第12話

魔力紋。

生体反応といってもいい。

指紋のように、人には、それぞれ持っている魔力の波紋が違うと言われている。

断言できないのは、それを感知できる人間が、ごくわずかであること。

感知できたとしても、それは何十年という修行を経て、ようやく日常的に使える程度には、難易度が高いがゆえに、人それぞれ見え方に若干の違いがあるからだ。


そんな難易度が高い上に希少性が高い魔力紋の検知を「え?できますけど。普通に」と言われたこちらの驚愕たるや。

しかも、国全体を感知できるレベルとなると、もはや神業といってもいい。

俺の国が抱えている術者ですら、範囲と制限時間が決まっている上に、周りの補助がないと使い物にならないレベルだ。

どこに誰がいて、しかも殺気-感情すらも感知出来るレベルとなれば、神の視点に他ならない。

こんな逸材が、こんなド田舎の極小国にいたとは。

まさに驚きである。


「殿下。あの声の女は、嘘を言っているに違いありません。そんな、国全体の魔力紋を検知できるなど、聞いたことがありません」

「だが、もし存在していたら?本当であれば、どうする」

「本当に存在していたら、そんなのっ…恐ろしすぎるに決まっているじゃありませんか!機密情報どころではなくなります!どこに誰がいるかが分かってしまうのですよ!スパイの前提条件がなくなります!」

「ああ。そうだな。もし、存在して、本当に国全体の魔力紋の検知ができるとあれば、それも常時出来ているとすれば、まさしく…神に等しい」



―絶対に欲しい。


「つまらん国かと思えば、案外。宝というのは、どこにあるか分からないものだな」



泥のように体が重い。

極度の緊張状態で、体中が凝り固まって、痛い。


突然の戦闘と同時進行で、結界の二重張りに加え、結界の張り直し、そのあとは、倒れた建物の撤去に、けが人の治療。

それに加え、


「お姉さま!どういうことですか!殿下が、お姉さまに会いたい!って言ってますの!」

「… … …」


キンキンと脳みそを攻撃してくるこの厄介な妹が、いなければ、もっと良かっただろう。


「殿下が、お姉さまと会うまで、この国を出ないとおっしゃっております!お姉さま、何かしたんでしょ!あの光の玉の即興劇のせいよ。私は、殿下とお話しさせてもらえてないのに」


まじかよ。

帰ってくんないかな。

あいつらがいるせいで、こっちは常時、いつも張っている結界よりも強化したやつを張らないといけない上に、魔力紋の検知までしないといけないんだが。

常に魔力紋の情報が、頭に流れ込んでくる上に、殺気を検知するように術式を組んでいるせいで、どうでもいい痴話げんかやら諍いやらでも、反応してしまい、おかげで、休まる暇がない。

こんな神経高ぶっている状態で、会えるわけがない。


「どうしてお姉さまだけっ!」

「私が、聖女だからでしょ…」


そんなわけで、妹の相手なんてしてられない。もう適当である。

ってか、あなた、うちの王子様と良い仲だったじゃない。あいつは、どうしたのよ。どっか置いてきたの?

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