第2話 悪役王子、魔術を習う





 ソフィアの亡命を受け入れることが決まってから数日後が経った。


 父はユースティア王国の大使と細かい調整をしているようで忙しくしている。


 そして、俺に魔術の先生ができた。



「どうも。アノン王子に魔術を教えることになりました、シフォンと申します」



 少し気だるそうな半眼のエメラルドグリーンの瞳と髪が特徴的な女性だった。


 美少女と言っても過言ではない可愛らしい女の子だが、実年齢は二十歳を超えているらしい。

 身長の低さと少女のような童顔が相まって十代前半に見えてしまう。


 あと凄く魔女っ娘っぽい格好だった。


 漆黒のローブをまとい、とんがり帽子を被っている様は完全に魔女っ娘である。 



「先生は随分とお若いですね」


「十歳というお若いの代表みたいなアノン王子に言われても困りますが……。まあ、私はハーフエルフですので」


「エルフ!!」



 『ドラゴンファンタジア』の主人公の仲間にもエルフの女の子がいるから存在は知ってたけど、こうも身近にいるとは。



「まあ、私のことはいいのです。それよりも、アノン王子は魔術についてどの程度の認識がありますか?」


「なんかカッコイイ」


「ええ、十分です。まずは魔術の歴史からお教えしましょう」



 そこから始まったのは、魔術の座学だった。


 正直な話、つまらなさすぎて寝てたせいで半分くらい内容を覚えてない。



「アノン王子、聞いてますか?」


「ふがっ、あ、は、はい」


「……どう見ても立ったまま居眠りしていましたが……まあ、口頭で説明するよりも見せた方が分かりやすいでしょう」



 シフォンはそう言うと、俺を連れて王城の中庭に出た。


 長杖を構え、呪文を詠唱し始める。



「ファイヤーボール!!」



 シフォンが構えた杖の先に大人の拳くらいの火の玉が出現した。


 火の玉は用意しておいた的に向かって真っ直ぐ飛び、見事に的中する。


 俺はぱちぱちと拍手した。



「おおー!! 凄いですね!!」


「今のは火属性の初級魔術、ファイヤーボールです。魔術には属性があり、火、水、風、土の基本属性を中心に、光や闇、毒や治癒などの派生属性があります」



 ふむふむ。



「派生属性については省きましょう。こちらは本格的に魔術を学んでからです」


「じゃあ、俺が学ぶのは基本属性ってわけですね!!」


「そうなります。ただまあ、そもそも魔術というのは才能に依るところが大きいです」


「そうなんですか?」


「はい。かくいう私も、魔術師の才能で言えば中の下くらいでしょう」



 え? そうなの?



「でもシフォン先生は、魔術学園を卒業したフェイリスで一番の魔術師なんですよね? 父が言ってましたよ」


「それは、そうですね」



 この世界には魔術学園というものがある。


 世間で活躍している魔術師は、全員そこの出身と言っても過言ではない。


 入学することすら難しいと言われている程だ。


 父の話によると、シフォンはその学園を卒業した立派な一流魔術師とのことだったが……。


 どういうことだろうか。



「あまりこの国の王子様の前では言いたくありませんが、優秀な人材はユースティア王国やベルシャーク帝国に士官するものですから」


「あー、なるほど」



 そりゃあ優秀な人材は大国に行くだろうなあ。



「正直な話、私から教わっても大した学びは得られないでしょう。学園でも私の論文は無価値だと教授から大バッシングでした」


「そうなんですね」


「えっと、あの、ですね? だから、私から学ぶのは良くないと言っておきます」



 自信が無さそうに言うシフォン。


 俺は吹けば飛ぶような劣等国の王子だが、されど一国の王子である。


 教える側が不安になる気持ちも何となく分かる。


 しかし、ここでシフォンを逃がしてしまっては次の魔術の先生を探すのにまた長い時間がかかるだろう。


 俺はそこまで待てる人間ではない。


 どうにかしてシフォンに教える気になってもらわなくちゃな。



「シフォン先生」


「……なんでしょう?」


「シフォン先生の杖、凄く使い込まれていてボロボロですよね」


「ええ、まあ……。ずっと使ってる杖ですから」



 くっくっくっ。


 数々のギャルゲーで美少女を落としまくってきたゲーマーの実力を見るがいい!!



「きっと先生は、魔術が大好きなんですよね」


「それは、まあ、はい」


「俺は魔術を教わるなら、先生みたいに魔術が大好きな人から教わりたいです」



 シフォンが俺の目を真っ直ぐ見つめながら、問いかけてきた。



「……何故ですか?」


「俺も魔術を大好きになりたいからです」



 俺は笑顔で言う。


 シフォンはポッと頬を赤くし、とんがり帽子を深く被って俯いてしまった。


 アノンは将来、結構なイケメンに育つ。


 その顔と声で沢山の女の子に手を出す好色家でもあるからな。


 まだ幼い俺にもその片鱗があるのだ。



「……そうですか。なら、務まるかどうかは分かりませんが、頑張らせてもらいます」


「はい!! よろしくお願いします、シフォン先生!!」


「……悪くない響きですね、先生というのは」



 シフォンが俯くのを止めて顔を上げた。


 よしよし。

 上手いことやる気になってくれたようで何よりである。



「では、まずはアノン王子の魔力の性質を調べましょう」


「魔力の性質? そんものがあるんですか?」


「はい、性質によって扱いやすい魔術の属性が変わってくるんです。手を出してください」



 俺は言われるがままに右手を差し出した。


 すると、シフォンが俺の差し出した手を優しく両手で握ってくる。


 お、おお、女の子の手って柔らかいな……。


 前世では微塵も女の子と関わることができなかったからか、少しテンションが上がってしまったのは心の内に秘めておこう。


 そんなことを考えていると、シフォンの手から暖かい何かが伝わってきた。


 この暖かいものは、もしかして魔力だろうか?



「どうですか、先生!!」


「……随分と珍しい魔力の性質ですね」



 シフォンが目を瞬かせながら言う。



「珍しい?」


「はい。魔力量は十分ですし、むしろ多い方でしょう。ただ魔力の性質が属性魔術の使用に向いていないと言いますか、不得手だろうと言いますか」


「え? もしかして才能無しですか?」


「いえ、現時点では何とも……。基本的な魔術は習得できるでしょう。魔力を撃ち出す基本攻撃魔術と、魔力の障壁を展開する基本防御魔術は問題無く使えるようになるかと」



 それを聞いて俺はホッとした。


 『ドラゴンファンタジア』の主人公やその仲間たちはド派手な魔法をバカスカ使っていてカッコ良かったからな。


 せっかく魔術のある世界で才能が無くて使えないとか地味にショックだし。


 まだ見込みがあると分かって安心した。


 まあ、アノンはストーリーの中盤で戦うことになる悪役キャラだ。


 主人公と比べたら大して強く無いキャラだが、少しくらいスペックが高くても罰は当たらないだろう。



「じゃあ先生、改めてよろしくお願いします!!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」



 こうしてシフォンによる魔術教室が始まった。


 俺は基本攻撃魔術と基本防御魔術を習得し、見習い魔術師を名乗れるようになった。


 それから数週間が経ち……。


 ついにソフィアがフェイリス王国へ亡命してくる日がやって来た。







――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントシフォン情報

何がとは言わないが、C寄りのB。


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