外と捗るのだ。
まあ、妄想ソフィアよりも現実ソフィアの方が遥かに良いのだが、それはそれ。これはこれだ。
思い立ったが何とやら。
しかし、俺がズボンを下ろそうとしたそのタイミングで何者かが俺の部屋のドアを勢い良く開いた。
「邪魔するのじゃー」
「っ、な、なんだ、師匠ですか」
部屋に入ってきたのはマーリンだった。
タイミングが最悪だ。
俺はズボンを下ろすのをやめ、慌てて何事も無かったかのように取り繕う。
「なんだとはなんじゃ、儂が来たのじゃぞ。もてなせ」
「もてなせと言われても……。肩でも揉みましょうか?」
「……ふむ。そう言えば、少し肩が凝っておるかも知れんの」
マーリンがソファーにどかっと座り、俺は後ろから彼女の肩を揉む。
おっふ、どことなく甘い匂いがする……。
「おい、アノン」
「うぇ!? あ、は、はい、なんですか?」
「……何を慌てておるのじゃ」
「は、ははは、な、何でもないですよ?」
匂いを嗅いでたとか言えるわけない。
「……礼を言うのじゃ」
「え?」
「だ、だから、その、おぬしがいなかったら、シフォンと仲直り出来なかったからの。感謝してやるのじゃ」
……あらあら、マーリンってば。
「それはどう致しまして」
「う、うむ。そこで、おぬしに何か礼をしてやろうと思ってな。儂にできることであれば何でもしてやるぞ」
俺はマーリンの『何でも』という言葉を聞いてピクッとした。
何でも、何でもかあ……。
いや、別に変なことは考えてないよ?
そりゃあ、この生意気なメスガキのじゃロリマイクロビキニ師匠を分からせてやりたいと思ったのは一度や二度ではないが。
いくら俺でも分別はある。
ましてやいつソフィアが帰ってくるかも分からない状況でやらかす真似はしない。
「んっ、おぬし、中々肩を揉むのが上手いのう」
仮に目の前に、マッサージで頬を赤らめて喘ぐマイクロビキニ美幼女がいたとしても、俺の精神は揺るがない。
揺るが……ない……。
「む? なんじゃ、おぬし。鼻息を荒くしおって。さては儂の美貌に欲情のじゃ? ふん、千年早いのじゃ!!」
……。
「師匠、さっき何でもするって言いましたよね?」
「ほぇ?」
ああ、ちくしょうめ。
また間違いを犯しちまったよ。
でも元はと言えば、妄想ソフィアでエクスカリバー磨きをしようとしたタイミングで入ってきたマーリンが悪いと思うのだ。
そうだ、俺は悪くない。
「んお゛っ、お、おぬし、あ、あとで、お、覚えて、おくのじゃぞお……」
なんて生意気なことを言われたら真っ昼間でも延長戦しちゃうわけで。
マーリンから生意気さが消え、段々甘えるようになってきた頃。
「何をしているのですか、アノン様?」
「あ……」
「んお゛っ、も、もっとぉ、欲しいのじゃあ」
完全に現場を押さえられてしまった。
よし、死のう。
――――――――――――――――――――――
あとがき
作者「次回は修羅場だ修羅場だやっふぉい!!」
アノン「なんだこいつ」
作者「人間はね、赤の他人の修羅場を眺めているのが大好きなんだ」
「修羅場だ……」「ソフィアがどうなるのか気になる」「他人の修羅場はたしかに好き」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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