第13話

「聖女だったら、殿下に誘われるの?」

「そうよ。ほかの国の聖女が、どんな人間なのか、興味があるんじゃない」


殿下が誰に興味があるかなんて、どうでもいい。

どうでもいいから、とっととこの国から出て行って、自分の国に帰ってくれないかな。

殿下並みに他国の情勢にかかわる人間が、来るだけで、こっちは大騒ぎだ。

殿下に何かあったら、こんな小さな国なんかあっという間につぶされてしまうだろう。

それなのに妹やらあのバカ王子は、そんな人間にあーだこーだと言ったらしい。本当に勘弁してくれ。王の胃に穴が開かなければいいが。


「…! … …」


ざわざわと騒がしい。

一体、なにごとかと思い、視線を向けて、ひっくり返りそうになった。


「ソニア。疲れているところ、申し訳ない」

「陛下!…っ」


まさか陛下が、こんなところまで、足を運んでくるなど誰も思っていなかったのだろう。

私も寝転がっていたソファから、急いで体を起こそうとした。が、めまいを起こして顔を伏せた。


「よい。そのままで」

「も、申し訳ありません」

「被害は、それほどと聞く。よくやった」

「はい。ありがとうございます」

「体の調子が悪いところ、申し訳ないと思う。しかし、頼みを聞いてくれないか」

「なんなりと」


バカ王子は、偉大な血を受け継いだが、知能は受け継がなかったらしい。

田舎の小さな国と馬鹿にされることは多いが、それでも強い国に合併されたり、侵略されていないのは、ひとえにこの王の力量ゆえだろう。

おかげで、うちの妹もバカ王子も好き勝手出来るのだろうけど。

この国は、確かに小さい。おまけに田舎だ。

だが、戦争に巻き込まれる不安も飢餓の苦しみもない。

財政だって、安定している。

つまり、平和なのだ。

これが、どれほど幸運なことか。

だから、私は王を尊敬している。こうやって、私がこの国の聖女として、働いているのも、この王がいるからに他ならない。

まぁ、もう少し聖女増やしてくれないかなあとか思うけど。結構がちで。


「殿下に会ってもらえないか」

「… … …」


正直、うんざりする。

面倒だな。という気持ちのほうが大きいのは、確かである。

だが、これで断って、噂の殿下の機嫌を損ねても面倒だ。しかたない。ここは、腹をくくろう。どうせ、帝国には、若くて、きれいで、賢く強い、なんかすごい聖女が、わらわらといるんだろう。それに比べられるのかと思うと、胃の腑が重くなる。

まぁ、珍獣見たさもあるのだろう。

早く行って、早く帰ってもらう。それに越したことはない。


「…かしこまりました」

「えぇ!お姉さまだけずるいっ!私も!」

「妹も一緒に連れていくことは許可されていますか?」

「いや。むしろ、連れてくるなと言われている」

「だそうよ」

「どうして、お姉さまが…私より、ブスなのに」


はぁ。とため息をつく。

聖女をアイドルかなんかと勘違いしている妹に毎度、呆れてしまう。


「聖女は、顔じゃないもの」

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