第16話 悪役王子、決闘を断る




 魔術学園に入学し、学園生活が始まった。


 と言っても、その授業内容は実戦に次ぐ実戦、時々知識を養うためのお勉強で、基本的には修練場で魔術の練習をするばかりだった。


 そして、学園が終わったらソフィアと共に研究棟にあるマーリンの塔に向かう。


 マーリンから魔術の理論を学び、その理論を翌日の学園で試す。

 その繰り返しで、他の学生との交流も最低限という、学園生活とは名ばかりのものだった。


 しかし、それでも他の学生たちの実力を把握するには十分だったと思う。


 溜め息を吐きたくなる。

 シフォン先生が自分を中の下だと言っていた理由が分かった。


 この学園に集まる魔術師たちは、生徒も教師も才能の塊みたいな奴が多い。

 そういう意味で言えば、ソフィアは間違いなく才能の塊みたいな奴らの側の人間だった。


 まあ、ソフィアは作中でも強いキャラとして描かれていたから分かってたけど、劣等感を感じないというわけではない。


 ソフィアは人当たりも良く、学園では誰に対しても分け隔てなく接する。

 当然、俺以外の男とも会話をするが、俺という婚約者がいる以上不必要に接するような真似はしない。


 婚約早々に浮気した俺とは違って、できた婚約者だと心から思う。


 それでも、やっぱりソフィアが俺以外の男と欠片でも会話しているのを見ていると、妙に胸がざわつくのだ。


 劣等感と嫉妬心。


 それらでぐちゃぐちゃになりそうな心を、ベッドの上で組み敷いて解消していた。


 普段は誰に対しても朗らかな笑みを浮かべているソフィアが、ベッドの上では俺にだけ女の顔を見せる。


 もうね、凄くハッスルしちゃうのよ。


 ソフィアも薄々俺の劣等感や嫉妬心に気付いているのか、終わった後は「私はアノン様のものですよ。他の男なんて欠片も興味ありません」と頭を撫でながら言ってくれる。


 そのまま第二、第三ラウンドへと突入するのだ。


 そんな、淫らなようで愛し合う日々が続いたある日の出来事だった。



「アノン・フェイリス様!! ワタクシと決闘してくださいませ!!」



 教室で魔術の本を読んでたら、なんか絡まれた。


 金髪を縦ロールにした如何にもどこかの国の貴族様みたいな美少女である。


 スタイルはソフィア程でないにしろ、メリハリがあってバランスが良い。


 しかし、俺はソフィア程でないが、そこそこ人当たり良く周囲の人間と接していたはずだ。

 見知らぬ女の子に絡まれる所以は無いと自負してもいい。



「えーと、まず貴女は?」


「ワタクシはナタリア・フォン・アーデルハイド。ユースティア王国、アーデルハイド伯爵家の次女ですわ」



 げっ、ユースティア王国の人間か。


 うーん。

 相手が平民だったならもう少し強気に出られたけど、伯爵家となると面倒だな。



「それで、いきなり決闘とはどういうことです?」



 この魔術学園には、決闘というシステムがある。


 勝者は敗者へ何でも命令する権利が発生し、それが如何なる内容であっても敗者に拒否することはできない。


 そのため、この決闘システムを利用する者は限りなく少なかった。


 精々、学園の教師たちが自らの魔術の研究費用を他の教師からぶん取るために利用するくらいのシステムである。


 たまにマーリンが決闘してるしな。


 その決闘をしろと言われても、こちらには引き受ける義理も理由も無い。

 仮に受けるとしても、納得の行く説明が無くては頷けないし。



「決まっていますわ!! 貴方、ソフィーお姉様と同じ研究棟で暮らしているのを良いことに、お姉様と毎晩……その、なさっているそうですわね!!」


「え、ええと?」



 ソフィーというのは、ソフィアの偽名だ。


 一応、ソフィアは身の安全を守るために変装してるからな。


 名前も変えなくちゃ意味が無い。


 しかし、俺とソフィーが婚約者の関係にあると知られては変装と偽名の意味が無くなってしまう。


 そのため、俺とソフィーはあくまでも同じ研究棟で暮らして同じ人物に師事する同級生、ということになっているはず。


 ……それにしてもお姉様ってなんだ?



「たしか貴方は、帝国から逃げてきた公爵令嬢と婚約していたはずですわね?」


「……まあ、はい」



 ふむ、ナタリアはソフィーがソフィアだとは気付いていないのか。


 俺とソフィアが婚約したことはユースティアの上層部だと結構話題になってるみたいだし、伯爵家の娘となると知っていてもおかしくはない。


 それをいくら教室に他の人がいないとは言え、公然の場で言うのはどうかと思うが。


 まあ、見たところ俺とそう変わらない年頃だろうし、そういう情報に関する認識が甘いのもあるかも知れないが。


 ナタリアが声を荒げる。



「婚約者がいながら、お姉様にまで手を出すなど、許せませんわ!!」


「ちょ、ちょっと待ってください。一体どこの誰が俺がソフィー嬢と致しているなどという噂を流したのですか?」


「マーリン先生ですわ!!」



 あのマイクロビキニロリ魔女がぁ……ッ!!


 そりゃあ、同じ研究棟で暮らしてるわけだから俺とソフィアが毎晩やりまくってるのを把握しててもおかしくはないが!!


 まあ、我慢できなくて毎晩毎晩やりまくってる俺たちにも問題はあるだろうけどさ!!


 できるだけ声とか抑えてるでしょうが!!



「ワタクシが勝ったら、金輪際ソフィーお姉様に手出しするのは止めていただきますわ!!」


「いや、俺がその決闘を受けるメリットが無いじゃないですか」


「っ、そ、それは……」



 決闘は互いに利があって成立する。


 マーリンが他の学園の教師から研究費用を奪い取る際にも、自らの研究費用をかけてるからな。


 ナタリアの決闘に応じた際の俺側のメリットを明確に提示できない以上、俺が決闘を受ける必要はない。


 仮に提示してきたとしても、断る権利が俺にはあるしね。



「ぐ、ぐぬぬぬ、で、では!! ワタクシが負けたら貴方の奴隷にでもなって差し上げますわ!!」


「いえ、要らないです」


「!?」



 奴隷プレイならソフィアとよくやってるし、間に合ってる。


 しかもソフィアって演技派で、『最初は逆らってくるけど、次第に従順になってくる奴隷』とかしてくれるし。


 その他にも俺がして欲しいプレイは嫌な顔一つせず何でもしてくれるし。


 ……そう考えると、ソフィアには俺の趣味に付き合わせてるみたいで悪い気がしてきた。

 今度はソフィアがして欲しいことをしてあげようそうしよう。



「では、俺はこれで」


「あ、ちょ!!」



 俺は呼び止めてくるナタリアを無視して、教室を後にした。


 ソフィアはマーリンから召喚魔術について色々と教わってるらしいし、エッチなことは彼女の勉強の邪魔にならない範囲にしないとな。


 さて、今晩はソフィアとナニをしようか。

 






――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「金髪縦ロール美少女の負けたら奴隷になる宣言で決闘を断った、だと? お前、さてはアノンの偽物だな!!」


アノン「あんた俺のことを何だと思ってんの」



「ただの惚気回で草」「断られたナタリアちゃんカワイソス」「再登場あるかな?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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