第17話 悪役王子、本音を叫ぶ





 研究棟に戻ってきた俺は、マーリンと二人きりになっていた。


 ソフィアは現在、マーリンの塔に入ってすぐの大草原で召喚魔術の練習をしている。


 本来なら彼女の側にいて常に目を光らせて置きたいところだが、研究棟の中なら絶対に安全らしいし、何より俺はこの場を動けずにいた。



「こら、動くでない。儂の椅子ならばじっとするのじゃ」


「す、すみません」



 俺はまた、マーリンの椅子になっていた。


 どうやらマーリンは俺の座り心地が良かったのか、たまに椅子になるよう命令してくるのだ。


 まあ、俺としては美幼女の柔らかいお尻を堪能できるので嫌じゃない。


 父上が知ったら流石に顔を引き攣らせるかもしれないが、まあ、誰もいないしね? 多分きっと大丈夫よ。



「ところでアノン。おぬし、同輩からの決闘を断ったそうじゃな?」


「あ、はい。特にメリットも無かったですし」


「ふっ、くくく。損得で物事を考える辺りが魔術師らしいのじゃ。流石は儂の弟子であり、弟子の弟子じゃな」



 どうやらナタリアの決闘を断ったのはマーリン的に良かったらしい。


 まあ、俺もシフォンを褒められて悪い気はしない。

 シフォンは自己評価が低いものの、真面目に魔術を教えてくれる良い先生だしな。



「おぬしの判断通り、魔術師は利の無い戦いはせぬ。特に大国に仕える魔術師と違って、儂のような研究ばかりしておる魔術師はな」


「あ、そうなんですね」


「うむ。ただまあ、気を付けるのじゃぞ」


「え? 何にです?」


「おぬしが決闘を断った相手は儂の仇敵の弟子でな。もしかすると、執拗に決闘を申し込んでくるかも知れん」


「いざとなったらボコしますよ」


「ほう? その同輩になら余裕で勝てると?」



 俺は相手の実力が判る。


 判ると言っても、そう大したことまでは分からないが、相手の魔力量を見抜くことができる。


 熟練の魔術師ならば誰しも持つ技能だが、シフォンの指示で俺はこの能力を最優先で会得した。

 魔力の量を見れば、その者の扱える魔術の限界が分かるのだ。


 魔力の少ない奴はどうやっても高威力の大規模魔術を使えないからな。


 ただまあ、同時に注意点もある。



「見た限りでは勝てると思いました。ナタリア……その決闘を申し込んできた女の子が体外に放出魔力を制限していないなら、多分」


「ほう。魔力量を誤認することの危険性をシフォンはしっかり教えておるようじゃな」



 相手の魔力量を見誤るのは致命的だ。


 相手がメ◯しか使えないと思ってたら、いきなりメラガ◯アーを撃ってくるくらい致命的だ。


 あくまでも魔力量は相手の強さを測る指標の一つであり、そればかりを当てにするのは良くないってことだな。



「それより師匠、早く例の魔術を教えてくださいよ」


「空間魔術か? 前にも言ったであろう、あれは儂の奥義なのじゃ。そう安々とは教えられん。んっ、んぅー、論文もまとまったし、一息吐くかのぅ」



 俺の背の上でマーリンが背筋を伸ばす。


 おっふ、柔らかいお尻が程良く当たって中々どうして悪くないですな。


 なんて考えていると、マーリンが呆れたように言う。



「……おぬしのぅ。儂のような成長が止まった小柄な女に欲情してどうするのじゃ」


「……おっと」



 気付かないうちに俺のエクスカリバーが鞘から抜かれていたらしい。



「ほれほれ、儂のどこが良いのか言ってみるのじゃ」


「おっふ、ちょ、ま」



 マーリンが背中をぺちぺちと叩く。


 そして、自らのお尻を俺の背中にぐりぐりと押し付けてきた。


 こ、この、ぐっ、色々とまずいぞ……ッ!!


 俺のエクスカリバーはマーリンですらも攻撃対象に入っている!!


 というか、よく今まで我慢したと思う。


 だってほら、マーリンってロリだけど肌とかぷにぷにしてそうだし。

 マイクロビキニのせいで背徳感がましましなのも悪い。



「ほれほれ。早く言ってみろ、アノン」


「……お尻」


「ん?」


「お尻が柔らかい!! マイクロビキニがエッチすぎる!! あー、ちくしょう!! ロリっ娘のマイクロビキニとか犯罪だろうが!! 誘ってんのか、この淫乱のじゃロリ魔術師!!」



 俺の叫びを聞いて、マーリンが動揺する。



「い、いや、まあ、そうか。儂の尻は柔らかいのか。じゃ、じゃが、儂がマイクロビキニを着ておるのは大気中の魔力を効率良く吸収するためであって、別に誘っておるわけでは……」


「んな理論的なこと知りませんよ!! こっちは毎日毎日ソフィアとエッチなことしてますけどね、近くにエッチな格好の人がいたら悶々とするんですよ!! せめてローブでもまとってくださいよ!!」


「お、おう、わ、分かったのじゃ。お、落ち着け」



 不意に小屋の扉が開かれる。


 すると、そこにはソフィアが目を瞬かせて立っていた。


 おっと、今の叫びが聞こえたか?



「何やら大きい声がしましたが……。あっ、マーリン様!! またアノン様を椅子にして!!」


「あ、うむ。すまんのう」



 そう言ってマーリンが俺の背中から降りる。



「もう!! 次に私の、その、未来の旦那様をお尻に敷いたら許しませんからね!! 悪魔たちにお願いしてボッコボコにしますよ!!」


「や、やめよ。おぬしの悪魔の軍勢はちと厄介すぎる」



 ソフィアは悪魔の軍勢を従えている。


 魔術学園に来てから、ソフィアはマーリンという強大な魔術師の監視の下で悪魔を召喚できる。

 つまり、暴走の危険を心配する必要が一切無いのだ。


 それからソフィアの悪魔軍は日に日に数を増やし、今やその数は百を超えている。


 二、三年も経てばその数は何十、何百と増えていることだろう。


 冷静に考えてみたらヤバイよね。

 一個人が持って良い兵力を遥かに凌駕してるわけだし。


 マーリンもソフィアの潜在的な危険性を理解しているのか、あまり強気には出ないし。


 我が婚約者ながら恐ろしいぜ。



「ソフィア!!」


「きゃっ、ど、どうしたんですか、アノン様?」


「じゃあ師匠!! 俺は少しソフィアと特訓してくるので失礼します!!」


「う、うむ」



 それからソフィアと熱い夜を過ごした翌日。



「今日こそワタクシとの決闘を受けてもらいますわ、アノン王子!! ソフィーお姉様をかけて!!」


「え、えぇ?」


「えっと、ナタリアちゃん? どういうことなの?」



 俺もソフィアも困惑の声を漏らす。


 結局、どうやら俺はナタリアと決闘しなければならなくなったらしい。







――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「マイクロビキニ着てる理由あったんだ……」


マーリン「儂を痴女とでも思っておったのか」



「この主人公、脳が下半身に直結してやがる!!」「あとがきで笑った」「面白い!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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