劣等国の悪役王子に生まれ変わった俺は亡命してきた悪役たちを受け入れますっ!
ナガワ ヒイロ
第1話 悪役王子、前世を思い出す
時は夕刻。
僕と父の二人が夕食に舌鼓を打っている時、父の部下が慌てた様子で報告にやってきた。
「ふぁ!? ベルシャーク帝国のソルティア公爵から亡命の受け入れ願いじゃと!?」
小太りな父が部下からの報告を受けて、その場でひっくり返りそうになる。
僕の名前はアノン・フェイリス。
大陸で最も小さな劣等国、フェイリス王国の第一王子である。
あ、劣等国というのは卑下ではないよ。
軍事力に関しては周辺諸国の足元にも及ばず、同盟国であるユースティア王国の威光を借りて成り立っている国だからね。
父もそれを自覚しているのか、他国との間に問題が起こらないよう事なかれ主義を貫いている。
それは今回も同じだった。
「な、ならぬ!! ベルシャークは長年、ユースティアと敵対している国!! いくら政争で敗れた帝国貴族でも、受け入れたら我が国がユースティアに目を付けられてしまう!!」
「で、ですが、相手はベルシャークの皇族に名を連ねるもの。ましてや亡命させたいのは公爵閣下のご息女のみだそうです。理由無く断るのは……」
「ううむ……」
部下の言葉を聞いて悩む父上。
きっと頭の中では帝国貴族の亡命受け入れを断る口実を考えているのだろう。
僕は政治にとんと無関心なので、気にせず食事を続けることにした。
しかし、続く父の言葉を聞いて
「ソルティア公爵の娘というと、たしか悪魔使いのソフィア嬢じゃったな」
ソフィア。ソフィア・ソルティア。
俺はその名前を知っている。
いや、彼女の名前を知らない者はこの大陸にはいないだろう。
この世界で唯一人の悪魔使いであり、無数の悪魔を従えるお嬢様だからな。
しかし、俺はそういう意味で彼女のことを知っているのではない。
彼女はとあるゲームのキャラクターだ。
俺が前世で遊びまくっていたRPGの一つに『ドラゴンファンタジア』というものがある。
主人公は伝説の竜王から、魔王が復活する影響で乱れてしまった世を正す使命を授かるのだ。
そして、仲間と共に旅をしながら各地に蔓延る悪を倒すという割とベタな王道ファンタジーRPGである。
ソフィアはその『ドラゴンファンタジア』に登場する悪役キャラの一人だった。
前世、そう、前世だ。
俺はたった今、前世の記憶を思い出してしまったのだ。
俺の名前はアノン・フェイリスであり、
前世の俺は普通の学生だった。
基本的には平凡だったが、唯一自慢できるのは記憶力の良さだろうか。
「あ、やばいかも」
だからこそ、俺は覚えていた。
アノン・フェイリスという人物もまた、『ドラゴンファンタジア』の登場キャラであることを。
物語の中盤、主人公ら率いる革命軍によって死ぬことを。
たしかフェイリス王国で前代未聞の大飢饉が起こった際、国王であるアノンが民衆を救おうとしなかったせいで不満が爆発するのだ。
こう言っちゃあ何だが、アノンは善良な人間ではない。
傲慢と言うほどではないが、わがままな上に怠惰で好色家。
見目の整った女を見ると誰彼構わず手を出すような中々のゲスである。
今はまだ十歳だから誰にも手を出していないが、メイドのスカートをめくったり、お尻を触ったりしてるから、好色家の兆候は確かにある。
俺に甘い両親の存在も相まって、王子らしいことは何もしてないし、怠惰なのも間違いないだろう。
わがままなのも合ってると思うし。
今から態度を改めて真面目に生きるというのがベストだろうが……。
「うむ、無理だな」
俺は前世の頃から面倒臭がりなのだ。
今から生き方を変えるのは、正直に言うととても面倒臭い。
今の俺は十歳。
たしか主人公とは同じ年齢で、革命が起こるのは二十歳の頃だったはず。
つまり猶予は十年しかない。
はてさて、どうしたものだろうか。うーむ、本当に困ってしまったな。
と言いたいところだが、実は一つ思いついた。
「そうじゃ!! 悪魔使いの風評は悪い故、我が国では苦労することになると言って断ろう!! ソフィア嬢自身のためという
「父上、受け入れてみてはどうですか?」
「!?」
俺の横からの一言に父上が目を見開いて驚く。
ソフィアは『ドラゴンファンタジア』でも屈指の実力を誇る悪役キャラだった。
というのも、彼女は無数の悪魔を従えることができる。
その数に制限は無い。
一人で国をいくつも滅ぼせてしまう何気にやばい悪役キャラなのだ。
というか、実際に滅ぼす。
ソフィアを追い出した帝国と、亡命を受け入れず、彼女を見捨てたフェイリス王国を含む周辺諸国を恨み、壊滅的な被害を出すのだ。
だからこそ主人公らによって倒されてしまうわけだが……。
もし、その彼女が味方になったら?
心強いことこの上ない。
ソフィアの亡命を受け入れることで、彼女の復讐する対象から外れることもできるだろうし。
「う、ううむ。アノンよ、そなたが政治に興味を持ってくれたのは嬉しいが、何故ソフィア嬢を受け入れようと?」
「……可哀想だから?」
まさか将来的に破滅するから、その時の戦力にしたいとは言えない。
言ったところで頭のおかしな子と思われて終わりだろう。
父上が困ったように言う。
「アノンよ。ことはそう単純な話ではないのだ。もしソフィア嬢を助けたら、ユースティア王国に目を付けられる。そうなったら我が国は生きて行けぬのだ」
「そうですかね?」
ここはそれっぽいことを言って納得させるしかない。
「上手く行けば、どちらにも恩を売れると思いますけど」
「む?」
「ソフィア嬢の存在は、王国にとっても嬉しい誤算ということです。ソフィア嬢は皇室の血を色濃く継ぐ者。もし王国と帝国が全面戦争を行う際、彼女を旗印とし、戦後の統治を円滑に行うことだってできます。まあ、それに関しては王国が勝つという前提が必要ではありますが……」
「……ふむ。続けるがよい」
父上が俺の話に興味を持つ。
見た目は小太りでお世辞にもカッコいいとは言えないが、これでも一国の王様だからな。
頭がとても回るのだ。
特に問題を起こさないよう動くという意味では父上に叶う王は大陸のどこを探してもいないことだろう。
俺は話を続ける。
「どのみち、王国にはメリットがあります。そして、ソルティア公爵にも恩を売れる。仮に帝国でソルティア公爵が復権しようものなら、フェイリスはユースティアとベルシャークという、強大な後ろ盾ができるわけです」
「おお!!」
まあ、ソルティア公爵が復権することは無いとゲーム知識で知ってるがね。
むしろソルティア公爵が暗殺され、ソフィアは止まらなくなるのだ。
今は敢えて言わないがな、HAHAHA。
「ほっほっほっ!! アノンは賢いのう!! よし!! 早速ソルティア公爵に亡命を受け入れる旨を伝えよ!! それからユースティアへの根回しもせんとならんな!!」
父上が途端に元気になる。
あ、そうだ。ソフィアを受け入れるついでに俺のお願いも聞いてもらおう。
「父上、実は折り入って頼みがあります」
「む、どうしたのじゃ。そのように改まって」
「実は魔術の勉強がしたくて。家庭教師を雇って欲しいのです」
この世界には魔法がある。
アノンは面倒臭がって学ぼうとしなかったが、俺は興味津々だ。
ド派手なものじゃなくていいから、絶対に使ってみたい。
すると、俺が何かに興味を持って学ぼうとしていることが余程嬉しかったのか、父上が大粒の涙で頬を濡らす。
その隣で父上の部下まで涙していた。
おい。少し魔術を勉強したいって言っただけでその反応は酷いだろ。
「おお、そうか、そうか!! 先程のことと言い、そなたもようやく王子としての自覚が芽生えたのじゃな」
「良かったですな、陛下」
「うむ!! アノンよ。我が国で最も実力のある魔術師を家庭教師にしてやろう!!」
ま、まあ、それなら良いのか?
俺は若干父の反応に納得できなかったが、こうして俺の悪役王子ライフは始まった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
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