第31話

「聖女どもは、お前の力の大きさに嫉妬したのだろう」

「嫉妬?」

「隣の国だからな。噂はよく聞くことだろう。ここには、5人の聖女がいた」

「5人もっ!?う、うらやましい…」

「しかし、その5人の力を合わせても、お前の力には、遠く及ばなかったそうだ」

「へぇ…」


こういう時、どういう反応をすればいいのか分からない。

優越感よりも戸惑いのほうが大きい。


「この国の王子は、自国の聖女とお前をよく比べたそうだ」

「なんて、迷惑な。比較なんて、一番いやがられるに決まってるじゃない」

「そうだ。だから、逃げたのだ」

「ボイコットってわけ?だからって国を放り出して、どうなるか。自分たちが、よくわかってるのに。多くの人が、死んでしまうかもしれないというのに、逃げたの?」

「ああ」

「そんな…無責任すぎる」


だが、いずれ帰ってくることになるだろう。

聖女というのは、自分の役割を放棄すると、力を失ってしまう。

そういう制約があるのだ。

だから、私も国を離れるときには、国王に国の意志だと伝えるための儀式を行った。

この国を離れた聖女たちが、その儀式をしていたのであれば、力を失うことはないだろう。

だが、もし、していなかったら?

役割を放棄したと判断され、力を取り上げられてしまう。

…らしい。先生から、そう教わったけど、実際は、どうなのだろうか。

力を奪われた聖女なんて、見たことがないし、聞いたことがないので、本当か、どうか、実際のところは分からない。

ただ、もしも、本当に奪われるようなことがあれば、逃げ出した彼女たちに待つのは、地獄だろう。


逃げ出した聖女たちは、おそらく聖女の力以外は、普通の人間だろう。

兵士と一緒に訓練していたのであれば、別だろうが。

たぶん、よほど酔狂な人間でなければ、兵士と一緒に戦いの訓練など行わない。


この国を逃げ出したと、オーロラは言った。

ならば、国の意志表明の儀式は、おそらく行っていないはず。

聖女であることに誇りを持っているならば、その力を手放したくないはずだ。

だから、近いうちにきっと、戻ってくることになるはず。

だから、私はそれまでこの国で、様子を見ながら、聖女として、働こう。

もし、この国の居心地がいいのであれば、そのまま住めばいいし、聖女が戻ってきたら、万々歳だ。

だが、戻ってこなかったら…?


……。

その時は、その時考えればいい。

私が、この国を見捨てるなど、出来ないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る