第41話:パパに会う
***
結論から言うと、ブゴリは無事に保護した。
復活したララティが探索魔法を使うと、クォッカを倒した階層の奥に隠し部屋があって、そこに彼が幽閉されているのを見つけ出した。
衰弱していたけど命に別状はなくてよかった。
「ありがとう! ありがとうフウマ!」
とても感謝してくれた。彼のことをすっかり忘れてたのは、もちろん内緒だ。
俺とララティはブゴリを家まで送り届けてから帰宅した。
ララティと共に家の中に入ると、早速二人が出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん!」
「おかえりなさいませフウマ様!」
「ただいま」
何気ないいつもの風景って、とても貴重でありがたいんだな……って思う。
「あれっ……フウマ様。ララティとの距離感が近くありませんか?」
「そ、そうかなぁ……」
二人並んで部屋に入ってきただけなのに、レムンは鋭いな。
「そうだよ。あたしとフウマは愛し合ってるからね」
おいおい、何を言い出すんだよ!?
「え? 嘘でしょ? 嘘ですよねフウマ様」
ふと横を見ると、ララティがめっちゃ睨んでた。
いやちゃんと事実を言うから、そんなに睨まないでよ。
「えっと……ホントだよ」
「がーんっっっ!」
自分で擬音を発して、レムンはわかりやすく落ち込んだ。ごめん、レムン。
カナは嬉しそうに「やった!」ってガッツポーズ。
いったい何がやったなのかわからないけれども。
さて、眷属の呪いがなぜ解除されたのか。
ララティが分析したところによると、偶然が重なったおかげだと言う。
感情が爆発した俺の魔力が極限まで高まった。
その俺から流れ出た涙とキス、そして激しい愛の感情が同時にララティの身体に降り注いだ。
そのせいで極めて強力な解除効果が発動したようだ。
まあいずれにしても眷属の呪いは解けたし、魔族の男は倒したし、ブゴリは無事に見つかったし、ララティと俺は両想いだってわかったし。
こりゃもう絵に描いたようなハッピーエンドだな。
めでたしめでたし。
──と思っていたら。
「なあフウマ。お願いがあるんだけど」
「ん? なに? なんでも言ってくれよ」
今の俺は気分がいい。ララティのお願いならなんでも聞けるぞ。
「あたしのパパに会ってほしい」
「ララティのパパ……」
「うん」
「つまり、それって魔王さま?」
「うん」
そんなニコニコ顔で「うん」と言われましても。
さっきはララティのお願いならなんでも聞けると思ったけど、魔王はダメでしょ。怖すぎる。
でも一応、意図は聞いておこう。
「なんのために会うの?」
「だってあたしとフウマはこれから付き合うんだよね」
「ん、そうだね」
両想いだってわかったんだ。そりゃ付き合いたい。
「じゃあパパに挨拶して報告して、許可をもらわないと」
「そういう感じ?」
「うん、そういう感じ。黙って彼氏作ったりしたら、ウチのパパ、たぶんキレまくるよ」
「キレまくる?」
「うん。ウチのパパは怖いからね。限界までキレたら、この世界を滅ぼしちゃうかも」
ええぇーっっっ!?
俺がお父様に挨拶しなかったばかりに世界が滅亡?
ちょっと待ってくれ。
そんな
マジ逃げ出したい。
「フウマ。あたしの唇まで奪っておきながら、まさかこのまま逃げようとしてない?」
うわ……あのキスがそんなに重いものだったとは。
って言うか、キスのおかげでララティは自我を取り戻せたんだよね?
「うふふ冗談よ」
「冗談か。ホッとしたよ。マジで魔王に挨拶に行くのかと思った」
「パパに会ってもらうのは冗談じゃないよ。このまま逃げるのかとか、パパがこの世界を滅ぼしちゃうかも、ってのが冗談だって」
「え? ……ああ、そうなんだ」
ララティのパパ、つまり魔王に接見しないといけないのは、どうやらララティにとっては既定路線なのか。
これはもう覚悟を決めるしか仕方がない。
「わかったよ」
「ありがとうフウマ。じゃあ早速、明日行こう」
「ええ〜っ!? あ、明日!? もう少し先にしない? だって心の準備が……」
「先延ばししても一緒だよ。早く行こう」
なぜかとても嬉しそうなララティの顔に、思わず「はい、わかりました」と答えてしまった。
ある意味、俺の方がララティの眷属なのかもしれない、なんてことが頭をよぎる。
そんなこんなで、俺は魔王に会いに行くことになったのである。
***
魔王が住む魔王城は、ここから遠く離れた北部地方にある。そこまでララティの飛行魔法を使って移動した。
道中、ララティに抱えてもらって空を飛びながら、魔族のことを詳しく聞いた。
それによると今の魔王、つまりララティの父親は即位してから50年。人間を襲わない方針でやってきたそうだ。
しかし最近になって魔王の方針に納得しない過激派が、勢力を広げつつあるらしい。
そこで魔王は自陣の戦力強化のため、古代魔法を手に入れようと『呪いの書』を探すことを娘に命じた。
1年以上かけてようやくそれを見つけたのだが、ちょうどそのタイミングで俺がそれを手にして、誤って眷属の呪いをかけてしまったということらしい。
改めて事情を聞くと、大変申し訳ないことをしたとしか言えない。ホントごめんララティ。
ところで反対勢力は徐々に勢力を伸ばしつつあるのだが、さすがに魔王は強すぎてなかなか攻めるのが難しい。
そこで娘のララティが魔王の急所だと判断した反対勢力が、色々とララティに探りを入れてきている。
そういう状況らしい。
「そんな大変な状況なのに、俺と付き合うとかお父様にご挨拶とか……そんな呑気なことしてていいのか?」
「いいの。『呪いの書』も手に入った。それにフウマもあたしたちに協力してくれたら、反対勢力なんて怖くない」
と言われても俺はちょっと怖い。
だって魔族って、やっぱめちゃくちゃ強かったんだもん。あんなヤツらと今後も戦う可能性があるのはやっぱり怖いよ。
「さあ、そろそろ着くぞ。あれが魔王城だ」
うわっ、立派な城だな。
上空から見ても魔王城はデカい。
しかもデザインがおどろおどろしいというか、いかにも魔王城というか。
色合いもダークだし、見る者をビビらせる圧がすごい建物だ。
魔族と戦うのも確かに怖い。
だけどその前に、魔王に「娘と付き合わせてください」って頼む、超怖いミッションが待っている。
──とうとう着いちゃったよ。
俺は思い切りビビりながら、ララティの後をついて魔王城の中に足を踏み入れた。
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