第28話
「降り注げ、聖なるしずく」
手を天にかざす。
魔法陣が、国中の空を覆った。
国民が、手をかざし、空を見上げていた。
みんな、ぽかんとしている。
「ここまで、大規模な魔法は初めてですからな」
「―癒しの雨」
いうならば、ポーションの雨と言ったほうが早いだろうか。
きらきらと国中に降り注ぐ回復魔法が付随している雨に国民が沸いた。
「おおっ!」
「聖女様のお恵みだ!」
「生き返る!」
「これをツボに入れたら、ポーションには困らないぞ」
「これ、保存期間どれくらいですかー!?」
色々な叫びが聞こえるが、一応喜んでくれているらしい。
「国中に癒しの雨を降り注ぐなど、聞いたことがない…規格外だ」
「規格外な聖女は、お嫌ですか?」
「ああっ!いや、めっそうもない!素晴らしいですぞ、聖女殿。それにしても、本当に隣国から追いだされたのですか?」
「はい。私が、嘘をついても利益はないでしょう?」
「その通りですな…いやはや、もったいない。いやしかし、ありがたい…」
「喜んでいただき、なりよりです」
「聖女様。本当にこの国に来ていただき、ありがとうございます。これで、民の元気も戻ったことでしょう」
「お手伝いできたなら、幸いですわ…。すみません。少し、疲れてしまって、先ほどのお言葉に甘えて、休ませていただいても?」
「もちろん構いませんとも。続けての大魔法ですから。お疲れなのは当然です。聖女様をお連れしろ」
「かしこまりました」
にこりと、笑って前に出てきたのは、この国の王子だ。
「王子様に送っていただくなんて、とんでもないです。私は、別にほかの誰でも構いませんよ」
「でしたら、わたしでも問題ありませんでしょう?」
「それは、そうですが…」
有無を言わさない勢いだ。
にっこりと笑うその顔は、まるで威嚇のように思えて、私はおとなしくついていくことにした。
◆
廊下を歩いていると、兵士や使用人たちが頭を下げて、道を開ける。
王子様がいるからだろう。
しかし、慣れない。
元居た国では、私は一応、王族と同じ権力ということだったが、誰もそんな素振りも態度も見せたことはなかった。
むしろ、使用人扱いされていたことだってある。
だから、私は正直、人から頭を下げられることに慣れていない。
しかも、熱がこもった視線を送られることなんて、一度もない。
「感謝…されているのかしら?」
「もちろんですとも。皆、聖女様に感謝しておりますし、崇拝しております」
「す、崇拝!?」
「はい。あんな神がかりを見て、崇拝しないほうがおかしいでしょう」
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