第5話 猫を探してゴミを拾って…
こうして、何でも屋のバイトは始まったが、この1週間でやったことと言えば、家出猫を探すことと、善意での公園や街中のゴミ拾いだけだ。
その間、清子は一度も来なかった。このバイトの概要がわかるやいなや、あからさまにがっかりし、超能力を使って面白いことをする時以外は呼ぶなと吐き捨てて出ていった。(気持ちはわかるが、時給も高くて、ことあるごとに手当もくれて、ご飯も食べさせてくれる最高のバイトなのに、もったいないなと僕は思う。)
それを聞いてキャプテンは、元々が望まぬ採用だったので安堵していたが。
バイトが始まってから、変わったことがあるとしたら、殺風景だった部屋の中にインテリアが飾られたことぐらいだろうか。入口から1番遠い場所(正面)にワークデスクが2台、入口を入って左側に更に2台。それぞれ横並びに置かれている。そして、右には来客用のテーブルセットとテレビが置かれた。
座席は、固定で、入口に近いところから、清子、僕、空席、キャプテンだ。この 空席について、まだ追加採用があるのかと聞くと、キャプテンはいつものように嬉しそうに説明してくれた。
「ここは、もう座る人が決まってるんだ。いつ帰ってくるかわからないけど、いつか君たちに紹介できたら嬉しいな。だから、残念だけど、僕のサイドキックや椅子の男になりたいと思っているなら、早々に諦めた方がいい。相棒は何が何でも彼だからね。」
とにかく、なんらかの理由で今はいないが、いずれは戻ってくる人がいるらしい。最初に見せられた写真に写る黒髪の少年のことだろうか。
そして本題。今日のバイトの内容は、この間とは違う公園のゴミ拾い。
テレビを消して、キャプテンと共に事務所から出る。
公園に着くと、キャプテンが「ちゃんと許可もらったから。」とチラシの束を渡してきた。今日は、ゴミを拾いながらチラシを配るようだ。ゴミを拾ったそばから、ゴミを生産することにならなければいいのだが…。
ひとまず、チラシ配りはキャプテンに任せて、僕はゴミ拾いに徹することにした。
ベンチの足に溜まっていたゴミやら、葉っぱやらをしきりにかき集めていると、「しゅんちゃん!だめ!危ない!!」という女の子の叫び声が少し遠くの方から聞こえた。その瞬間、何か固いものが勢いよく僕のお尻に突っ込んできた。
「ぐわあ。」情けない声をあげ、前につんのめると、声の主である、高校生ぐらいの女の子が、駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさい。だ、大丈夫ですか?…大丈夫では…ないですよね…。うわ、怪我とかしてないですか…?」
だいぶ動揺していたが、僕が大丈夫だよと笑ってみせると少し落ち着いたのか、僕に突っ込んできた塊…車椅子に乗った男の子、おそらく“し
ゅんちゃん”に向かって怒り出した。
「しゅんちゃん!一人で漕いじゃダメだって言ったじゃん!その結果がこれだよ。人に怪我させたらどうすんの!?」
怒られても何も返さない“しゅんちゃん”は、サングラスをしていて、その目をぎゅっと固くつぶっていた。また、口も、目と同じぐらい固く閉じ、このまま泣き出してしまうんじゃないかと不安になる。
「まあ…。僕も無事だったので気にしないでください。」
そういうと、女の子は、申し訳なさそうに、何かあったらこれに連絡してくださいと連絡先を教えてくれたので、代わりに僕も事務所のチラシを渡した。
「困ったことがあったらなんでも相談してくだい。相談だけなら完全無料なので。」
女の子は、何度も頭を下げて帰って行ったが、“しゅんちゃん”は相変わらずだった。
そんな痛い出来事もあったが、ゴミ拾いもチラシ配りも終えて、事務所に帰る。それから、不謹慎だが、ヒーローっぽく出動できる事件はないかと、ニュースを見ながら、キャプテンとテイクアウトした牛丼を食べた。そんな今日のニュースは、なかなか物騒だ。目玉をくり抜かれた男子高校生の死体が発見されたという。
なんとなく、“しゅんちゃん”が思い浮かんだが、被害者の名前に“しゅん”はついていなかったので、ホッとした。
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