第40話:ララティをバカにするな
「おいおいお前らなにやってんだ? 俺を忘れてやしないか?」
それまできょとんとしてたクォッカが話しかけてきた。
そうだった。あまりに悲しくて頭から抜けていたけど、俺はこの魔族を倒さなきゃいけないんだった。
ホントに俺にできるだろうか。
──いや、待てよ。
ララティは自我を失ったけど、死んだわけじゃない。眷属として、俺の配下にある。
ということはつまり、ララティに命令してクォッカを攻撃することもできるってことだ。
ララティの顔を見た。
無表情のまま立ってる。たぶん俺の命令を待ってるんだ。よし、ララティに命令して……
──いやダメだ。
魔力を消耗する結界のせいで、ララティは弱ってる。
こんなララティに戦わせたら、きっとやられてしまう。例え勝てたとしても、身体中にキズを負ってしまうことは間違いない。そんなことはさせられない。
「やっぱり俺がお前を倒す!」
「ほお、面白いことを言うな。やってみろ小僧」
さっきはまったくコイツに歯が立たなかった。
だけど今度は渾身の一撃をぶち込んでやる。
絶対に倒してやる!
──と、その前に。
「ララティ。危険のない所まで下がっておいてくれ」
万が一ララティにとばっちりがいかないように。
「はい、わかりました」
無表情なまま移動して、俺から距離を取るララティ。これで良しだ。
さあこれで心置きなく攻撃ができる。
俺の人生で最大の攻撃魔法を発動させるんだ。
深呼吸をして精神を集中する。
身体中から魔力が溢れるのを感じる。
でもまだまだだ。まだ魔力を集めることができる。
「さあ小僧どうした? 口だけか? ほらやってみろよ」
さっきは俺の攻撃魔法を受けてもコイツはまったくノーダメージだった。だから高をくくってるんだろう。
逆にチャンスだ。さっきの何倍もの威力を発動させてやる!
「
俺は溜めに溜めた魔力を一気に開放して、最も得意な火の玉魔法を発動した。
ギュオンと音を立てて、俺史上最大の火の玉が手のひらから飛び出した。
それは一直線にクォッカに向かって行く。
「うぉっ、なんだこれは! デカい!」
驚いて目を見開いたクォッカを火の玉が包む。
ふふふ、今さら驚いたってもう遅いぞ。
「ぎゃあぁぁぁぁっっっ!」
やった!
倒したか!?
火の勢いが収まり、クォッカの姿が目に入った。
「おおっ、びっくりした。なかなかやるじゃないか小僧」
──なん……だと?
身体中すすだらけで真っ黒になっているけど、ダメージはそれほどでもないようでピンピンしてる。
俺の渾身の一発がほとんど通じないなんて。
「今度はワシの番だな」
これはダメだ。殺される。
まったく通用しないなんて、俺はなんてダメなヤツなんだ。やっぱ落ちこぼれだな。
でも、まあいいか。俺が殺されたら、ララティが元に戻るなら。
「ところで小僧。魔王の娘が何やらおかしなことになってるようだな」
クォッカは、少し離れたところで無表情のまま立っているララティに目を向けた。
「ボーっとしてるが、魂が抜けでもしたのか?」
「うるさい。お前に関係ないだろ」
「何が起きてるか知らんがどうやら図星のようだな。あはは、笑わせるぜ。あの女、俺をバカにしやがって、いい気味だ」
「うるさいって言ってるだろ。ララティを笑うな! もう黙ってくれっ!」
ヤツの下卑た笑い。ララティをあんな下品な男にバカにされるのは我慢ならない。ムカついて仕方がない。
「あはは、魔王の娘はなにを言われても無反応だな」
ヤツはさらに、背筋がぞっとするようないやらしい目つきで、ララティの全身を舐め回すように見た。
くそっ! ホントに許せない!
「ほら小僧。今がチャンスだぞ。エッチなことをし放題だ。ギャハハハハ!!」
ヤツのこの言葉で、俺の頭の中でプチンと、何かが切れるような音が鳴った。
ララティを言葉で凌辱するようなコイツだけは、マジ許せない。
絶対に許せない。ぶっ倒してやりたい。
身体の中から、何かすごく大きな力が湧き上がる。
今までに体験したことのない感覚。
怒りの感情、悲しみの感情がごっちゃに渦巻き、それが元で魔力や、なにかよくわからない力までもが激しく膨張する。
体内の力が大きくなりすぎて、このままだと身体が破裂しそうだ。
──早く放出しなければ。
そう思った瞬間。
体内の大きな力が眩ゆい光となって全身から飛び出し、クォッカに向かって飛んでいった。
それは一瞬だった。
光が当たった瞬間、ヤツの身体は蒸発するように消え去った。
あれだけ強かったヤツが、一瞬で消え去った。
やった。倒せた。
あたりを包んでいた嫌な「気」が晴れていく。
ヤツが張ってた結界が消えたせいだろう。
「あ、そうだ。ララティ」
彼女はさっきから変わらぬ無表情で立っていた。
彼女の近くに駆け寄る。
「ごめんなララティ。俺、死ななかったよ。そのせいで、キミを元に戻してやれなかった。ホントごめんな」
ララティは無表情のまま何も言わない。
こうなったのは俺のせいだ。助けられなかったのも俺のせいだ。
そう思うと悔しくて悲しくて、つい彼女をギュッと抱きしめた。
ララティは何も言わずに、ただされるがままにしている。
そんな彼女があまりに愛おしくて悲しくて。
俺は我慢できなくて、唇を彼女の唇に重ねる。
こんなに愛おしいのに、ララティは自我がない。
そう思うと、キスをしながら、両目から涙がぶわっと溢れ出した。
俺の頬を伝った涙があごからこぼれ落ちて、ララティの顔にかかる。大量の俺の涙がララティの顔に降り注ぐ。
──ん?
唇を離して彼女の顔を見た。
涙が落ちたところの彼女の肌が、なんと色味を帯び始めた。そこからどんどん色味が広がっていく。
いったい何が起きているんだ?
どんどんどんどん色味が全身に広がっていく。それと同時にララティの顔には表情が戻った。
「フウ……マ?」
「ああ。フウマだよ」
「記憶が飛んでる。あたし、いったいどうなって……?」
「ちょっと見せてよ」
ララティの手を取って、甲を見た。
眷属の証が綺麗に無くなっている。
「ララティ! 眷属の呪いが解けてる!」
ララティは自らの体内に意識を向けて、確認してから驚いたように呟いた。
「あ、ああ。ホントだ」
奇跡だ。奇跡が起きた。
何をどうやっても解除できなかった魔法が、なぜか綺麗に解けてる。
「やった! よかった! ララティ!」
「ありがとうフウマ!」
俺たちはそれからしばらくの時間、抱きしめ合った。
そしてふと思い出した。
「そう言えばブゴリはどこにいるんだろう?」
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