第11話 悪役王子、性欲を抑えられる




 自分でもあの夜は凄かったと思う。


 途中でやめようと思っても、瞳を潤ませて俺を見つめてくるソフィアを見て必要以上に求めすぎてしまった。


 でも恐ろしいのは、一晩中やってもちっとも萎えることが無かったことだろう。


 流石はアノンの肉体。


 あれから何日も経ったが、ほぼ毎日欠かさず彼女を抱いても元気ピンピンなのが素直に凄い。


 あ、そうそう。ソフィアとは婚約した。


 この三年でソフィアを本当の娘のように可愛がっていた父上だ。

 俺とソフィアの婚約に賛成し、細かいことは全部任せろと言ってのけた。


 普段は事なかれ主義で頼りない王だが、これから起こるであろう他国との色々については全て何とかしてくれるとのこと。


 頼れる父である。


 ある朝。

 ソフィアの隣で目を覚ました俺は、彼女から驚きの言葉を聞くことになる。



「悪魔を召喚して、使役してみようと思います」



 何故か突然、ソフィアがそう言ったのだ。


 いや、たしかに近い未来で革命軍を制圧したい俺としてはありがたいことだろう。


 しかし、ソフィアはどう見ても無理をしていた。


 我ながら単純なことに、俺はソフィアを駒として見れなくなっている。

 婚約して毎晩身体を重ねているだけで、情が湧いてしまったのだ。


 男とはかくも単純な生き物なのかと実感する。


 ソフィアが傷つくところは見たくないし、無理をする姿も見たくはない。



「ソフィア、別に無理はしなくても……」


「いいえ、アノン様。私がしたいのです。この力があれば、私はもう何も奪われない。奪わせない」



 無理はしているが、覚悟している様子のソフィア。


 俺はシフォンやエドウィン騎士団長に相談し、厳戒態勢の下でソフィアの悪魔召喚の行使を執り行うことが決定した。


 中庭でソフィアが呪文を詠唱する。



「サモンルーラー!!」



 膨大な魔力の奔流が天へと昇る。


 悪魔の召喚は、完全なランダムと言っても過言ではない。


 そして、ソフィアの悪魔召喚はある一定の強さの悪魔を問答無用で使役することができる。

 シフォン曰く、彼女の魔力の性質によるものらしい。


 しかし、逆に言うと一定以上の強さを持つ悪魔は使役不可能で、暴走してしまう。


 幼い頃の彼女は自身に使役可能な悪魔しか召喚できなかったために油断して、周囲に甚大な被害を出したそうだ。


 それを防ぐため、俺やシフォン、騎士団が総出で暴走した悪魔を始末する手筈となっている。


 可能なら戦いたくないが……。


 他ならぬソフィアのお願いだったので、断ることができなかった。


 ちくしょう。


 ソフィアを利用するために亡命を受け入れたはずが、余計に危険な目に遭っている気がする。



「っ、来ます!!」



 俺やシフォンが杖を、騎士団が剣を構える。


 刹那、ソフィアの目の前で眩い光が生じ、その光の中から小さな影が出てきた。



「おいおい、ここは人間界かい? 嬢ちゃんがあたしのマスターか?」



 兎のぬいぐるみだった。


 背中からはコウモリのような翼が生えており、額から凶悪な角が伸びる様はたしかに悪魔だ。


 でも、兎のぬいぐるみだった。



「……皆さん。大丈夫です。この悪魔は暴走してません」



 ソフィアのその一言で、全員が武器を下ろす。緊張の糸が解ける瞬間だった。


 兎の悪魔が話しかけてくる。



「あたしの名前は悪魔じゃないよ。あたしゃ、アデウスだ」


「分かりました、アデウス。今日から貴女は私の下僕となりました。以降、私の命に逆らうことを禁じます」


「仕方ないね。あーあー、ったく。悪魔使いに召喚されちまったのが運の尽きだね」



 ソフィアの下僕、兎の悪魔アデウスか。



「アデウスは何ができますか?」


「あたしゃ色恋を司る悪魔だからね。男女の夜をより激しく、その逆もできる」



 なんか、微妙な悪魔が来ちゃったな……。



「より激しく、その逆も?」


「ああ。そうさね、中々寝かせてくれない旦那の性欲を一時的に抑えたりできる。まあ、一時的だから、その後は反動でよりヤバイことになるけどね」


「そう、ですか」



 ちらっとソフィアが俺を見た。


 え、何?



「で、では、その、アデウスはアノン様に付き従ってもらえますか?」


「嬢ちゃんじゃないのかい?」


「はい。……その、私の将来の旦那様は、とても激しくて、最近寝不足気味で……」



 騎士団からどっと笑いが起こる。



「アノン殿下のソフィア殿へのご執心っぷりは有名だからなあ」


「噂じゃ三日三晩ヤりまくってるらしいぜ」


「かー!! うちの王子様はソフィア殿みたいな美少女を好き放題できて羨ましいね!!」


「オレも美少女とイチャイチャエッチしてぇなあ」


「お前には無理無理。不細工だから」



 猥談で盛り上がり始めた騎士団の連中の頭に向けて基本攻撃魔術を撃ち放った。


 殺さないように手加減はしたが、意識を刈り取るには十分な威力だ。



「よし、エドウィン。そのゴミ共を一から鍛え直してやれ」


「ははは、了解しました」



 しかし、アデウスの存在はありがたいな。


 最近は下半身に脳を支配され気味だったし、ソフィアが寝不足に陥っていたのも事実。


 反動とやらが少し気になるが、まあ、大したことないだろう。



「そういうことならよろしくね、坊や」


「よろしくお願いします、アデウス殿」



 アデウスが近づいてくると、最近何かとムラムラしていたものが次第に落ち着いてきた。


 お、おお、これは凄いな。


 俺がアデウスの能力に感心していると、アデウスが不意に近づいてくる。


 そして、何を思ってか俺の周りで鼻をスンスンと鳴らして一言。



「えっと、なんです?」


「坊や、あんた臭いね」


「は? 毎日お風呂入ってますが?」



 アデウスがいきなり喧嘩を売ってきた。


 上等だ。銃杖の試し撃ちの的にしてやろうじゃないか。



「そういう臭さじゃないよ。あたしが言いたいのは……ふむ」


「どうした?」


「いや、何でもないさね。これ以上は言えなかったってだけの話さ」


「言えない? どゆこと?」


「悪魔にも守らなきゃならんルールがあるってことだよ」



 悪魔も色々と複雑なわけか。


 それからもソフィアは悪魔を数体召喚し、その幾体かを他者に付き従わせた。


 ソフィアの悪魔召喚の厄介なところは、他者に相性の良い悪魔を貸し与えられることだろう。


 ゲームでの彼女は誰も信用していなかったため、こういう使い方はしていないが、これはこれで強いと思う。


 ちなみにシフォンも悪魔を借りた。


 熊のぬいぐるみのような悪魔で、シフォンと並ぶと本物の魔女っ娘みたいで正直テンション上がったね。


 ……問題はその夜に起こった。








――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントモブ兵士たち

その後、めちゃくちゃ訓練が厳しくなった。


「悪魔の能力に笑った」「魔女っ娘シフォンは可愛い」「面白い!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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