第14話 悪役王子、椅子になる




「さて、誰から来る? 儂は全員が相手でも構わんぞ」



 そう言ってニヤリと嗤うマーリンの姿に、受験者全員が息を呑む。

 自身の魔術への絶対的な信頼がある故の発言だろう。


 受験者たちが視線を合わせた。



「全員でなら……」


「そ、そうだ。防御魔術は防御魔術でも、基本防御魔術!!」


「壊せるかも知れない!!」


「や、やるぞ!!」


「おう!!」



 受験者たちが一斉に各々の得意とする魔術を撃ち放つ。


 それを見てマーリンは、つまらなさそうに一言。



「……今年も期待外れじゃな」



 マーリンの基本防御魔術が受験者たちの魔術をまとめて弾く。


 恐ろしく硬いみたいだな。


 いや、厚いのか。

 基本防御魔術は魔力の障壁を張るだけの基本中の基本。

 圧倒的な魔力があったら、並大抵の攻撃魔術では突破できない。


 うーむ、シンプル故に厄介だ。でも、俺との相性は悪くない。


 俺は基本攻撃魔術を放った。



「む?」


「……一発じゃ弾かれるな……なら、物量で押す!!」



 基本攻撃魔術を連射する。魔連撃だ。間を置くことなく、速射で。



「……ふむ」


「うわっ、ずるい!!」



 マーリンが魔力を前面に集中させ、俺の基本攻撃魔術を正面から弾く。


 でも、それならこっちにも考えがある!!


 基本攻撃魔術で曲射。魔曲撃だ。前後左右から攻撃をしかける。


 残念ながらマーリンの防御を突破する程の威力はないが、集中力を削ぐには十分だろう。



「……やるのう。どれ、興が乗った。撃ち合いなのじゃ」


「ふぁ? あっぶね!!」



 マーリンが基本攻撃魔術を撃ってきた。


 俺は咄嗟に基本防御魔術を展開し、ガード。

 しかし、マーリンの基本攻撃魔術は俺の扱うものより数倍上で単純に威力も高かった。


 その場から飛び退いて回避したから良いものの、下手したら大怪我では済まない。


 どうしよう?


 マーリン同様に正面から受け止めたら、あっさりと防御を貫通されるだろう。



「ほれ、どうする? 儂の魔術はお主の防御を貫くぞ?」


「っ、こうします!!」



 俺は展開した基本防御魔術に角度を付けて、マーリンの魔術を逸らす。



「ほう!! 咄嗟に応用しおったか!!」


「ぐっ」



 まずい。


 基本攻撃魔術と違って、基本防御魔術は練習できなかったのだ。


 というか、アイディアが湧かなかった。


 基本攻撃魔術は魔連撃や魔曲撃など、応用のアイディアが湧いた。


 しかし、基本防御魔術はたった今、応用を思いついたのだ。

 何を言いたいのかと言うと、魔力の消費がえげつない。


 俺はひたすら反復練習することで、魔術行使の際の効率と出力を上げることができる。


 つまり、練習したことは本番で強いのだ。


 その逆は最悪なの。

 魔力の効率が最低というか、練習してないことにはとことん弱い。


 基本防御魔術に角度を付けて展開するだけでも数倍は魔力を消耗するのだ。


 今後は基本防御魔術の練習もしなきゃだな。



「くふっ、くははははっ!!!!」



 俺の魔力が底を尽きそうなところで、不意にマーリンが笑って魔術による攻撃を止めた。


 え、な、何?



「よい!! 合格じゃ!! まだまだ青いが、素質がある!! おぬし、名は?」


「え? あ、えーと、アノン・フェイリスです」


「ほう、フェイリスとな? ユースティアの腰巾着みたいな国に、おぬしのような者がおるとはな!! よし、おぬしは儂の弟子にしてやろう!!」


「ふぁ? え、いや、結構――」



 マーリンの弟子? 嫌です。


 シフォンがヤバイって言ってた魔術師の弟子とか絶対にやだ。


 俺がマーリンの申し出を断ろうとすると。



「儂は機嫌が良くなったのじゃ!! ついでに今日の受験者どもも合格にしてやろう!!」


「「「おおおおおおおッ!!!!」」」


「ああ、アノン。儂の弟子になることを拒否するでないぞ? おぬしも受験者どもも不合格にされたくなければな」



 オーマイガッ!! 逃げ場が無くなっちまった。


 今、マーリンの弟子になることを断ったら確実に受験者たちに袋叩きにされる。



「凄いですね、アノン様。……私、何もしてないのに合格になっちゃいました……」



 地味に活躍できなかったことが悔しいのか、ソフィアは何とも言えない顔をしている。



「おい、アノン。こっちに来るがよい」


「え? あ、はい……」


「ここで四つん這いになれ」


「え? えーと、何故に?」


「弟子は師の命令に疑問無く頷くものじゃ。いいからやれ」



 俺はマーリンに言われるがまま、彼女の前で四つん這いになった。


 すると、マーリンが俺の背中に腰掛ける。



「ちょ、え?」


「ふむ、座り心地は悪くないのぅ」


「お、おおう」



 マーリンの柔らかくて小さいお尻が俺の背中に押し付けられる。


 椅子扱い……。な、なんだろう、目覚めそう。


 いや、駄目だ。正気に戻れ、俺!!


 マイクロビキニロリ魔女の椅子になって興奮するとかアウトだろ!!



「……アノン様……?」


「ぴゃっ」



 ソフィアから殺気を感じる。


 だ、大丈夫だ。俺は正気だ。断じてやわこいお尻の下に敷かれて興奮したりはしない。



「さて、おぬしらは今日から魔術学園の生徒となった。先に言っておくが、ここでは命など軽い。死ねばそれまで。ここは魔術を学ぶ場ではなく、己の魔術を磨く場所と心得よ」



 こうして俺たちは魔術学園の入学試験に合格。


 俺はのじゃロリマイクロビキニ美少女の椅子になった。






――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「美少女ロリの椅子になりたい……」


アノン「こ、こいつ、もう目覚めてやがる!!」



「わいもなりたい」「逆になりたくない奴がいるか?」「いや、いない」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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