第19話 悪役王子、第二ラウンドも勝つ




 マーリンの師匠命令で始まる決闘、第二ラウンドの先手は俺が取った。



「〝魔速撃〟」


「っ、同じ手は食らいませんわ!!」



 ナタリアが俺の先手必勝である魔速撃を、ギリギリで防ぐ。


 辛うじて防御魔術の展開が間に合ったらしい。


 そのままナタリアは反撃に転じようとしたが、生憎と俺は隙を与えない。



「〝魔速連撃まそくれんげき〟」


「っ、くっ、な、なんて弾幕……ッ!!」



 魔速連撃。


 単純な名前だが、要は魔速撃と魔連撃を同時にやるだけである。


 コンマ1秒の基本攻撃魔術が俺の魔力が尽きるまで敵に襲いかかるのだ。


 自分でも怖いと思うよ、この魔術。



「で、ですが、ワタクシの防御魔術を貫く程の威力は――」


「〝魔貫撃まかんげき〟」



 これはマーリンが使っていたような、硬い防御魔術を貫くため、つい最近編み出したものだ。


 基本攻撃魔術を槍のように鋭く、それでいてドリルのように回転を加えることで防御魔術を貫く魔術である。


 ガリガリガリという、嫌な音が修練場に響いた。



「くっ、な、ならば!!」



 ナタリアが自身の展開した防御魔術の内側に更にもう一枚防御魔術を展開した。


 そして、最初に展開した防御魔術が限界を迎える。


 パリンッという硝子の割れるような音と共に、二枚目の防御魔術が俺の魔貫撃を受け止めた。



「今ですわっ!! ファイアランス!!」



 防御魔術を展開したまま、ナタリアが火属性攻撃魔術を撃ってくる。


 ファイアランス。


 中級魔術の中では単純に火力が高く、貫通力に特化したものだ。

 正面から防御したら、まず間違いなく貫通してくるだろう。


 まあ、正面から受ける必要は無いのだが。



「っ、ワタクシのファイアランスを逸らした!?」


「入学試験でやってるので」



 相手が破壊力や貫通力のある魔術を撃ってきた場合は、それを逸らすように基本防御魔術を展開すればいい。


 さて、そろそろ良いかな。



「〝魔曲速連貫撃〟」



 貫通力を持たせたコンマ1秒の連撃の、前後左右からの攻撃。


 その様はまるで、ナタリアを光の膜が覆っているようだった。



「くっ、貴方、全然本気では無かったのですわね!!」


「いえ、本気ではありましたよ」



 ただ、全力ではなかった。


 わざわざ全力を出してまで戦う必要が無い相手に全力を出すわけがない。


 でも勝つために本気ではあった。


 マーリンが『全力』で戦うように言わなかったら、多分第二ラウンドも多少は手を抜いていたとは思うけど。



「きゃっ!!」



 二度目の反撃の機会を与えず、ナタリアの防御魔術を貫通。


 そのまま彼女の胴体に基本攻撃魔術を当てた。


 第二ラウンドも俺の勝ちだ。



「ぐっ、そ、そんな……ワタクシが、負けた?」


「はい、これでもう文句はないですね?」


「くっ、こ、今回の負けは認めますわ!! ですが、貴方がお姉様を弄んでいるのは事実!! ワタクシは諦めませんわ!!」



 しつこいなあ。……ここで完全に潰すか?


 俺の中で殺意に近い感情が湧いた、その瞬間の出来事だった。



「ナタリアちゃん、ちょっと良いかしら」



 俺の婚約者、ソフィアがナタリアの前に立った。



「ソフィーお姉様……」


「ナタリアちゃん、それとこの場にいる皆に聞いて欲しいの」


「な、なんですか、お姉様?」



 ……おいおい、マジっすか。


 ソフィアの黒く染まっていた髪が、純白の色を取り戻す。

 染め粉ではなく、魔術で染めていたものだから、簡単に色を落とせてしまうのだ。



「私の本当の名前はね、ソフィア・ソルティアと言うの」


「え……?」


「私がアノン様の婚約者なのよ。だから、その、弄ばれていないし、普通にイチャイチャしてるだけなの」


「えっ、え? じゃ、じゃあ……」


「えーと、ナタリアちゃんの早とちりになりますね」



 俺は横からソフィアに声をかける。



「ソフィア、正体をバラしちゃったら不味いよ」


「ふふっ。大丈夫ですよ、アノン様」


「大丈夫って……」


「仮に刺客に狙われても、今の私なら撃退できますから」



 ソフィアの影から、無数の悪魔たちが這い出てくる。

 個体差はあるものの、一体一体が容易く人の命を奪い取るような凶悪な悪魔たちだ。


 マーリン監視の下で行う悪魔召喚と使役は非常に効率が良く、暴走した個体は片っ端からマーリンが魔術で片付けるからな。



「お、お姉様……?」


「ナタリアちゃん。貴女が純粋に私のことを心配してくれたのは本当に嬉しいの。でもね……」



 修練場にいた誰もが動けなくなる。いや、マーリンだけは欠伸しているが。


 殺気、とは違う何か恐ろしい気配が、ソフィアから放たれる。



「私の愛しい人を貶めようとか、考えちゃ駄目よ? 私の中では優先順位があるから」


「ゆ、優先、順位?」


「そう。大切な人、絶対に守りたい人。それがアノン様なの。その彼を害するような真似をする人がいたら……ふふっ、どうなっちゃうのかしらね?」



 こ、怖い。凄く怖い。


 ナタリアがその場でぺたんと尻餅をついて、俺の方を振り返る。



「さあ、アノン様!! 帰りましょう!!」


「あ、はい」



 そうして俺たちは修練場を後にした。


 その夜、俺はソフィアから頑張って戦ったからとご褒美を貰った。


 どういうご褒美だったかは、紳士諸君のご想像にお任せする。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「どんなご褒美を貰ったんですかねぇ?」


アノン「////」



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