第34話:ダンジョン探索へ
***
翌朝。早起きをして家を出た。
玄関先までカナとレムンが見送りに出てきてくれた。
「気をつけてねお兄ちゃん、お姉ちゃん」
「うん」
「ありがとうカナちゃん」
「行ってらっしゃませフウマ様」
「ありがとうレムン」
二人に別れを告げて、俺とララティは「ブゴリに化けた魔族が潜入していそうな場所」を目指す。
広大な森の奥深くにあるダンジョンらしい。
そこは我が家から結構な距離があるんだが、瞬間移動魔法は術者本人以外は移動させられないらしい。
もしかして歩いて行くのか?
毎日1時間歩いて通学している俺にとっても、歩くには結構辛い距離だぞ?
──と思ったら。
「あたしがフウマを抱き抱えて、飛行魔法を使おう」
「あ、それは助かる」
その手があったか。
俺たちは家の前に出た。ララティが俺の背中から手を回して、腰を抱き抱えた。
背中に彼女の身体が押しつけられる。
スリムな体型から想像するのとは裏腹に、柔らかく温かい感触が背中に当たる。
俺の頭のすぐ後ろにララティの顔があって、彼女の髪の毛がふわりと顔を撫でた。少しくすぐったくて、いい匂いもする。
ヤバいぞ、この距離感。この感触。
「準備はいいかフウマ。飛び上がるぞ」
「……あ、うん」
こんな体勢のまま空に飛び上がるなんて……
違う意味のドキドキが二つ合わさって、ちょっと刺激が強すぎだぞ。
「
後ろからララティに抱き抱えられたまま、身体がふわりと浮いた。どんどん高くなる。
そこからは、ララティに抱きしめられてドキドキ、どころではなかった。
──こわっ! 空飛ぶのって、気持ちいいけどこわっ!
***
森の奥深くのダンジョン入り口に着いた。
陽の光がほとんど届かないほど、深く覆い茂った樹々。暗くてジメジメした場所にそれはあった。
地面から突き出した岩の真ん中にぽっかりと開いた穴。
中からいやーな感じの
「魔族は人間社会の近くで、人間達が認知していない場所を狙って拠点を作ってる。人間社会を探ったり、攻撃するための拠点だ」
「そんなのがあるのか。全然知らなかった」
事実を知って恐怖で身体がぶるっと震えた。
「全国に何ヶ所かそういう場所がある。でもこの地方ではここだけだから、ヤツらがこのダンジョンに潜んでる可能性は高い」
「なるほど」
淡々と答えたけど、心の中ではビビってる俺。
だってこのダンジョンの中には魔物や魔族が潜んでいる可能性が高いんだよな。
「じゃあ入るよ」
「あ、ちょっと待って! 心の準備がっ!」
躊躇してるのを見抜かれたか、ララティは俺の手首をギュッと握って、ダンジョンの中に俺を引っ張る。
「大丈夫だフウマ」
仕方ない。ララティのためだ。
ここは覚悟を決めよう。
***
ダンジョンの中は意外と天井が高く、広い感じがした。
俺の人生初ダンジョンだ。
ダンジョンってのは色んな種類があるらしく、中には草木が茂ってるものや生き物が豊富に生息しているのもあると聞く。
ここはそういうタイプではなく、周りはごつごつとした岩で、所々に苔は生えているが草木はほとんどない。
「収穫できるようなものがないダンジョンの方が、人間が入ってくる可能性が低いからな。魔族はそういうところを狙って拠点化するのだよ」
なるほど。それにしてもまだ一層目なのに、嫌~な空気が漂っているな。
いつなんどき魔物が襲ってくるかと思うと、つい身体がこわばってしまう。震えてしまう。
実戦なんて初めてだから、怖くてしかたない。
「フウマ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。ここはまだそんなに強い魔物はいない」
「そ、そうだね。わ、わかってるさ」
「……ぷっ」
「ああっ、笑ったなララティ!」
「ごめんごめん。へっぴり腰になってるのがあまりに可愛かったもので」
「か、可愛い? 悪かったなヘタレで」
つい腹が立って、ぷいと横を向いてしまった。
「あ、ホントにごめんフウマ。可愛かったのはホントだけど、失礼なこと言ってしまったな」
「あ、いや。別にそれほどでも……」
ララティは申し訳なさそうに眉を八の字になってる。
俺はそこまでムカついたわけじゃないのに、こちらこそ申し訳ないことをした。
「でもそんなに怖いのに、あたしのために、実戦に挑もうとしてくれたんだよね。勇気を振り絞ってくれたんだよね」
ララティが両手で俺の両手を握った。
とても澄んだ綺麗な目で俺の目を覗き込みながら「ありがとうフウマ」と付け加えた。
そんなララティの姿に、胸がきゅんと甘酸っぱくなる。
なにやってんだよ俺。
ララティのためにがんばろうって心に決めたはずだろ。
なにビビってんだ。情けない。
そう思ったら身体の震えが止まった。
緊張も解けて、いつも通りに戦えそうな気がしてきた。
「こちらこそありがとうララティ。おかげで落ち着いたよ。さあ行こう」
俺の言葉にララティは頬んでくれた。
もう大丈夫だ。ララティの自我亡失を防ぐために、もう時間を無駄にするわけにはいかない。
そう思いながら、ダンジョンの中を進んだ。
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