第7話 悪役王子、盗賊団を壊滅させる





「そろそろ盗賊団のアジトみたいです」


「えっと、一応確認しますね」



 俺はすぐ隣を歩くシフォンに硬直した状態で話しかける。


 シフォンも固まっていた。


 しかし、その上で俺は敢えて彼女に問いかけることにした。



「俺たちは闇夜に紛れてアジトを包囲、退路を断った上でアジトにシフォン先生の上級魔術をぶつけて、慌てて盗賊たちが飛び出してきたところを殲滅するっていう作戦でしたよね」


「そういう作戦でしたね」


「俺たちが包囲されてますよね」


「されていますね」



 やっぱり盗賊団退治は上手く行かなかった。


 まあ、何事も上手く行くことの方が珍しいと言うし、気にしても仕方がない。



「へへへ、フェイリス王国の騎士団がまーた来やがったのか」


「この前はコテンパンにやられてたくせによぉ」


「おい、今回は女もいるぜ!! 皆でぶち犯してやろうや!!」


「おいおい!! お前あんな胸の平らな女が好みなのかよ!!」


「顔はいいからオレにも回せよお!!」



 盗賊って品性が無いよなあ。


 そんなことを考えていると、シフォンが眉を寄せながら指示を出す。



「……アノン王子。盗賊たちが分散していて、私の魔術では殲滅が難しいです」


「分かりました。じゃあシフォン先生は防御魔術で騎士たちを守ってください。盗賊は俺が片付けます」


「存分にやっちゃってください。特にあの私の胸を平らと言った盗賊を重点的にやってください。私は平らではないです。Cくらいはあります!! 十分にある方です!!」



 シフォン、Cなんだ。でもちょっと気にしてる?



「大丈夫ですよ、シフォン先生!!」


「アノン王子……」


「シフォン先生の魅力はお尻です!! 小振りで可愛い――」


「ていっ!!」


「痛っ。ちょ、俺、王子なんですけど」


「大人をからかうアノン王子が悪いです」



 せっかく慰めてあげようと思ったのに。


 まあ、異世界だからこそできる発言だとは思うけど。


 今の台詞は日本だったら絶対炎上してるわ。



「ウィンドカーテン!!」



 シフォンが風属性の防御魔術を発動し、騎士団の団員たちを包み込む。


 流石はシフォン、詠唱が速いな。


 風のカーテンが弓を装備した盗賊たちの放った矢を全て弾く。



「チッ、魔術師か!!」


「はっ、大して問題はねぇ!! 有利なのはこっちだ!! やれ!!」



 盗賊たちが剣を片手に斬り掛かってくる。



「くっ、以前よりも数が多いぞ!!」


「前回は本気じゃなかったのか!!」


「密集陣形!! 隊列を崩すな!!」



 騎士たちが隊列を組み、向かってくる盗賊たちを迎え討とうとする。


 数の上では騎士団に分があるものの、退路の無いこちらが不利なのは間違いない。


 よし、乱戦になる前に敵の数を減らそう。


 俺は長杖を握り締め、杖先に魔力を集中させて撃ち放った。


 基本攻撃魔術の連射だ。


 俺はこれを〝魔連撃〟と名付けた。


 シンプルなネーミングセンスにシフォンもソフィアも言葉を失っていたが、他にいい名前が思い浮かばなかったんだから仕方ない。



「ぐお!?」


「な、なんだ、速ぇっ!!」


「お、落ち着け!! 俺たちに魔術は効かねーんだ!!」



 取り敢えず二十発くらい撃ってみたが、あまり手応えが無い。


 盗賊は効かないと言ったが、少なからずダメージはあるみたいだし、威力を軽減されてる?



「シフォン先生。あの盗賊たち、魔術耐性のある装備で武装してます!!」


「そうみたいですね。アノン王子、装備の隙を狙えますか?」


「やってみます!!」



 盗賊たちの装備が魔術耐性有りのフルプレートアーマーだったら不味かったが、見たところ完全武装している盗賊はいない。


 革鎧や小手、膝当てなど、まとっているのは部分的な装備ばかりだ。


 つまり、正確に装備が無い場所を狙って撃てば普通にダメージが通る。


 よし、やってみよう。


 杖先に魔力を溜めて――そいっ!!



「え? な、なんだ、急に魔術が曲がって!?」


「ぎゃあ!?」


「うわあっ!!」



 俺の思い通りに曲げて撃つ基本攻撃魔術、名付けて〝魔曲撃〟だ。

 魔連撃と組み合わせることでより凶悪な性能になる。


 ただまあ、それぞれで運用する時と比べて圧倒的に消費魔力が多くなる。


 数分も撃ち続けたら俺の魔力が尽きるだろう。


 俺の魔力の性質上、もっと修練すれば効率的に使えるようになるとシフォンは言っていたが……。


 はてさて、どうなることやら。



「これで打ち止め、っと。ふぅ、魔力がもう三割も無いです」


「お見事です、アノン王子」



 魔力が三割も残ってるなら撃てよと言われるかも知れないが、魔術師は魔力が尽きたらただの的になってしまう。


 それを避けるために、最低限の魔力を残しておくのが基本だとシフォンから習った。


 理想的な魔力の消費の割合は、攻撃が5、防御が3、補助が2、らしい。


 俺は補助魔術を使えない。

 というかまだ習っていないので、今回は補助を攻撃に当ててみた。



「騎士団の皆さんは盗賊の捕縛を!!」


「「「「了解っ!!」」」」



 騎士団が反撃に出る。


 残った盗賊の数は少なく、いくら装備の質に差があったとしても騎士団の勝利は確実だ。


 問題は……。



「お、おい!! リンデン!! 出てこい!! てめーの出番だぞ!!」



 盗賊団の頭目と思わしき男が叫ぶ。


 リンデン。


 その名はプレイヤーから、『ドラゴンファンタジア』で最も頭の螺子が外れていると言わしめたキャラクターのものだ。


 物腰の柔らかい言動で優しい笑みを浮かべているキャラだが……。



「オレ様に命令するな、ダボカスが。殺すぞ」



 あ、あっれー? なんか思ってたのと違うのが来たぞー?


 いや、間違いなくリンデンではあるのだ。


 しかし、ゲーム本編に登場したリンデンとは似ても似つかない。


 黒のコートを着ており、メガネをかけているところまでは一緒だ。

 しかし、銀色の髪はボサボサで目許に大きな隈があり、粗野な言動の不健康そうな青年だった。


 『ドラゴンファンタジア』に登場した彼は、身だしなみに気を遣う紳士的な言動の人物だったはずだが……。


 何より、目に知性が宿っていた。


 錬金術の研究のし過ぎで狂気に取り憑かれているゲームでの彼とはまるで違う。



「うるせー!! さっさとこいつらを何とかしろ!! 妹をぶち殺されてぇのか!!」


「……チッ!!」



 リンデンが舌打ちする。


 妹? え、リンデンに妹なんかいたっけ? もしかして裏設定的な?


 ……有り得る。


 リンデンって謎の多いキャラだし、分かってるのは頭がイカれてるってことくらいだもん。


 ひょっとしたら今のリンデンは、研究のし過ぎで狂気に取り憑かれる前の状態ってことなのか?


 これ、ワンチャン仲間にできそうじゃね?


 まずは情報集めだ!!



「妹さん、人質にされてるんですか?」


「あ? だったら何だ?」


「いえ、ただ盗賊団がこのまま壊滅したら、妹さんも助かるのではと思いまして」


「チッ。リーシア……妹はそこの盗賊団のダボカスに奴隷の首輪を嵌められちまってな。そいつが死ねば一緒に死ぬようになってんだ。愚図な妹を持つと苦労するぜ」



 奴隷の首輪、か。なら何とかなりそうだな。



「なるほど。ちなみに妹さんはどちらに?」


「言う必要があるのか?」


「言ったら助かりますよ、きっと」


「……」



 リンデンがちらっと草むらに視線を向ける。


 どうやらリンデンの妹、リーシアは視線の先に隠れているらしい。


 俺はシフォンに合図を送った。



「ホーリーディスペル!!」



 流石はシフォン。


 俺とリンデンの会話から意図を汲み取って、リンデンが教えてくれた場所に上級の解呪魔術をかけてくれた。


 それも盗賊に悟られないよう、魔術師にとっては極めて難しい無詠唱で。


 ガチャン、という何かが外れる音が響いた。



「に、兄さん!!」


「っ、リーシア!!」



 奴隷の首輪が外れたことで、自由に動けるようになったのだろう。


 草むらから俺と同じくらいの女の子が出てきた。


 銀色の綺麗な髪と、アクアマリンのような瞳をした女の子だ。



「な、馬鹿な!! 奴隷の首輪が外れただと!?」


「奴隷の首輪の隷属効果は呪いの一種。よく勉強していますね、アノン王子」



 シフォンが感心したように笑う。



「師匠の教えが良いからですよ!!」


「……口の上手い教え子です」



 こうして盗賊団は壊滅し、俺は無事に初陣を終えることができた。


 問題はリンデンとリーシアである。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントアノンの好み

お尻もお胸も大好き。男の子だからね、仕方ないね。


「お胸を気にしてるシフォン可愛い」「主人公のセクハラ発言で草」「男の子だからね、仕方ないね」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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