第14話

「初めまして。聖女殿」


―うわ、顔がいい。


扉を開けてもらい、殿下に笑顔で出迎えられた。

にっこりとほほ笑む殿下を見て、顔がいいってすごいなぁ。やっぱり第一印象って顔で決まるんだな。うちの王子様とは、全然違う。これが顔面格差。なんて、思ってしまう。


「初めまして。殿下」

「ああ。オスカーと呼んでくれ。他人行儀では、寂しい」

「い、…いやいや。恐れ多すぎて呼べませんよ」

「お前なら構わない。許す」

「わ、私が、許せません」


なんで、この人最初から、こんなに好感度高いの?

これが、帝国の王子スキル?

女性の扱い経験値が高すぎて、こうなの?

男性どころか、女性でさえ、初対面の人間の名前呼びには、抵抗がある人間だって、存在することを知らないのか。この人は。

それも帝国の王子様だぞ?世界の偉い人、トップに位置してる人の名前をこんな田舎の聖女が呼べるわけないだろ!そんなことできる人、神経図太いにも程があるわ。


「お前の妹は、名前呼びしてきたぞ」


あ…うちの妹、神経図太かったわ…。恐れを知らなすぎる。一周回って、無邪気にも思える。


「俺は許さなかったがな」


やめて、本当に。妹よ…姉の胃を破壊する気か?


「この度は、うちの妹が大変申し訳ございませんでした」

「よい、許す」

「ありがたき幸せ」

「そう固くなるな。俺のほうこそ、命を救ってもらった恩がある」

「いやいや。それほどの働きはしておりません」

「お前の妹は、俺が戦場に出ないことを責め立ててきたぞ」

「… … …」


リリア、テメェ。

姉を心労で殺す気か?

そして、殿下は、私を責めてるの?お前の妹、無礼過ぎない?処されたいの?ついでにお前も処す?って、遠回しに言ってんの?隠語?

…それにしても妹よ。自殺願望でもあんの?って言いたいんですけど。いや、まじで。

無邪気もここまでくると阿呆だよ。


「どうした?」


黙り込むしかできない私を見つめる殿下の顔は、そりゃあ「愉快」を張り付けたようなものだった。一応、機嫌は良さそうに見える。

しかし、本心はどう思っているのか。

男の機嫌取りなぞやったこともないし、やり方も知らない。

仕事ばかりで、男性経験なんぞ、まるでない。

そのツケが、ここで回ってくるなんて思わないじゃない。

ああ。こうなることなら、馬鹿にしないで先生の「男心掌握マル秘テクニック講座」受けとくんだったなー。

天国にいる先生。心底、馬鹿にしてすみせんでした。

聖女なんだから、国のトップと話す機会がある。だから、そういうときのために勉強しなさい。とか、言ってた言葉、嘘じゃなかったんですね。

どうせ、先生が男と遊びたいだけでしょうとか呆れてて、すみませんでした。

すごい、焦ってます。私。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る