第6話

 翌朝のニュースは街に現れたグリズリーで持ちきりだった。

 新聞配達員が襲われ多くの死傷者が出ている。当然、学校の生徒達はもちろん、俺達教職員にも外出禁止令が出た。

 警察、自衛隊、猟師が出動するもグリズリーには敵わないようだった。今やつはスーパーに立てこもっているらしい。テレビではヘリコプターからの映像が延々と流れている。

 呆然とテレビを見ているとスマートフォンが鳴った。馬場先生からの着信だ。

「馬場先生、どうしました?」

「あ、佐伯先生! テレビ見てます?」

 パニックに陥っているのか、声が裏返っている。

「ええ、グリズリーですね。全然校長先生の言うことを聞いていない。大惨事ですね」

「どうしよう。私達大変なことしちゃった」

「猟師も手こずっているようですね。すでに何人かやられている」

 そうだ。これは俺達が招いた惨事だ。そう思うと胸が痛んだ。

「佐伯先生どうしましょう。校長先生には電話繋がりません。これ私達名乗り出た方がいいですよね?」

「ちょっと待って下さい! 名乗り出たところでグリズリーを何とか出来る訳ではありません。その辺もうちょっと慎重になりましょう」

 そう言って諭すと馬場先生はいくらか落ち着いたようだ。

「そうですよね。ああ、もう本当どうしよう」

「でもこればっかりは……とにかくグリズリーが民家に侵入しないとも限りません。馬場先生も戸締まりとか避難とか、身の安全を優先して下さい」

「はい、そうします」

 電話が切れると、俺はしばらく眠った。現実逃避だ。今や俺達にできるのはこの事態に収拾をつけてくれる救世主が現れるのを待つだけだ。


 *


 目が覚めると夕方になっていた。なんとなくネットニュースを見ると、なんとグリズリー騒動は収まっていた。

 顛末はこうだ。グリズリーと猟師達のこう着状態は続いていたが、スーパーで立てこもっていたグリズリーが建物から出て来たところ、円盤状の未確認飛行物体が飛来し、謎の光線を熊に浴びせ動きを止めたらしい。猟師達はその隙にグリズリーを仕留めたという。ニュースではアナウンサーが盛んに「今日は宇宙開国記念日です」と言っていた。

 結果的にグリズリーは射殺された。我々はあの熊の命を弄んだ、という事実が重くのしかかった。そして出所不明のグリズリーは校長の個人輸入ではなく、アメリカの貿易船に侵入していたものが人知れず街に潜んでいたことになっていた。(一体誰が信じるのか)

 とにかくこうして、グリズリー騒動は多くの犠牲者とそれを見かねた宇宙人の協力をもって収束してしまったのだ。

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