第24話 悪役王子、仲直りした師弟を見守る






 俺とソフィア、マーリンがフェイリスに来てから数日が経った。


 フェイリス城の中庭。


 そこそこの広さがあるこの場所で、雷や炎が飛び交っていた。



「トゥルーライトニング!!」



 シフォンが杖先から青白い稲妻を迸らせる。


 それは対峙するマーリンの防御魔術を穿つべく、彼女に向かって真っ直ぐ飛んだ。



「くふふ、どうしたのじゃ? この程度ではあるまい!!」


「くっ、だったら!! ――トゥルーインフェルノ!!」



 地獄の炎が形となってマーリンを襲う。

 しかし、マーリンはそれらをまるで意に介さない。


 苛烈なまでの魔術の撃ち合い。


 いっそ殺し合いにも思えるそれは、シフォンの魔力切れという形で決着した。



「はあ、はあ、や、やっぱり勝てない……」


「くふふ。おぬしのような小娘にはまだまだ負けぬのじゃ」


「こ、小娘って、私もう二十歳超えてるんですが」


「儂からすればまだまだ小娘なのじゃ」



 俺は二人に近づいて、タオルと水を渡す。



「お疲れ様です、シフォン先生。師匠」


「あ、アノン王子。ありがとうございます」


「気が利くのう」



 先に言っておこう。


 二人は断じて喧嘩しているわけではない。しっかり仲直りしていた。


 やっぱりシフォンが基本魔術の拡張性云々に着眼していたのは、別にマーリンのライバルに師事していたからではなかったらしい。


 マーリンの早とちりだったのだ。


 それからマーリンは、ついカッとなってシフォンの論文を無価値と言ってしまったことを謝罪した。


 対するシフォンは紛らわしい真似をしてしまったと、これまたマーリンに謝罪。

 謝罪謝罪の嵐になりそうなところをソフィアが仲裁し、無事に関係改善に至ったのである。


 では何故、魔術をドンパチ撃ち合っていたのか。


 単純に、マーリンがシフォンの成長具合を見たかっただけらしい。


 いくら勘違いが原因でどれだけ疎遠になっていたとしても、やはり弟子というものが大切だったのだろう。


 素直じゃないな、マーリンは。



「ふん。まったく、シフォンはやはり儂が一から教えてやらねば駄目駄目なのじゃ!!」


「ひ、否定はできませんが、これでも頑張ってるんです」



 どこか嬉しそうなマーリンに対し、シフォンが俯いてしまう。


 これはいけない。


 俺はせっかく仲直りした二人の仲がまた拗れる前に、マーリンに注意する。



「師匠。しっかりと褒めることも大事ですよ」


「む……。ま、まあ、あれじゃな。立ち回りは悪くなかったと思うのじゃ。魔力の配分を間違わなければ、もう少し長く戦えたと思うぞ」



 マーリンの慰めに対し、シフォンは尚も表情が晴れない。



「で、でも、お師匠様の防御魔術を破れなかったですし……」


「当たり前なのじゃ。儂の防御魔術は並大抵の魔術師でも傷つけることは叶わぬ。大抵の者は途中で諦めるのじゃ。じゃが、おぬしは魔力が尽きるまで、限界まで挑み続けたのじゃ。もっと誇るが良い」


「あ、えっと、はい」



 自分の魔術の腕前を自慢したいのか、それともシフォンを元気づけたいのか分からない物言いをするマーリン。


 いや、これは両方だな。


 むふーとドヤ顔を見せるマーリンと反応に困った様子のシフォンをにやにやして眺めていた、その時だった。



「すみませーん!!」


「ん? リーシア?」



 フェイリス王国お抱え錬金術師のリンデン、その妹であるリーシアが慌てた様子で俺たちの方に駆け寄ってきた。


 リーシアはフェイリス城で働くメイドだ。


 その仕事ぶりは周囲から評価されているらしく、今ではメイド長の補佐をしている。

 最近は後輩の育成にも携わっているそうで、リンデンが自慢していた。



「どうした? そんなに慌てて」


「い、今、魔術学園からお手紙が来て!! なんか緊急っぽい内容です!!」



 俺は手紙を受け取って、その中身を見た。



「……師匠。ちょっと」


「なんじゃ?」


「これ、師匠宛てです」


「む?」



 宛名にはマーリンの名前があった。


 その中身をちらっと見てしまった俺は、視線を逸らしながら手紙を手渡す。



「なんじゃ? ふむふむ……」



 手紙を読み進めるマーリンの顔色が、次第に悪くなる。顔面蒼白だ。


 しばらくして、マーリンが手紙を地面に落としてしまった。



「アノン王子、何が書いてあったんですか?」


「えーと、その、師匠の研究していた儀式魔術の内容が漏れたらしいです」


「? それはたしかに一大事ですが……」



 そうだ。

 魔術の研究内容が漏れたとしても、一大事であれば顔面蒼白になる程ではない。


 基本的に魔術の研究って本人の才能に依るところが大きいからな。


 マーリンの研究している魔術は空間魔術。

 使い手がマーリン以外にほぼいない最上級魔術の一つである。


 しかし、今回の問題はマーリンの研究している内容そのものにあった。


 それは、邪神の召喚だ。


 基本的に何でもアリな魔術師だが、やってはいけないことの分別はある。


 邪神召喚に関する研究はご法度中のご法度だ。


 バレたら即座に研究資格や諸々を剥奪、指名手配される。



「むぅ、困ったのじゃ。儂の研究棟は永久封印の挙げ句、指名手配されてしまったのじゃ。ついでに儂の弟子であったアノンとソフィアも学園から追放らしい」


「!? え、お、お師匠様!? どういうことですか!?」


「……ま、なったもんは仕方ないのじゃ。これからどうするかのう」



 まあ、シフォンと仲直りできたわけだし、邪神召喚の研究をする必要は無くなった。


 そもそもマーリンが邪神を召喚しようとしたのは、シフォンに見放されたことを気に病み、更なる知識を求めてのことだからな。



「……ふむ、アノン。おぬし、儂を雇う気はないか?」


「……はい?」


「良い返事なのじゃ。ではこれからしばらく世話になるぞ」


「ちょ!! え!?」



 そりゃあ、シフォン以上の魔術師であるマーリンがフェイリスに仕えてくれるなら嬉しいが、デメリットも大きい。


 魔術学園に指名手配されてる魔術師を雇うとか、普通にヤバイ気が……。


 てかこれ、扱い的にどうなるんだ? 亡命の受け入れ、になるのかな?



「なーに、心配しなくても良いのじゃ!! 儂ならばこの国の魔術師をより強くしてやれるのじゃ!!」


「ちょ、あの、お師匠様。私の仕事を取られると困るんですが……」


「ふん!! この際なのじゃ、おぬしも鍛え直してやるから覚悟するのじゃぞ!!」


「ふぇ? あ、ちょ、待っ!!」



 ……まあ、シフォンも嬉しそうだし、俺から父上にお願いしてみるか。







――――――――――――――――――――――

あとがき

マーリンとシフォンの絡みは個人的に好き。


「唐突な学園編終わりで草」「大体マーリンが悪い」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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