第20話 悪役王子、すれ違いに気付く





 ナタリアを決闘でボコった翌日。


 俺は周囲から若干浮いていた。まあ、元から馴染めてはいなかったが。

 不思議なのは、ソフィアがちっとも孤立していないこと。


 何故なのか。

 これがコミュ力の差か? コミュ力の差なのだろうか!?


 まあ、亡命した身とは言え、ソフィアは帝国の公爵令嬢だ。

 縁を持っておくだけなら損はないだろうし、いつか役に立つかも知れない。


 ムカつくのは露骨にソフィアを口説こうとしている輩がいることだ。


 ソフィアの手に触れようとした時は背後から仕留めようかと思ったが、その前にソフィアがその男に向かって言った。



「触らないでくださいませ。八つ裂きにしますよ?」



 実に良い満面の笑みを浮かべるソフィア。


 身持ちが固いというか、そういう姿を見ると嬉しくなる。



「――という事があって、俺ってソフィアに愛されてるなあと」


「惚気ける暇があったら儂の教えた通りに魔術を練習するのじゃ」


「はーい」



 俺は学園での鍛錬が終わり、マーリンから魔術を教わっていた。

 ナタリアに勝ったら、空間魔術を教わる約束だったからな。


 しっかりと約束は守ってくれるらしい。



「空間魔術は使う前に座標を定める必要がある。それをしないと、例えば空間の入れ替えによる転移を使った場合――」


「空中とか土の中に移動してそのまま死ぬから絶対に座標指定を忘れるな、ですよね。もう何回も聞きました」


「何回も言わねば失敗する馬鹿がおるのじゃ。シフォンのようにな」



 え? シフォンって空間魔術が使えるの?


 でもそんな高度な魔術を使ってる様子は一切無かったぞ。


 もしかして、空間魔術の練習中にやからしてトラウマになったとか? ……ありそうだな。



「シフォンは儂に次ぐ空間魔術の才能があった。たった一度の失敗で挫けおって、儂の魔術を継承せず、卒業論文には何を書いたと思う?」


「……基本攻撃魔術の拡張性について?」


「そうじゃ!! あやつは儂に空間魔術を習っておきながら、よりによって儂のライバルが研究しておる内容について書き上げおった!! ああ、ナタリアとかいう小娘の師匠とは別の奴なのじゃ!! 今、思い出してもムカムカするのじゃ!!」



 あっれー? もしかして……。



「シフォン先生に、その論文を無価値とか言ったりしました?」


「む? いや、そこまでは言って……無い、と思うが……」


「ついカッとなって言ってしまった可能性は?」


「……ある、かも知れんのじゃ……」



 あちゃー。



「それ、シフォン先生めっちゃ気にしてましたからね」


「え? い、いや、しかし、あやつは儂のライバルと同じ研究をしておったのじゃぞ!! 落ちこぼれであったあやつを鍛えてやった儂を置いて、あの女にも師事しておったのじゃ!!」


「いや、それは偶然じゃないですか? 基本攻撃魔術を応用したら強いかも、なんて俺ですら考えついたんですから」


「そ、それは……そうかも、知れんが……じゃ、じゃあ」


「!?」



 俺は思わずギョッとしてしまった。


 いつも傲岸不遜なマーリンが、見た目相応に涙を流しているのだ。



「じゃ、じゃあ、儂のせい、なのか? あやつがきっぱり儂のところに来なくなったのは、儂のせいだったのじゃ?」


「え、あ、いや、そ、それは分かんないですけどね!? 一応、本人と話してみた方が良いんじゃないかなと。シフォン先生ならフェイリスにいますし」


「ぐすっ、うぅ、儂は、儂はぁ」



 ぽろぽろと涙を流すマーリン。



「あー、えっと、ほら、よしよし」


「うぅ、ぐすっ、ひっく」



 泣きじゃくるマーリンを宥めながら、俺はどうしたものかと考える。


 実際のところどうなのだろうか。


 シフォンがマーリンに苦手意識を持っているのは本当だろう。


 なんせシフォンの語る『絶対に近づいちゃいけない教師トップテン』で堂々のトップだったわけだし。


 しかし、シフォンがマーリンを差し置いて彼女のライバルに教えを乞うとは思えない。



「ほら、師匠。今度学園が長期休みに入りますし、一緒にフェイリスに行きましょう。ね?」


「ぐすっ、う、うむ。それまで儀式は延期にするのじゃ」


「……ん? 儀式?」



 儀式、魔術学園、マーリン、空間魔術……。



「ハッ!!」


「む、どうしたのじゃ?」



 お、思い出した!!


 マーリン!! 『ドラゴンファンタジア』の学園編で登場する悪役キャラ!!


 何故今まで忘れていたのか!!


 彼女は弟子に見放されたことを気に病み、それを自分が魔術師として未熟だからという結論に至るのだ。


 そして、更なる魔術の知恵を求めて、邪神を召喚しちゃったりする。


 邪神と言っても、その影みたいな、本体ではないものだが、危うく大陸が消滅しうるところまで行くのだ。


 最終的には邪神の影を元の次元に押し戻すためにマーリンは主人公らによって討伐される。


 あれ? でもゲームのマーリンってボンキュッボンのナイスバディーな美女だったはず。

 断じてマイクロビキニの美幼女ではなかったはずだが……。


 まさかマーリンを見放した弟子というのがシフォンだったとは。


 いや、見放したというのがマーリンの被害妄想の可能性が高いけどさ。



「あら? アノン様ったら、マーリン様を泣かせたんですか?」


「あ、ソフィア!! ち、違うから!! これはその!!」



 俺はソフィアに事情を話し、学園の長期休みの際にはマーリンを連れて帰省する旨を伝えた。


 どうか二人のすれ違いであることを祈ろう。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「泣きじゃくるマイクロビキニ美幼女……閃いた!!」


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