第13話 悪役王子、魔術学園の入学試験を受ける




 魔術学園。


 それは学園とは名ばかりで、世界中の魔術師が集う大きな都市だ。

 フェイリスの王都よりも人口が多く、まさに学園都市国家と呼ぶべきものだろう。



「まさか俺が、魔術学園の入学試験を受けることになるなんて」



 俺は魔術学園へと向かう馬車の中で揺らされながら、溜め息を零した。


 魔術学園への入学は、実はかなり難しい。


 ある程度の魔術の素養と学園への寄付金が大量に必要だからな。

 ちなみにフェイリスの国庫を使うことは流石に出来なかったので、俺はこの方法で入学することはできない。


 とまあ、このように寄付金を払う余裕の無い者が入学できないという問題がある。

 そこで数十年前から存在しているのが、卒業生による推薦状の発行だ。


 魔術学園を卒業した者は、その実力を認めた者に推薦状を書くことができる。


 推薦持ちが入学試験を高成績でクリアした場合、寄付金無しで魔術学園に通えるようになるってわけ。


 今回、俺はシフォンに推薦状を書いてもらった。



「頑張りましょう、アノン様」


「……うん」



 ふんす、と息巻くのはソフィアだった。


 しかし、その姿はいつもと異なり、純白の髪は艶のある漆黒に染まっている。

 更に黒縁のメガネをかけており、まるで雰囲気が違う。


 変装しているのだ。

 ソフィアは帝国では有名だったからな。


 実を言うと、シフォンはソフィアの推薦状も書いていた。


 つまり、これから俺と一緒に魔術学園まで入学試験を受けに行くのだ。


 ではそもそも、何故シフォンが俺たちを魔術学園に通わせようとしているのか。

 それは政治的な理由もあるが、一番の理由はソフィアの命を守るために他ならない。



「……本当に、ご迷惑をおかけします」


「ソフィアが謝ることではないですよ」



 俺がシフォンに呼び出される少し前、暗殺未遂があった。


 何者かがソフィアの食事に毒を混入させやがったのだ。


 毒味役のお陰で気付いたものの、問題はその毒がソフィア曰く帝国の精鋭暗殺部隊〝夜鴉〟の使うものと同じとのこと。


 ただまあ、夜鴉にしてはやり方が雑らしいが、どのみちソフィアはフェイリスにいても安全とは限らなくなった。


 帝国の暗殺者がどこに潜んでいるか分からない以上、どこよりも安全な場所にソフィアを避難させる必要があった。


 そのどこよりも安全な場所というのが、魔術学園である。


 シフォンの話によると、魔術学園には高度な結界が張られており、関係者以外の立ち入りは絶対に不可能らしい。


 帝国への対抗策を考える間、俺たちは魔術学園で過ごす羽目になったってわけだな。


 問題はその対抗策が浮かばない限り、俺たちは長い時間を魔術学園で暮らす必要があるってことだが……。


 まあ、父上はやる時はやる男だ。


 ユースティア王国と連携して、帝国への対抗策もきっちり考えてくれるだろう。


 そして、俺はいざという時にソフィアを守るための最後の壁。

 ソフィアを暗殺したくば俺を倒してから行け、ってわけだな。


 本音を言うと嫌だよ。


 なんで自分から危険な目に遭わなくちゃ駄目なんだよと声高々に叫び散らしたい。



「あ、見えてきましたよ、アノン様!! 魔術学園です!!」



 でも、ソフィアの笑顔を見ると思っちゃうのだ。


 守りてぇ……。


 二度も過ちを犯した罪悪感からか、それともただソフィアを守りたいだけなのか。


 もう自分のことが分からないよ。



「……そうですね」



 魔術学園が見えてきた。


 周囲を高い防壁と高度な結界魔術で覆っており、魔物一匹の侵入すら許さないであろう堅牢な街。


 その魔術学園の中に入ると、そこは人でたいそう賑わっていた。



「凄い人ですね……。見たところ、通行人の殆どが魔術師みたいです」


「魔術学園は世界中の魔術師の半数が集まると言われてるらしいですよ。びっくりです」



 魔術学園は、四つの区画に分かれている。


 魔術学園の生徒たちが通う学園区画と、商人が集まる商業区画、学生たちが暮らす学寮区画、最後に魔術の研究開発を行っている研究棟区画だ。


 入学試験が行われるのは学園区画で、俺たちの目的地な。


 学園区画に到着した俺たちは馬車から降り、学園区画へと続く門を守る兵士に声をかけた。



「すみません、学園への入学試験を受けたくて」


「一般試験かい?」


「推薦試験です」


「なら推薦状を拝見……。ふむ、本物だな。通って良し。今日の試験がそろそろ始まる頃だし、急いで行った方がいいぞ」


「ありがとうございます」



 魔術学園には世界中の人間が集まる。


 そのため、いつどのタイミングでどれだけの人間が受験に来ても良いよう、年がら年中入学試験を行っているのだ。


 今年度の合格者は来年から通う、って感じだな。


 そして、今年度の入学試験はもう少しで終わりになる。


 ここで落ちたらまた来年さようならってわけだ。



「な、なんだか緊張してきました……」


「シフォン先生の話だと、基礎ができていたら問題ないそうですが……やっぱり不安ですね」



 俺とソフィアは受付で受験手続きを済ませ、実技試験の会場となる広場へと向かう。


 ああ、筆記試験とかは無いらしい。


 そもそも魔術学園を志すくらいならお勉強はできて当然だろ、というスタンスなのだとか。


 広場で俺たちを待っていたのは、露出度が異様に高いロリっ娘だった。

 こう、やたらと布面積の小さいマイクロビキニと三角帽子を被った女の子である。


 いや、自分でも何を言っているのかと疑問に思うが、事実なのだ。


 受験者が集まってくると、露出狂ロリっ娘が言葉を発する。



「儂は今回の入学試験を担当することになった、マーリンじゃ」



 次の瞬間、他の受験者たちがその場で崩れ落ちた。


 俺もビックリする。



「あの、アノン様。マーリンって……」


「あ、はい。シフォン先生が言ってた、絶対に近づいちゃいけない教師トップテンの中の一番目の人ですね」



 シフォン曰く、魔術学園の教師は総じて善良なものの、時々人格破綻者がいるらしい。


 そういう危険人物をまとめたのが『絶対に近づいちゃいけない教師トップテン』なのだ。


 しかし、周囲の受験者が崩れ落ちた理由が分からない。

 俺は適当な受験者に声をかけて、何故皆して落ち込んでいるのか訊ねてみた。



「君、噂を知らないのかい?」


「噂?」


「魔術学園のマーリンは、今まで担当した入学試験で合格者を一人も出したことがなくて有名なんだ」



 え、えぇー、まじっすか。


 ここで俺たちが合格できなかったら、ソフィアを守る計画がご破産になるのだが。



「さて、試験の内容はそう難しくない。儂の防御魔術を突破してみるのじゃ。如何なる手段を用いても構わん」



 そう言ってマーリンは基本防御魔術を展開した。



「さあ、研究を中断してまで来てやったのじゃ。せいぜい儂を楽しませよ」



 ま、やるしかないよな。駄目だった時はその時だ。


 ……それにしても、魔術学園のマーリンって聞いたことがあるな。ゲームに出てたっけ? うーむ、記憶が曖昧だ。







――――――――――――――――――――――

あとがき

のじゃロリは伝統文化。異論は認めない。



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