第29話

「す、崇拝だなんて・・・大袈裟ですよ。私は、ただのイチ聖女です。そんな、」

「いえ。違います。あなたは、他の聖女よりも優れている。神にもっとも近いお方。私の知る限り、あなた以上の力を持った聖女を他に見たことがない。かの高名な帝国にだって、いませんでした」

「そ、そうなのですか?で、で、でも、帝国はほら、規模が違いますから。それに賢く、強い国ほど聖女を隠したがるものです。あなたが知らないだけかもしれません」

「そうかもしれませんね。ですが、私はずっとあなたが欲しかった」

「お、落ち着いてください・・・まずは、座って・・・」

「ずっとお会いしたかったのです・・・聖女様・・・いえ、ソニア様・・・」

「ひぇ、近い・・・近いです・・・」

「噂に違わず、素晴らしいお力でした。その素晴らしきお姿を、私は、この先もずっと近くで見ていたいのです。神に近きその姿を」

「ひぇええええ!!!」


王子の目がどろどろと濁っているように見えるのは、きのせい!?

なんで、こんなに執着?されてるんだ。


「お、落ち着いてください!ちょっと、私、外の空気を吸ってきます!王子もどうか外の空気をすって、頭をお冷やしくださいませ~!」

「逃がしませぬ」


逃げ出そうとして、王子に手をガシッと捕まれた。

見た目儚い系美少年なのに、めっちゃ力強い!怖い!

王子の腕には、血管が浮き出ているし、おとなしく離してくれる様子は、ない。

話も通じる様子がない。怖すぎる。


「ひい!ご無礼をお許しください!・・・誘うは、安息の地。ーネムドリーム」

「そ、にあ・・・」

「な、なんなのよ・・・」


すぅと寝息をたてている王子の腕から、抜け出すには時間がかかった。

眠っているくせして、この力強さは、なんなの。


「そういえば、この国の聖女は、どうしたのかしら」


この国の人たちが、素直に教えてくれるとは、限らない。

それに下手に聞いても、やぶ蛇かもしれない。

面倒なことになる可能性だってある。

・・・いや、もうすでに面倒なことになっているかもしれないけど。


「よいしょっ!」


王子をそのまま寝かせておくわけにはいかない。

しかたないので、私に用意された部屋のベッドに寝かせておく。


「こうして見るときれいなんだけどなぁ」


眠る王子の顔は、まるで精巧に作られたお人形のようだ。

整いすぎていて、同じ人間とは思えないほど、美しい。

この顔だけで、あの人間の感情丸出しの顔は、想像できない。


「誰か、この国の事情に詳しくて、尋ねても嫌な顔をしない人は・・・」

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