聖女は今日も神に祈る

桐原まどか

聖女は今日も神に祈る



アルシナア王国の首都・レセ。

そこの王城に作られた礼拝堂で、今日も聖女・シイナは早朝の祈りを行っていた。

―神様、どうかどうか…。

カッと目を見開く。

「いいかげん!王族との婚姻とか、美味しいイベントないんですか!!」

―思い起こせば、十二の歳に、突然「聖女だ」と告げられ、家族と引き離され、あれよあれよのうちにここに連れてこられた。

それからは魔法の勉強、聖女としての振る舞いの特訓…。

国民には決して知らされない、聖女の苦労。

笑顔の影には涙がある。

そうやって、したくもない努力をし(シイナはそもそも、親の工房を継ぎ、染織家になるのが夢だった)、いまや他国からも存在を注視されるまでの能力を得た。だから…。

「今度はわたしのターン!何かしらの良い事、ちょうだい!」

ガランとした礼拝堂にシイナの絶叫が響く。

この時間、礼拝堂には近付いてはならぬ、とお触れを出してあるので、安心して、心のうちをさらけ出せる。

―神様、どうかどうか…王族との婚姻が良いです。贅沢は言いません。第二王子のべゼ様が良いです。

彼のあの美しい空色の瞳。優雅な立ち居振る舞い。分け隔てのない優しさ…。

実はシイナは、第二王子のべゼに恋焦がれていた。当たり前だ。

彼女とて、素顔は十七歳の乙女。

甘酸っぱい恋に憧れるのも必定であろう。

―あぁ、神様、神様、何卒…。


ゴーン!と鐘の鳴る音に、現実に引き戻された。朝、六時を報せる鐘だ。

―禊にいかなくちゃ…。

最後にもう一度。

―神様、どうぞよろしく。

念押しし、シイナは禊へと向かった。

今日もまた聖女としての忙しい一日が始まる。

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聖女は今日も神に祈る 桐原まどか @madoka-k10

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