第8話

「あぁ…ついにお姉さまがいなくなったのね」


昔から、ずっと気に食わなかった。

ブスで、デブで、気持ち悪い姉。

こんな女と血がつながっているなんて、考えたくもなかった。

それなのに、聖女としての能力は、姉のほうがあった。

それが気に食わない。


どうして?

聖女にふさわしいのは、この私でしょ?


こんなにかわいくて、ふわふわしてて、誰もが守りたくなるような少女、それが聖女としてふさわしい人間の条件のはず。

神様も見る目がない。宝の持ち腐れってやつよね。

どうせ、やっても無駄なんだから、聖女としての修行なんてやるわけないじゃない。しつこくあのブスが、誘ってきたけど、私は全力で逃げた。

それに聖女っていうのは、人を癒すのが仕事なんだから。

戦ったりするのは、男の仕事。

私は、守られるだけの女でいいの。

だって、聖女を守るってだけで、勝手に士気が上がってくれるんだから、本当に生きているだけで、私には価値があるのよね。


必死に修行している姉の姿は、見苦しい。

馬鹿みたいに毎日毎日、結界だとか、戦いの訓練に混ぜってもらったりなんかして、汗や血や土でドロドロになって、帰ってくる。

女とは、とても思えない臭い体臭。

化粧もしない。きれいな恰好もしない。

これが聖女の姿とは、誰も思わないだろう。

あのブスは、私のこのやわらかいマシュマロボディを妬んで、筋トレに誘ってくるけど、それをやる女がどこにいるというんだろう。

筋トレなんて、男がするもの。

私は、筋肉なんてつけなくていいの。

硬い女なんて、誰が抱きたいと思うのよ。


結局、聖女なんて、顔なのよ。

王子も馬鹿な側近も私が、抱き着けば、デレデレした顔でだらしなく倒れ掛かってくるし、「君のほうが聖女にふさわしい」とみんなが言ってくる。

まぁ、当然なんだけど。


でも、聖女の仕事である結界の制御だとか維持だとか、面倒だし、魔物を倒したり、村を回ったりするような面倒だ。だから、全部姉に任せることにして、私は、好きにしようと思う。

姉も好きでやっているみたいだし、ちょうどいい。

…そう思っていた。

あの日、あの方を見るまでは。

それは、周辺の国との親睦を深めるためのパーティーが行われていた。

開催場所が、この国だったのは幸運だった。

おかげで、私はあの方に出会うことが出来たのだもの。

多くの人間がいる中で、ひときわ輝いて見える男性。

それは、まるで、夜空に輝く一等星。

女性の視線どころか、男性の視線すら集めてしまうほどの美貌。


「あの殿方は、どなたです」

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