第9話
「あの殿方は、どなたです?」
「ん?…あぁ。あの方は、 帝国のオスカー殿下だよ」
「まぁ。あの方が噂の…」
帝国のオスカー。
数多の国を手中にした帝国を収める王の子供。
今、オスカーに跪いている自国の王子の情けなさ。
しょせん、こんな小さな国の王子だ。
輝きが違う。違いは、一目瞭然。
あぁ。あの人こそ、私の王子様。
「ああ…ご機嫌麗しゅう。私の名前は…」
近づく私に気づいた殿下が、私を見た。
すっと、目が細められ、品定めするような目つきに私は、勝ちを確信したときだった。
―ドオオオォォオオオン!!!
「きゃぁ!」
「うわ」
突然、鳴り響いた轟音と衝撃に会場が揺れる。
私は、思わず座り込んでしまう。
「な、なに…?」
「なにごとだ」
「殿下を狙った敵のものかと」
「殿下。ここは、危険です。お逃げください」
え?私、まだ挨拶してないんだけど!?今、行かれたら、困る!
「で、殿下!私の名前を…」
「どけ。小娘!」
「きゃっ!」
兵士が、無理やり私を押しのける。
乱暴をされたことがない私は、その力に思わず倒れこんでしまった。
な、なんなの!?この兵士!兵士の分際で、私を倒すなんて許されると思ってるの?
「ちょっといきなり何?」
「リリア!お前、彼女に乱暴するな!」
「そうよ!私を誰だと思ってるの?私は…」
殿下の美しい瞳が、私を見つめた。
アメジストをはめ込んだような美しい瞳が、私をとらえる。
あぁ。殿下。なんて美しい…。
殿下が、私を見つめている。きっと私の美しさに見惚れてしまったのね。
名前を名乗らなくては…。
「殿下…」
『皆さん。聞こえますでしょうか?』
「は?」
無粋な声が辺りに響き渡る。
この不愉快な声は、忌々しい、あの姉の声。
一体、どこから?
きらきらと輝く光の玉が、天井に浮いている。
声は、あそこから出ているらしい。
「なに?」
『会場から、出ることを禁止します。結界が破られてしまいました。今、早急に、国に結界を張り直しております。城には、すでに二重の結界を張り終えておりますので、ご安心下さい。今、そこはこの国で、一番安全な場所です。まぁ、内部に敵がいなければの話ですが…』
「おい!お前、今どこにいるんだ!結界を破られたなんて、怠慢だろ!」
『それを言われてしまえば、返す言葉もありません。申し訳ございません。あとで、お叱りも処置もいくらでも受けます。ですが、今は、しばしお待ちください』
「お前!俺たちに命令するのか?」
『非常事態です。お許しを』
「おい!僕は、王子だぞ!」
「ルイ。お前は、黙れ。…ソニア。いけそうか?」
『はい』
「任せた」
『かしこまりました』
国の結界が、破られた?
ありえない。ってことは、この国には、敵がうようよいるってこと?
気持ち悪い!
「早く!倒しなさいよ!この役立たず!」
あんたのせいで、私の計画が、全部ぱぁになっちゃったんだから!
国の結界がきちんと張りなおされていないせいで、市街のほうが、爆発音で、うるさい。
こんな空気で、どうロマンチックになるっていうのよ!
私が、殿下といい雰囲気に持って行って、そのままお持ち帰りされる予定なのよ!?
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