第21話 悪役王子、レビューを書く






 魔術学園には長期休暇がある。


 前世で言うところのいわゆる夏休みであり、魔術学園に通う生徒たちの多くが帰省する時期だ。


 俺たちも早々にフェイリスに帰省するつもりだったが、マーリンが準備したいと言うので数日ばかり予定をずらして帰る。


 しかし、その数日の間にトラブルが起こった。



「アノン様、付けられています」


「……え?」



 ソフィアと商業区画を歩いている時だった。


 マーリンからおつかいを頼まれて、狭い路地裏にあるような店を回っている時、ソフィアが真剣な面持ちで言った。


 俺は思わず緊張する。


 まさかとは思うが、魔術学園にまで帝国の刺客が来たとでも言うのだろうか。


 いや、大丈夫だ。


 今の俺なら、というかソフィアなら余裕で暗殺者なんて撃退できるはず。



「……あら?」



 使役した悪魔たちを周囲に忍ばせて、追跡者の正体を探っていたソフィアが呆気に取られたような表情を見せる。



「どうかしました?」


「えっと、その、どうやら刺客ではないみたいですね。――ナタリアちゃん、出てきてください」



 え? ナタリア?


 ソフィアが声をかけた先を見ると、金髪縦ロールの美少女とばっちり目が合った。


 まさかとは思うが、先日の決闘のことでまたいちゃもんを付けに来たのだろうか。

 ソフィアの本気の脅しを受けて尚やる気とは、正直なところ恐れ入る。


 と、思ったのだが……。



「ひゃっ!!」



 バッと俺たちに背中を見せてどこかに走り去ってしまった。


 とても仕返しを企んでいるようには見えなかった。



「……なんだったんだ、あれ」


「なんだったんでしょう? あら? ナタリアちゃん、何か落として行きましたね」


「ノート?」



 慌てて走り去ったナタリアの立っていた場所に一冊のノートがあった。


 俺はそのノートを拾い、何気なく中身を見た。


 そして、ぱたっとすぐにノートを閉じる。



「これは……」


「アノン様? 何が書いてあったのです?」


「ええと、これは、言って良いものか……。その、結構刺激が強いものですよ?」


「?」



 ソフィアにノートを手渡すと、彼女は躊躇わずに開いた。


 その中に書いてあったのは。



「な、なんですか、この絵は!! 私とアノン様の破廉恥な絵が!!」


「ナタリア、同人漫画家の才能があったんですねぇ」



 ノート丸々一冊分に書かれていたのは、俺とソフィアと思わしき男女が激しく情事を交わす漫画だった。


 前世で数多のエロ漫画を読破してきた俺からしても、中々のものだった。


 絵柄もコマ割りも、ぶっちゃけプロ並み。


 特にサキュバスコスプレをしたソフィア、牛柄ビキニのソフィア、猫耳ソフィアなどが特に良かったと思う。



「ふむ。強くて頼れるカッコいい素敵なソフィアお姉様が、婚約者の前では一人の女にされてしまうシチュエーションか」



 俺はその場で内容を読み込む。



「ふむふむ。序盤はナタリアと思わしき女の子とソフィアらしき女の子の百合モノ。に、見せかけてソフィアと俺っぽい婚約者がイチャイチャするのを見せつけられる……」



 百合の間に挟まる男、か。一部の過激派に見せたら半狂乱になって破り捨てそうな内容だ。


 しかもナタリア(仮)視点で、若干の寝取られ要素もある。


 好き嫌いが綺麗に分かれそうだな。


 これ、ナタリアがどういう気分で書いたのか物凄く気になるな。



「……割と忠実再現ですね。強いていうならソフィアの胸がナーフされているところが減点です」


「採点しないでください!!」


「む!?」


「ふぇ? ど、どうしたんですか?」



 ……ふむ。


 エロ漫画としての完成度は中々だが、一つだけ文句を言いたい。



「俺のエクスカリバーはもう少し大きいです!!」


「アノン様!? 往来で何を仰っているのですか!?」


「納得できない……」



 というか全体的に、竿役である俺のイラストが若干雑だな。


 ……いや、これはもしかして……。



「そうか、ナタリアは男の裸を知らないのか。つまり想像力による補完でこの漫画を完成させているのか!? そう考えると中々の作品だな!!」



 同性であるソフィアの身体であれば、描くのはそう難しくないだろう。


 逆に想像力で男の裸体を描いてみせたことを評価すべきか。


 ……駄目だ。



「くっ、読んでたら、こう、衝動が……」


「も、もう!! ……早くおつかいを済ませて研究棟に戻りますよ!! その後で、その、しましょう?」



 上目遣いでソフィアがそう言う。


 俺たちは買い物を手短に済ませ、そのまま帰ってベッドイン。


 なお、エロ漫画ノートは後日ナタリアに返却した。

 ついでにレビューを書いたメモを挟んでおいたら、後日凄く睨まれてしまった。


 何故だ。






――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「百合の間に挟まる男は許さない」


アノン「えぇ……」



「作者が過激派やんけ」「ナタリアが意外な方向に行ったw」「そらレビューを書いたら怒るわ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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