第16話

「あの人は」

「あいつは、うちが、抱えている術師だ。聖女だけではなく、帝国の卵たちに魔法の指導や教育にも力を入れていてな」

「ああ。それで…」


ずいぶんと教育熱心な人だな。

だから、こちらの話に食いついてきたのか。

でも、なおさら私の話なんて、聞いても楽しくなんてないのではないだろうか。

帝国のお抱え魔法使いなんて、とんでもない実力者だろうし。

…教育者にしては、やけに目がギラギラしているのが、気になるけど。

魔法使いというのは、研究者という側面があるから、勉強には熱心な人がいるから、そのタイプかもしれない。

こんな田舎の聖女の魔法事情まで、知りたがるなんて、勉強熱心だな…。


「話を戻そうか。魔力検知を取得したのは、いつごろだ?それとも血筋か?聖女殿の両親は、魔法に長けている一族なのだろうか」

「い、いえ…。うちは、そんな魔法使いを輩出したことは一度もなくて。だから、私と妹が、聖女としての才能が現れたことに、とても驚いて…」


妹は、かわいいから、聖女にピッタリね!なんて、笑っていた両親を思い出す。

私の時は、これで食い扶持に困らないわねなんて、笑っていたけど。この時、両親が笑っていたのは、私の将来の面倒を見なくて済むのと、自分たちが、将来安定しているからだということに気づいたのは、少し後だった。

聖女という職業は、国のために働く職業であることと、その希少性から、高いお給料と国からの支援がされるから、うちは、平民にも関わらず、ずいぶんと良い暮らしをしていた。

だからこそ、ほかの平民の子からは、あまり良い目で見られなかったのだけど。


―あそこは、いいわね。何もしなくてもいいんだもの。


何もしなくていいのは、両親だ。妹だ。

おかげで、私は…。


「聖女殿?」

「あ、すみません。少し、疲れが…」

「ああ。すまない。こちらこそ、色々と聞いてしまったからな。おい、お茶の用意を」


お茶なんか、飲まなくていいから、早く帰らせてくれないかな。

それと殿下も自分の国に帰ってくれないかな。


「妹も聖女だそうだな」

「はい。私なんかより、よほど優秀です」

「ほお」


殿下が、目を輝かして身を乗り出した。


「あなたより優秀なのか。それは、よほど力に優れているのだな。具体的に聞いても?」

「…妹は、ろくに修行をしていません。ですが、その身に秘めている才能は、私なんかより、よほどすごいと思います」

「…なぜわかる」

「だって、みんなそう言うから」


可愛くて、聖女としての才能もあって、みんなから愛されているんだもの。

それに、


「それに妹が、5歳のころ結界を張ることが出来たんです」

「それで?」

「私が、5歳の時は、結界なんて張ることできなかった。ずいぶんと苦労して、今の大きさまで、張れるようになれただけなんです」

「ふむ。…それでは、今の妹君は、もっと大きな結界が張れると?」

「はい。修行しなくても、張れたんです。きっと、今だって、張れるのでしょう」

「… … …」

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