第8話 悪役王子、スカートをめくる




 盗賊団退治から数日後。



「ご、ご主人様、似合ってますか?」


「うん!! 似合ってるよ、リーシア!!」



 リンデンの妹、リーシアが恥ずかしそうに頬を赤らめる。


 リーシアはふわふわのフリルが付いたメイド服を着ており、フェイリス王国の侍女である証のブローチを左胸の辺りに付けていた。


 彼女は騎士団が保護した後、父上にお願いして俺専属メイドになってもらったのだ。


 ああ、別に善意ではない。


 リーシアの兄は作中屈指のサイコキャラ、マッド錬金術師のリンデンだ。


 まだゲーム本編の領域に達してはいないだろうが、頭のおかしい紳士的なリンデンよりは知性のある粗暴なリンデンの方がいい。


 革命が起こった時、彼の錬金術で作った武器を王国軍に回すことができたら絶対に有利に働く。


 リーシアはリンデンを都合良く利用するための人質であり、彼の裏切りを防ぐための首輪でもあるってわけ。


 そして、何より……。



「やっぱりメイドは良いものだ」



 綺麗な銀髪のリーシアには黒を基調としたメイド服がよく似合う。


 本当はもっとスカートを短くしたいが……。



「うぅ、少しすーすーしますぅ」


「これ以上は問題になりそうだもんなあ」


「ふぇ?」



 スカートは膝丈より上。


 もっともっと、スカートのその奥が見えるくらい短くしたいところだが、これ以上はアウトだ。


 まだ十歳らしいしな、リーシアは。


 あまりエッチな格好をさせると俺の人間性を疑われてしまう。



「アノン王子」


「なんです、シフォン先生」


「どうして私までメイド服を着せられているのですか!! あとスカートの丈が短すぎます!!」


「先生は二十歳を超えてらっしゃいますし、合法なので」


「何の話ですか!?」



 リーシアのついでにシフォンにもメイド服を着てもらった。

 ガーターベルトの結構エッチなやつだ。


 シフォンは見た目こそ魔女っ娘だが、実年齢は二十歳超えのハーフエルフ。


 丈の短いスカートの上にローブを羽織り、とんがり帽子を被ったその姿はまさに魔女っ娘メイドである。



「シフォン先生、とても可愛いですよ!!」


「っ、お、大人をからかうのはやめてください!!」



 ニヤニヤが止まらんぜ。


 このまま二人を押し倒してめちゃくちゃにしてやりたい!!


 でも俺は紳士なので、いたずらで済ませる。



「ウィンド!!」



 こっそり練習していた風魔術を起動し、二人のスカートを捲る。


 リーシアは可愛い赤のリボン、シフォンはちょっぴり大人な白のレース。


 うむうむ、良きかな良きかな!!



「きゃっ!!」


「いい加減にしてください!!」


「あだっ!!」



 顔を真っ赤にしたシフォンが拳骨で頭を叩き、着替えに別室へ移動する。

 リーシアはシフォンの着替えを手伝いに同行した。


 そこで、俺はふと思う。







――あれ? なんで俺、こんなことしてんの?







 急に頭が冷静になる。


 今まで自分が自分ではなかったような、不思議な感覚に陥った。


 いや、というか今のって……。



「本来のアノン、か」



 アノン・フェイリスはわがままな上に怠惰で好色家だった。


 下半身に正直な男で、可愛い女の子と見るや否や王子としての権力を笠に着て寝室へ連れ込むようなゲスである。


 そして、俺の目の前には美少女が二人。


 今の俺は杉岡すぎおか晴香はるかとアノンの記憶と人格が入り混じった存在だが、どちらかと言うと晴香に寄っている。


 しかし、シフォンやリーシアのような美少女を見て、アノンの人格が強く出てきたとしても何ら不思議ではない。


 これは気を付けないと不味いな。


 下手したら下半身に脳を支配されてしまうかも知れない。



「随分と楽しそうなことをしていらっしゃいましたね、アノン様」


「え、あ、ソフィア嬢……」



 満面の笑みを浮かべたソフィアが俺たちに声をかけてくる。


 何故か笑顔が怖い。


 怒っているわけではなさそうだが、こう、何故かとても怖かった。



「……アノン様はメイド服がお好きなのですか?」


「え? えーと、まあ、人並みには?」



 別に前世でメイドスキーだったわけじゃない。


 しかし、何故かメイド服を着た美少女を見るとアノンの部分が反応してしまうらしい。


 本当に気を付けないとな。


 なんてことを考えていると、不意にソフィアが驚愕の行動に出た。


 ソフィアはゆっくりとドレスの裾をたくし上げ、その奥にある男にとっての秘宝を公開してみせたのである。


 彼女の美しい純白の髪と対を為すような、純黒の布。



「え……? あ、あの、ソフィア嬢……?」



 全身の筋肉が完全に硬直する。


 思考が止まる。


 まるでこの世の真理に辿り着いたかのように、頭の中に銀河が溢れ返る。



「シフォン様とリーシアの下着を楽しそうに見ていたではありませんか。……わ、私のものは、見ても面白くない、ですか?」


「あ、いえ、最高です」



 恥ずかしそうに頬を赤らめる姿も、程よい肉付きのすらっと脚も、何もかもが最高だった。


 何が起こっているのか分からない。


 分からないが、男としての、オスとしての本能で察してしまう。


 このまま彼女を誘えば、確実にデキると。



「って、アカーン!!」



 決めた側から思考が下半身に侵されてるぞ、俺!!


 落ち着け!! 俺は童貞、杉岡晴香!! 誰よりも紳士じゃあないか!!



「あの、アノン様?」


「すみません、ソフィア嬢。ソフィア嬢はとても魅力的な女性です」


「え?」


「ですので、その、どうか他人に下着を見せるような真似はお止めください」


「それ、スカートをめくってた人が言いますか?」


「ごもっともです!! 本当に申し訳ございません!!」



 俺はその場で土下座した。


 他に人がいたら問題になるであろう行為だが、誰もいないからセーフ!!



「……コホン。いえ、こちらこそ申し訳ありません。少し気が動転していたようです。お恥ずかしいものをお見せしました」


「動転? え、何故に?」


「……分からないです。何故か貴方を見ていると、妙に胸の奥がざわつくんです」



 え、何それ。


 もしかして俺がソフィアを利用しようとしてることを察知してたり? ……無いよな?


 だって未来で起こる出来事をソフィアに知ることとかできないだろうし。


 うそやだ、怖い。どうしましょ。



「一つ、騎士団の方から言伝を預かりまして」


「え、何です?」


「リンデンの取り調べが終わったので、近いうちにアノン様に引き渡すそうです」



 おお!! まじか!!


 マッド錬金術師ことリンデンは、盗賊団のために武器を作っていたせいで騎士団の取り調べを受けていた。


 と言っても、妹を人質に取られるという事情が事情だったので拷問を受けたりはしていない。


 一部はリンデンが武器を作ったことで無用の被害が出たと彼を責めているそうだが、まあ、そこは仕方ないだろう。


 事実だからな。


 しかし、今後は騎士団のために武器を作ることを約束したため、お咎めは最小限に済むらしい。


 ただの盗賊団を、一部隊とは言え騎士団に匹敵する戦力に変えることができる武器を作れてしまうのだ。


 下手に刑罰を課すより、国のために働かせた方が利するというもの。


 リーシアにも教えてやらないとな。










 それから三年の月日が流れた。


 そして、ソフィアの父であるソルティア公爵の訃報がフェイリスに届いたのも、この頃である。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント登場人物の年齢設定

アノン 十歳→十三歳

ソフィア 十二歳→十五歳

シフォン 二十五歳→二十八歳

リーシア 十歳→十三歳



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