RTRT

ノーネーム

第1話 中華料理を食べに行こう

ある街。俺の住む街。ひたすらに暇な俺は、街の様子でも見てみようと、外へ出る。

基本どこに行っても、見知った場所しかないのだが。とりあえず歩く。

すると、一軒、前から通り過ぎてはいたが、

特に気にかかるでもない寂れた中華料理屋が目に入った。

丁度、昼か。腹、減ったな。入ってみるか?

入ってみるか。暇だし。

俺は、「営業中」と書かれた看板を確認し、扉を開けて中へと入っていった。

「いらっしゃいませー」

店に入ると、片言の日本語の挨拶が飛んできた。これは期待できる。本格中華を。

さて、中国の人っぽい従業員の女性が、俺の座る席に水を運んでくる。

店内はすごい雑然としている。

照明なんて、ついてんだかついてないんだかわからんくらい薄いし。

エントランスから入る自然光で照らされた店内には、俺以外にも何人かの客がいるようだ。

その時、一人の常連客っぽいおっさんが俺に話しかけてきた。

「兄ちゃん」

「はっ、はい?」

「悪いことは言わん、帰んな。」

「え?」

「中華が食いたいんなら、帰って近所のラーメン屋でも行ってきな。」

「どういうことですか…」

何を言われるかと思ったら、帰宅を命じられてしまった。

しかし、そんな訳にはいかない。

「他のお客のみなさんも、同意見ですか」

「…」

他の客たちも無言で手を上げる。噓。なに、一体なんなのさ。

おのれ、こうなったら何が何でも食ってやる!

「オーダーお願いします!」

「はーい。」

店員がやって来る。さて、

「ラーメンと麻婆豆腐、それとライスお願いします。」

「ラーメン、麻婆豆腐ね。」

「はい。」

女性は厨房に消えていく。

「オーダー、(中国語で)ラーメン、麻婆豆腐!」

「(中国語で)‼」

おっさんを見る。

「兄ちゃん、マジか…」

「解りました。あなたはここの料理があまりにも美味いんで、

これ以上新規の客を増やしたくないんだ。

ここは味が発覚すれば行列ができるほどの隠れた名店と見た‼」

「まぁ、今にわかるさ。」

おっさんが不敵に笑う。…ふっ、何でもいいさ。これから本格中華を堪能してやる。

数分後、テーブルに料理が届けられる。来たッ。

「いただきます。」

麻婆豆腐を一口、食う。…この味はッ‼ 普通だ。普通に美味い。あれぇ?

「じゃあ、なんで?」

「お前、幻覚って見たことあるか?」

「幻覚…?」

「そう。この店は中華・ジャンキーの終着点。

中華の味を追い求めし者どもの最後の地よ。」

「はぁ?」

「俺たちは、もうただの香辛料、素材じゃ満足できないのだ。」

「いや、これどう食っても普通の中華…」

「すでに、耐性のない常人のお前の体には耐えきれぬ、

中国最奥部の秘伝のスパイスが神経系を回っておるわ。」

「んな、アホな」

食い終わって数分待つが、俺の意識と体には何の変化もない。

「ごちそうさまでしたー。」

レジに立つ。会計を済ませる。

「じゃ、美味しかったでーす。」

店から出る。ふと、振り返る。あれ?店の看板が「準備中」になってる。

どうなってんだ、これ。まぁ、いっか。

数週間後、俺は気付く。その店はとっくの昔に、閉店していたことに。

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