第6話 悪役王子、膝枕される







「まあ……。では今、フェイリスの騎士たちが出払っているのは盗賊を退治するためなのですね」


「そういうわけです」



 王城の中庭。


 俺はソフィアと雑談しながら、改良した基本攻撃魔術の鍛錬をしている。


 基本攻撃魔術は多岐にわたる応用が可能だ。


 まだ曲射や追尾は難しいが、連射と速射は習得したと思う。

 速射技能と相まって秒間三発は撃てるようになったし、威力も上がったように感じる。


 これで曲射したり、追尾効果を付与したらきっと面白いことになるだろう。


 シフォンも満足そうに頷いてたし。



「うっ、また魔力切れか」



 速射や連射をすると魔力の消耗が激しいらしく、一時間に一回は魔力切れを起こす。


 魔力切れは結構辛い。


 頭痛と吐き気が同時にやってきて、目眩と耳鳴りに襲われるのだ。


 シフォンの話によると、魔力切れの症状を魔力回復ポーションに頼らないで自己回復するのを待てば魔力量がわずかに伸びるらしい。


 だからこうして辛く苦しい思いをしてるわけだが……。


 うぅ、やっぱり魔力切れだけはしんどい。



「アノン様、大丈夫ですか?」


「すみません、ちょっと横になります……」



 中庭に生える木の陰から、俺より一足先に魔力切れを起こして休憩していたソフィアが心配そうに見つめてくる。


 俺はその隣で、大の字となった。


 唐突に吹いた一陣の風が、汗で濡れてしまった俺の身体を優しく撫でる。


 心地良い。心地良いのだが、やはり硬い地面に寝転がると背中が痛くなりそうで仕方がない。



「寝室から枕だけでも持ってくるべきだったかな」



 枕の有無だけで結構変わると思うのよ。


 なんて考えていると、不意にソフィアが俺の頭を持ち上げて、すっと自らの膝の上に寝かせた。


 突然の膝枕に俺はビックリする。


 ソフィア自身も自分の行動にビックリしているようだった。



「あ、あの、ソフィア嬢。これは、何を?」


「な、何でしょうか……。そ、その、特に深い意味は無く、したくなってしまって。ご不快でしたら、すぐにやめます」


「あ、えっと、このままでお願いします」



 美少女の膝枕とか初めてだし、二度と経験できないだろうからな!!


 しっかりとこの感触を魂に刻みつけなきゃ。


 ……それにしても、やっぱソフィアって超絶美少女だよなあ……。


 人形みたいに綺麗な顔だし、肌は潤っていて血色もいい。

 何よりこうやって膝枕されると、メリハリのある身体をしてることが分かる。


 青い空が半分以上も見えない。


 これでまだ十二歳とか、将来性の有望っぷりがすぎると思うのだが。



「アノン様、どこを見ていらっしゃるのですか」


「……青い空を、少々……」


「本当に?」


「ご、ごめんなさい。本当はソフィア嬢の、その、豊かなものを見てました」


「えっちな上に嘘吐きは良くないです」


「はい、すみません」



 えっちなのは仕方ないじゃん。


 そういうのに興味津々な年頃なんだから。

 まあ、中身は良い年してるけどさ。童貞だったんだから仕方ないじゃん。


 ていうか、えっちなのは俺じゃなくて、ソフィアの身体じゃないか。


 人のせいにするなんて、流石は悪役だな。



「アノン様は、大きい方がお好きなのですか?」


「え? ええと、まあ、はい」


「そうですか……。ふふっ」



 正直に答えると、途端に上機嫌になるソフィア。


 なんでそこで機嫌が良くなるんだ? 女の子ってたまに意味分からんよね。



「ん? 何やら騒がしいですね」



 どうやら盗賊団の討伐に向かった騎士団が帰ってきたらしい。


 しかし、この騒がしさは勝利の凱旋というわけでは無さそうだった。


 怪我人でも出たのだろうか。



「何かあったのでしょうか?」


「俺、少し聞いてきますね!!」



 あのまま微妙な空気が流れる中で膝枕されている勇気は俺に無い。

 俺は帰ってきた騎士団のリーダー、騎士団長に声をかける。



「エドウィン騎士団長、何かあったんですか?」


「む、王子殿下。騒がせて申し訳ありません。負傷者の手当の指示をしておりました」


「盗賊団は?」


「それは……」



 俺の問いにエドウィンが言葉を飲み込む。



「失敗、しました」


「え?」


「盗賊一人一人が、我が国の騎士団よりも上等な武器防具を装備していました」



 嘘っだろオイ。


 たしかにフェイリスの騎士団は大した装備をしていないが、それでも一国の軍の装備だ。


 盗賊に劣るとは思えない。



「盗賊たちの中に、錬金術師と思わしき者がいました。その者が作ったものかも知れません」


「……錬金術師?」



 俺は錬金術師と聞いて、ある一人のキャラを思い浮かべた。



「これから国王陛下へ報告に行って参ります」


「あ、ちょ、ちょっと待ってください!! その錬金術師って、どういう風貌でしたか!?」


「え? ええと、黒いコートを着た眼鏡の男でした」



 オゥ、ジーザス。


 間違いない。多分、もしかしなくても絶対にアイツだ。


 『ドラゴンファンタジア』で主人公に武器や防具を提供するクソメガネ錬金術師!!


 そして、作中で頭の螺子が一番ゆるいキャラ、略して〝ゆるキャラ〟の異名で有名なマッドアルケミスト!!


 錬金術の研究のためなら他人はもちろん、自分すらも実験台にするやべー奴。

 一応、主人公陣営ではあるのだが、状況に応じて平気で裏切ったりするから常に疑われて生きている人物だ。


 ネットでは『こいつ悪役やろ』とか『主人公はまずこいつを倒せ』とか言われており、地味に人気なキャラクターだった。



「……味方に引き込めたら……いや、でもリスクの方が大きい、かなあ?」



 あのキャラは仲間にした時のメリットが凄まじく大きい。

 強力な武器や防具を始め、効き目が抜群なポーションを大量に購入することができる。


 しかし、奴はユースティア王国やベルシャーク帝国のような大国で指名手配されている極悪人だ。


 他国から匿って研究施設の提供等を条件に取り引きでもしたら、奴に最高品質の装備を作ってもらうことも可能かも知れないが……。


 ただ、それがユースティアやベルシャークにバレたらまずい。

 何より本人が裏切る可能性が普通にあることが問題か。


 ……うむ。

 革命が起こった時の役に立つとは思うが、リスクの方が遥かに大きい。


 ここは断念した方がいいな。


 今回の討伐作戦は失敗したみたいだが、ただの盗賊団が物量で国軍に叶うはずがない。


 近いうちに盗賊団は討伐されるだろうし、そうなったらあのマッド錬金術師もフェイリスから出て行くはず。


 ここは静観しよう。







 そう、思っていたのだが。



「なんで!! 俺が!! 討伐隊に入ってるんですか!!」


「仕方ないでしょう。一応、アノン王子はフェイリス王国の魔術師の中で私に次ぐ実力者なんですから」


「俺、まだ十歳児ですよ。子供を戦場に立たせるとか、いつからフェイリスは心が虚しくなったのか」


「とても十歳児の言う台詞ではないですね……」



 走る行軍用馬車の中で、俺は叫ぶ。


 あろうことか、俺は父上から盗賊団の第二次討伐隊に同行するよう命令されてしまった。


 なんか王族として初陣は経験するべきとか言われたけど、俺は危ないことしたくないのに!!



「大丈夫ですよ。エドウィン騎士団長曰く、盗賊団は全員非魔術師みたいですから。アノン王子の基本攻撃魔術の連射で終わります」


「……そんなに上手く行くかなあ……?」



 俺は不安を抱えながら、馬車に揺らされるのであった。










――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントソフィア情報

デカイ。まだまだ成長中。


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