第22話 悪役王子、フェイリスに帰省する




 フェイリス王国に帰省する。


 本来ならばソフィアの身を守るため、長期休暇の時期でも魔術学園を出るのは避けるべきだろう。


 しかし、まあ、大丈夫っぽい。


 ソフィアは今、数百の悪魔を従えており、常に自らの影の中に潜ませている。


 正直な話をすると、ぶっちゃけ俺よりも遥かに強いと思う。

 総合力という意味でも悪魔の軍勢を従えているのは、圧倒的なアドバンテージだからな。


 もう魔術学園にソフィアを避難させる必要すらないかも知れない。


 今の彼女なら刺客を正面から迎え討てるだろうし。



「ふむ。フェイリスなんぞ田舎だと思っておったが、意外と発展しておるのう」


「……いや、まあ、そうですね……」



 久しぶりに帰ってきたフェイリスの王都は、何というか雰囲気が違っていた。

 道路がしっかり石畳で舗装されてるし、どことなく空気も清潔だ。


 別に前が臭かったわけではないが、こう、少し気になる臭いがしたのだが。


 うちのお抱え錬金術師、リンデンが何かしたのだろうか。


 王城に到着し、俺は馬車から降りた。



「……なんだか、お城が増築されてませんか?」


「されてますね。見栄えはそのままに、防衛力が上がってる気がします」



 変わっていたのは街だけではない。その中心にある王城にも変化があった。


 まず城壁が高く、厚くなっている。


 それらの上には大型のバリスタが等間隔に設置されていた。

 更には城壁の外側に壕があり、落ちたら登るのも一苦労するであろうことが分かる。


 城自体も大きくなっていて、全体的にゴツくなっている気がした。


 あまりにも変化した我が家に困惑する俺の横で、マーリンが辺りをキョロキョロと見回す。



「さて、シフォンはどこなのじゃ?」


「その前に父上に謁見してもらいます」


「む……。儂は早くシフォンと話をしたいのじゃが。あと儂は王族なんぞに下げる頭など持っておらんぞ?」


「でしょうね」



 散々俺を椅子にしてるんだ。


 マーリンから空間魔術を習い始めて、いくつか分かったことがある。


 それは、マーリンが規格外ということだ。


 その気になれば、マーリンは一人で大陸の文明を消し飛ばすこともできる。


 これは比喩でも誇張でもない。


 そんな彼女にとって、一国の、ましてや劣等国の王様なんて敬意を払うような対象にならないだろう。



「まあ、父上はそこら辺が緩いので大丈夫だとは思いますよ」



 王城に入り、謁見の間に向かう。


 謁見の間では先に父上が待っており、俺たちの姿を見て頬を緩ませた。



「おお、アノンよ。よく帰ってきた。元気にしておったか?」


「はい、父上」


「ソフィア嬢、そなたも元気そうで何よりだ。息子が迷惑をかけてはおらんか?」


「いえ、お義父様。アノン様にはいつも助けられております」


「ほっほっほっ。……して、そちらの少女が二人が魔術学園で世話になっているという御人か? なんというか、若いのう。それに、実に過激な格好じゃ」



 マーリンを見た父上が困惑した様子を見せる。


 そりゃあ、俺やソフィアよりもずっと幼く見えるマイクロビキニを着た幼女が師匠とか紹介されてもビックリするわな。


 俺だって息子がいきなりそんな奴を連れてきたらビビるもん。



「マーリンなのじゃ。先に言っておくが、儂はおぬしより歳上じゃぞ。敬意を払うが良い」



 え? 父上って結構歳行ってるんだけど……。


 マーリンって見た目は幼いけど、実年齢はいくつなのだろうか?


 ていうかブレないな、この師匠。よその国だったら一発で無礼打ちだぞ。



「ふむ。魔術には明るくないが、歳を取らぬ賢者もいると聞く。大したもてなしは出来ぬが、どうかごゆるりと寛いでいって欲しい」


「む、う、うむ。そうさせてもらうのじゃ」



 マーリンの物言いに父上は怒ることもなく、普通に笑顔で流した。


 マーリン自身もここまで綺麗に流されるとは思ってもみなかったのか、逆に困惑している。


 こうして父上との謁見が終わり、マーリンを客室に案内する途中。



「おぬしの父親、随分とおおらかというか、呑気そうじゃな。あそこまで見事にスルーされるとは思わんかったぞ」


「ははは、ビックリしたでしょう?」


「うむ。一国の王と言ったらもっとこう、傲慢なものじゃろう?」


「うちの父上は事なかれ主義ですから。でもやる時はやる人なんですよ」



 実際、俺とソフィアの婚約を周辺国に認めさせた政治的な手腕もある。

 お世辞にも賢王とは言えないが、決して愚王でもないのだ。


 そこら辺は素直に尊敬している。


 いずれは俺も王様になるわけだが、少なくとも父上くらい良い王様にはなりたいな。



「ん? あっ、シフォン先生!!」


「え? アノン王子?」



 マーリンを客間に案内する途中でシフォンとばったり遭遇した。



「……ああ、そう言えば魔術学園の長期休暇の時期ですね。ソフィア様もお久しぶりです」


「はい、シフォン様。お久しぶりです」


「それで、そちらの女の子は?」



 シフォンがマーリンを見て首を傾げる。


 あれ? マーリンはシフォンの師匠なわけだし、見たらすぐ気付くはずだが……。



「ほう、儂が誰か分からんか? まあ、おぬしに魔術を教えておった頃はまだこの姿ではなかったから無理もないのじゃ」


「!? え、あ、え? う、嘘、もしかして、お、お師匠様、ですか?」


「久しいのう、シフォン。少しおぬしに話があって来たのじゃ。……付き合ってもらうぞ」


「ひいっ!! あ、い、いえ、私、実は用事がありまして――」



 俺は逃げようとするシフォンをガシッと掴む。



「お、落ち着いてください、先生!! 師匠も脅さないでください!!」


「む、べ、別に脅したつもりはないのじゃ……」


「アノン王子!! どういうことですか!? 何故お師匠様がここに!? 詳しく説明してください!!」


「えーと、二人に誤解があるかも知れないということで話し合いの場を設けたいなと」


「そういうわけなのじゃ。大人しく付き合え」


「ひいいいいいいッ!!!!」



 シフォンの怯え具合が半端じゃないな。


 俺はシフォンとマーリンを同じ部屋に押し込み、その場を後にした。


 本当は二人の会話を詳しく聞きたくてドアに耳を貼り付けていたが、ソフィアに「盗み聞きは良くないです」と怒られたのでやめておく。


 まあ、二人が仲直りできるよう祈っておこう。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「帰ってきたらシフォンのお腹が大きくなっている展開を書こうかなとも思った」



「慌てるシフォン可愛い」「その展開は見てみたかったかも」「面白い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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